『月学概論』

・・・ある日のカテリナ学院・・・

「しばらく宮下先生の代わりに臨時講師が来るって」
「誰なんだろう・・・」
「かなりの知識を持つ方と聞いています」
(扉が開く)
「私です、太陽系国家技術軍事顧問の
「なんか難しそうな役職名ね」
「でもやっぱりこの人なのね、遠山さんは悲しい」
「というか、この人って言わないで欲しい(:^-^)」


その1:月

 「夜明け前より瑠璃色な」(以下「あけるり」)の基本テーマとなるのが「月」
 まずは「月」の基本データを覚えておきましょう。

直径約3476km(地球の4分の1)
質量地球の81.3分の1
地球からの距離36万3300km〜40万5500kmの間で変化
重力地球の0.166倍(6分の1)
表面温度140度〜−150度
大気百万分の1気圧以下なので無いに等しい。
地形クレーター無数、他に溶岩が広がった跡あり。
生命なし(現在のところ)
月の一日27日と7時間42分(平均)
その他月が地球を回る時間と月自身が回る時間が同じため、地球からは月の片側しか見えない

  こんなところです。
  それでは、あけるり世界での月はというと・・・
 
  フィーナ姫は「荒野ばかりの月も・・・」と嘆いてますが、荒野ですら現在の月の状況を考えると上記の通り。
  そのため、月ではドーム状のエリアをいくつも造り、そこに重力制御装置やら環境調整装置やらを働かせて生活をしています。
  エリアとしては「都市エリア」「農業エリア」とかいう感じに分かれていて、オイディプス戦争で放棄されたエリアも結構あることでしょう。
  *ドーム以外の場所は元のままの状態。
  この月のシステムは90年代にアメリカで実験された閉鎖生態系「バイオスフィア2」を発展させ、半永久的に生活を可能にしたものです。
  (月の「スフィア」王国とは、この「バイオスフィア」から取ったものでしょう、初回特典のサントラも「バイオスフィア3」ですしね。)
 
  次に自転周期ですが、1日が地球の27倍以上もあるのでこれをどうにかする必要があります。
  結局これは普通に「昼約14日、夜約14日」ということにしていますが、生活リズムとかは大丈夫なのかかなり心配です。
 
 この完全な閉鎖生態系こそがスフィア王国なのですが、これを約700年続ければどうなるか。
 補給もなく、閉鎖された空間内で得られる生物資源(食料等)はどう頑張っても上限が決まってしまいます。
 (水や酸素は月から採れる鉱石から手間はかかりますが、採取することは可能です。ですが生物の根本となる炭素はそうもいきません)
 これが何をもたらすか、まず「人口の停滞」です。上限が決まっている以上養える人数は一定。よって人口も一定。
 そして医療は現代並なので「高齢化」が著しく進行し、それに伴って社会も活力をほとんど失っているのではないでしょうか。
 さらに、閉鎖生態系という有害細菌や生物を排除した「温室」で育った月人達は極めて抵抗力が弱くなっているはずです。
 (フィーナとミアが検査に行ったり、さやかが検査されたのもこの問題から)

 高齢化・少子化による活力のない社会、長い閉鎖生態系の維持がもたらす極めて脆い月人。
 極度に閉鎖された社会がもたらす序列優先、利権優先の進歩も改革もない社会構造。
 ・・・それがスフィア王国の正体です。

「確かに・・・そうだけど」
「普通ここまで言う?」
「月のお姫様の目の前でこんな事話せる人って一体何者?」
「私です( ・・)/」

 さて、次はスフィア王国の社会構造に入りましょうか。

 スフィア王国は大きく分けて
 *鍵(その正体はトランスポーター起動装置)を持つ国の象徴としてのアーシュライト王家
 *ロストテクノロジーを運営する教団「静寂の月光」(スフィアではロストテクノロジー自体が「神」のような存在なのでしょう)
 *土地(といってもドーム内ですが)と官職を握る貴族
 これら三者が国家を運営しています。(国民選出の議会はない模様)
 まあ、議会制民主主義からすると「遅れた」制度ではあります(フランス大革命以前の身分制度に近い)
 そしてスフィア国民(せいぜい数十万人の桁か?)は教団に管理され、常に暗い空を眺めながら暮らしていることでしょう。
 
 この封建的身分制度は閉鎖生態系にして統一国家の月にとっては実にありがたい制度です。
 オイディプス戦争によって外部からの人や情報の流入を断ってしまった月では、何よりも国を維持することが重要。
 発展する余地も技術も失われ、生産力も限定された状態では国を下手に動かしたり、内乱など起こそうものなら即・滅亡です。
 そんな状況下では固定された身分制度は「国家の維持」においては極めて有効だったりします
 もちろんこれは身内をかばいあい、利権漁りに走り、一族で固める内向き社会との引き換えですが・・・
 セフィリア前女王が留学生を地球から呼んだのはこの内向きな、700年近くも続いた極端な閉鎖社会の打破が目的だということがわかりますね。
 そして彼女が失脚したのも「改革を望まない」(現状に安住する)抵抗勢力と化した貴族との対立だということも。
 (遺跡は理由の一つにしか過ぎません、というよりも遺跡なんていう貴族から足を掬われることが判り切ってるものを出したセフィリア前女王が迂闊です)
 

 「セフィリア様を『うかつ』と?」
「留学や交流を基礎に国内改革に着手し、足元を固めてから動くべきだった
それがセフィリア前女王自身が遺跡調査する。スフィアに人材がどうしようもなく払拭している証拠です」
「そ、そんなことないっ!現にこの私がいる」
「ではカレン武官に質問、大使館の武官の貴方ですが、スフィア王国の地球連邦大使を見たことあります?」
「・・・・・・・・・・」←絶句
「そもそも、一武官である貴方が、あらゆる行動において動き回る、それが人材不足でなくて何なのでしょうか?」
「月の人が完全に言い負かされてしまいましたよ、どうします王女様?」
「何と言われようとも、月は私達の故郷ですから」



  さやかさんふぁんくらぶへもどります( ・・)/


こらむとっぷへ( ・・)/