月学概論

その2:歴史

では、前文抜きでさっそく年表を見てみましょうか。
「二回目ともなると最初から飛ばすのよね〜」

年(西暦)
出来事
1932年
国際天文連合、月のクレータ名を確定
この時チコ・クレーターも命名される
1969年
アポロ11号、月着陸
1974年
フランス領ギアナにクールー基地が建設される
1991年
バイオスフィア2での第一回滞在実験が開始
(〜1993年)
1994年
第二回滞在実験(半年間)
 1998年
月の南極地域に氷の存在を確認
2018年
月探査船着陸、月の資源探査及び基地調査開始


2191年
(660年前)
クールー基地より月への最後の入植が行われる
2191年+?
地球連邦セルゲイヴィッチ・フィッツジェラルド外相が月−地球間の国交断絶を決断
?+2年
第一次オイディプス戦争開戦
(〜第四次まで)


2838年
(13年前)
カレン・クラヴィウス、王宮勤務を始める
2839年
(12年前)
フィーナと達哉が出会う
麻衣、朝霧家の養女となる。
2843年
(8年前)
穂積さやかが朝霧家に来るようになる
2845年
(6年前)
第一期の月留学生、地球から到着
(穂積さやかも)
2846年
(5年前)
朝霧千春失踪
(月へ移住)
第一期月留学生、地球に帰還
(穂積さやかも)
セフィリア女王、地球遺跡捜索開始
2847年
(4年前)
朝霧千春、月遺跡調査による事故で死去
セフィリア女王、国家反逆罪で実権剥奪
2848年
(3年前)
セフィリア女王死去、王配殿下ライオネス、国王となる
朝霧琴子死去
2850年
(1年前)
穂積さやか、スフィア王立博物館館長代理となる
(館長はフィーナ)
2851年
夜明け前より瑠璃色な開始



「今年が2851年というのはどうしてですか?」
日付と曜日が一致し、かつ5月6日が満月の年だから。他にも2919年とか候補年はあるけどこのあたりが適当ではないかと
「あのー、時間が飛んでますが」
そのあたりこっちで設定してくれというオーガストの意思なのか、それとも単に考えてないだけなのか(殴)
まあ、「無かったこと」にしたい歴史もあるということで。

 「基本的な質問、人はどうして月に移り住んだんですか?」
「そりゃ、かぐや姫の時代からみんな月に憧れてたじゃないの」

 それは表向きのロマン的なもの。現実は現金なもの。下らん浪漫に大金を出せるほど世界に余裕はない。
 そもそも月に恒久基地を造る理由とは月の探査と資源採掘です。
 採掘で環境との両立を考えねばならない地球から、周囲の迷惑を考えずに好きなだけ鉱石を掘り取れる月へ。
 そこを出発点とした月の居住地はおのずから鉱山都市となります。
 基本的に鉱山は山の中とか、人里離れた場所にあるのでそこに働く人が住む都市も隔絶したもの。
 月という未知の、そして冗談レベルまで他と隔絶した所ならなおさら。
 したがって鉱山都市では「ゆりかごから墓場まで」の一切の施設を持つ独立した生活圏が形成されていきます。
 そして鉱山という危険な職場で働く従業員達は隔絶した都市に住むこともあって仲間意識が強い。
 ・・・まあつまり、月の独立ってのは既にこの時から種が蒔かれていたということになりますね。

 さて、月のいたるところを掘り返す人々はそんなに裕福ではなかった。
 21世紀中期から始まった採掘なのでもちろん機械化は進み、また水が全くない場所なので出水などの問題もなかった。
 しかし月鉱山は場所が場所だけに最初から地球の鉱山会社の強力な統制化に置かれ、出来るだけ安く鉱石を掘り出すことを要求された。
 そうなると安くするためには人件費を削るのが手っ取り早い。よって鉱山で働く人々は中流階級以下の裕福でない人間となります。
 また、鉱石といってもちゃんと精錬して金属とかの製品にしないと売れませんし、製品にして付加価値を高めることが儲けに繋がります。

 鉱山からすれば鉱石は安く買い叩かれ、しかもコストダウンを厳しく要求される。
 働く人々は月という環境が壁となって逃げることも出来ない。
 いっそ自力で・・・という考えがいつか起こるでしょう。いつまでも地球の言いなりになって地面を掘っているだけか?と。
 このあたりの考えは月が一時の稼ぎ場所ではなく、本当の月生まれの人間が現れ、育った頃に動いたのだと思います。
 
 「戦争の理由って・・・」

 地球に対して月の鉱山諸都市が自治と鉱山の領有権を求めたのに対し、鉱山会社が一笑に伏しただけでなく、鎮圧に乗り出したから。
 鉱山会社にとっては月の鉱山など、所詮資源倉庫と下級労働者の溜まり場。いくらでもスペアがあると思ってたのでしょうね。
 地球連邦からすれば月の行動は統一された世界に対する挑戦。分離主義者達が月の動きに呼応することを潰したかったのでしょう。
 連邦の政策に反対する人々は監視の届きにくい月に逃げていたでしょうから、彼らを鎮圧の名目で叩けば連邦も安泰。
 「あちゃー」
「和平という手段は無かったのかしら?
 和平とは調停できる第三者がいてこそ初めてまともに進みます。
 ですが地球と月以外にまともな国家のない時代、誰も第三者として調停するものは現れません。
 戦争に反対した人々は、「裏切り者」「分離主義者」「反体制主義者」「時代遅れの左翼」として徹底的に潰されたでしょうね。

 ちなみに戦争名となったオイディプスとはギリシア神話の英雄で、スフィンクスの問題に答えを出した人ですね
 彼は実父と知らずに父を殺したり、実母と知らずに母を妻にしたりとエラく家庭環境が悲惨な人です。
 月生まれの2世達にとって地球とは「知らない父」のようなものです。(つまり知らない父を殺す=地球人を殺す)
 そして後は・・・エスカレートするだけ。
 気づいた時には、地球は月からの攻撃で氷河期さながらの状況(核の冬)に。月も勝てたとはいえ(負けたらスフィアは存在しません)成長能力と技術のほぼ全てを失っていました。
 
 「・・・・・・・・・・・・」
 「あの、その核の冬って?」
 最初のうちは鉱山近くの銃撃戦レベルだったんだろうけど、戦争が進むにつれて武器はエスカレート。
 そのうち火薬とかが尽きかけた月では最も手っ取り早くて攻撃力が高いもの、つまりそこらの岩を地球に撃ち込むことを考えだしたのでしょうね。
 ただの岩を加速して地球に撃ち込む。これを人は「隕石」と呼びますがサイズがデカくて速度の早い隕石は下手な核兵器真っ青の威力をたたき出します。
 しかも地球から同じことをしようとしても月と地球の自転周期の関係で月の裏側を撃てない。月の構造物に直接当てねば被害はないと悪いことづくめ。
 最後は特大の隕石、または核融合の動力炉の落下による巨大爆発によって舞い上がったチリや水蒸気によって太陽を遮られた地球は・・・氷河期のような状態へ。

 「そして長い年月が過ぎたのよね」

 地球が核の冬から立ち直るまでに約500年。その間月は(おそらく)何も出来ませんでした。
 いや、自らの行った戦争で核の冬(月から見ても灰色と化した地球が見えたでしょう)を引き起こした月は自ら地球との関係を絶ちました。
 オイディプスは自らの運命と行いに絶望し、自ら我が眼を潰しました。
 月もまた自らの運命と行いに絶望し、自ら地球を見る「眼」を捨てました。
 だからこの戦争は後世「オイディプス戦争」と呼ばれるのです。
 
 「世界も、運命も、もう何も観たくない、それがオイディプスの気持ちだったのね」
 「そして長い年月が過ぎ去り、今に続くと」
 「ですが、母様の努力によって地球との交流への道は開かれました」

 セフィリア前女王としてはスフィアの閉塞状況の打破。地球連邦としてはスフィアの技術・資源導入。そのあたりが双方の狙いでしょうね。


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