腱鞘炎奮戦記その3   足裏腱膜炎の話

甲斐素直

 私はどうも腱鞘炎につきまとわれているようです。以前からキーパンチャ病やテニスエルボーに悩まされていましたが、今度は足底腱膜炎にかかりました。足底腱膜とは、足の底の、土踏まずと呼ばれるアーチ状の構造を弓とするならば、弦にあたる役割を果たしている腱ですが、足の幅一杯に膜のように広がっていますから、腱膜と呼ばれます。ただし、踵の骨に対してはただ一箇所でつながっています。
 異常は、長時間に渡って革靴を履いて歩いたときに、足の裏全体がうずくという形で感じ始めました。そのうち、毎日夕方になるとびっこをひきひき歩くほどに痛みだしました。そこで、同じ革靴でも、底が厚いゴムになっているものを履いてみたところ、皮よりはましです。しかし、その対策の効果も長くは続きませんでした。やがて、ジョッキングシューズを履いていても走ると踵に激痛が起こるようになりました。最後には、そっと歩いても、痛んで辛い、という段階に達したのです。
 痛みがひどくなるに従ってだんだん症状が固まってきて、踵の骨が真ん中辺で割れているか、ひびが入っているような気がしてきました。そこで、かかりつけの医者に行って、レントゲンを撮るなどして調べてもらったのですが、何の異常もない、というのです。先に、足裏腱膜は、踵の骨にはただ一箇所でくっついていると述べましたが、その部分が炎症を起こしたので、踵の骨にひびが入っているような錯覚を伴う痛みが起きたというわけですが、その様な炎症は、骨そのものが変形するほどひどくならない限り、レントゲン写真には写りません。
 突破口が開けたのは、ある意味では偶然です。下手の横好きのテニスは、足がひどく痛むようになってからは自粛していました。しかし、暫く会っていない友人から誘われたので、我慢できる限り付き合うかと出かけたところ、2時間連続でプレーしたのですが、そう痛まなかったのです。
 それはテニスシューズの持つ性能のおかげでした。ご存じの方も多いと思いますが、テニスは手ニスではなく、足ニスだといわれるほどに足への負担が大きいので、それを減少させるために、靴には優れた衝撃緩和性能が与えられているからです。そこで翌日から、さっそくテニスシューズで通勤してみたところ、予想のとおり、夕方になってもあまり痛みません。ただ、白いテニスシューズを背広の下に履いて通勤するのは、いかにもミスマッチで、どうしても目立ちます。そこで暫く連続して履いた後、また革靴に切り替えようとしたのですが、たちまち痛みが戻ってきてどうにもなりません。泣く泣く革靴は始末し、出来るだけ黒っぽく見えるテニスシューズを買わざるを得ませんでした。
最初に足底腱膜炎と書きましたが、その病名が判ったのは、かかりつけの医者では判らなかった時から、1年近く経ってからです。テニス仲間に、腱の炎症の類は整形外科に行くものだと教えられ(その程度の常識も、私は持っていなかったのです)、専門医に行ったところ、一度で診断が下ったわけです。治療法としては、私のように慢性になっている場合には、衝撃緩和性に優れ、土踏まずにそってアーチの良くついた靴を履くことが基本です。また、根気よく、アキレス腱及び足の指を曲げてのストレッチングをしつこく繰り返すこと、それに昔からの割竹踏みをすることが役立つようです。