FORTUNE ARTERIAL 「見定め」
夕暮れの寮。そろそろ風呂の時間。そんな中を珍しい組み合わせの2人が歩いていた。
「いい夕暮れだな、夜は落ち着く。支倉もそうは思わないか?」
「そ、そうですが会長・・・」
伊織と孝平だった。しかも妙な方向に向かって歩いている。そして妙な会話を交わしている。
「ところで会長」
「何だ?」
「どうして俺たちが大浴場の裏側に行かないといけないんですか?」
「修学も人材不足が深刻でな、特にネタキャラが足らん」
自信たっぷりの顔ではない。深刻な顔をした伊織を孝平は初めて見た。
「かなでさんのような人でしょうか?」
「そうだ、悠木の姉のような人間だ、しかしアレは所詮女性キャラだ。こういう時には全く役に立たん」
「だからといって俺たちがこんなところに行かなくても」
不服そうな孝平。しかし伊織は自信を取り戻した顔でこう言う。
「人間はな、何事も経験をして強く逞しくなるものだ、わかるな」
「・・・覗きの経験なんて」
「それでもお前はエロゲーの主人公か!」
孝平めがけて伊織はビシっと指を突きつける。
「え?」
「支倉、お前はヒロインにチェーンソーで斬られたいか?それとも斧や鉈で切り刻まれたいか?」
「い、いえ」
ぶるぶると首を振る。伊○誠のようになるのはごめんだ。
「よし、ならついてこい。魂の特訓だ」
・・・こうやって引っ張られてしまうのも宿命なのか
主人公とは、いぢられてナンボだ。そういう言葉が孝平の頭を過ぎった。
大浴場。女性陣が入浴中なのはその手の話の基本だ、気にしない。
「本当にいいんですか?」
「男子たるもの、風呂に浪漫を感じずどうする。スリルを感じずどうする」
浴場には壁とか仕切りはあるが、筋力に自信がある者なら登って覗くことは可能。
幸いにして伊織も孝平も結構筋力はあるので覗くことが可能な人物の範疇に入る。
「さて、支倉は我が妹をどう想うかね?」
伊織らしく、いきなり直撃弾を食らわせてくる。
「そ、それは・・・えーっと」
湯気で見え隠れしているが、浴場の真ん中にいるのが瑛里華だということは判る。そしてこれも途切れ途切れだが、女性陣の会話も届く。
『貴方達、相変わらずですわね』
『副かいちょーか、苦しうない、ちこうよれ』
『お姉ちゃん・・・』
「それとも隣にいる悠木姉妹かな?もっとも、姉はこの俺を持ってしても手に余るが」
「そりゃあ、かなでさんですから」
2人して苦笑した。
『こんばんわ、先輩』
『・・・』
『白ちゃんと・・・紅瀬さんか』
あからさまに白と桐葉で声のトーンが違う。
「ふむ、なら征の妹もどうだ?さすがに征を口説くのは並大抵ではないが」
「えーっと、俺としては・・」
「書道部のエースか?学院一ガードが固いと評判だぞ、まあ困難な道を選ぶのも人それぞれだが」
「確かにそうですね、でも紅瀬はそんなに「硬い」訳じゃありませんよ」
孝平がフォロー、クラスメイトの悪い評判はあんまり聞きたくはない
『宜しいかしら?』
『出たな、爆乳教教祖!』
『悠木さん、人を見た目だけで判断するのはいけないことですよ』
『シスター凄すぎ・・・私達の立場って何?』
『そうよねぇ・・・シスターって大きすぎ・・・』
やたらと対抗心を燃やすかなでとは対照的に瑛里華と陽菜が落ち込んでいる。シスター天池はB90超え(B93)だから当然だ。
「支倉、もしかしてお前年上好みか?」
「姉は足りてますが」
かなでのことだが、別の意味で困っているので「足りている」表現で質問に答える。
「ふうむ、シスターは隙がなくて正に難攻不落だが、ひとつ大人の女性に特攻してみるのも経験だぞ」
・・・だから俺の相性判断をしないでください・・・
伊織の質問攻勢に落ち込む孝平。しかし次の瞬間話は別の方向に進み始める。
「・・・誰?」
こういう時に一番変化に気づくのは一番冷静な人間。もちろん、誰が冷静沈着かなんて野暮な質問は受け付けない。
「げっ!」
孝平と桐葉の視線が合った。場所によっては良いイベントになるが、あいにく現在の状況は孝平にとっては最悪だ。
「貴方達」
「ふっ、どうやら見つかったようだな。俺達の魂を無限の加速力と化すんだ、分かるな?」
「え、ええ?」
あくまでも颯爽と去る伊織。この余裕。さすが生徒達の範となるべき生徒会長だ。
「どこに行くのですか?」
「おや、シスター。夜の空は綺麗ですね」
たとえ瞬時に回り込まれても、怒りの表情で呼び止められても余裕で返す。さすが学院の範となる生徒会長だけのことはある。
「浴場を覗き見するのは大罪ですよ」
「経験を積むためには危険なことにも手を出さねばならない。これは仕方ないことですよ」
伊織が言うと何でも正論に聞こえるのが彼の凄いところだ。
「それに、俺は女性の裸を欲情の対象としてではなく、芸術品として見ていますから、イメージを維持するために鑑賞は必要だと思ってます」
ここまで来ると何かの才能を感じる。
「東儀妹の貧乳から、貴方のような爆乳まで、実にさまざまな美術品を」
「懺悔のお言葉は終わりましたか」
「シスター、俺に後悔なんて言葉は・・・」
伊織の言葉が途中で止まった。彼とて生存本能や危険察知能力はある。本能が『危険』を知らせば饒舌で鳴らす彼とて恐怖を感じる。
「仕方ありません、貴方のような方には神罰を下します」
そういうとどこからともなくフライパンを取り出す。
「まあまあ、神に仕える方が、凶器など持っては」
「神に仕えるものは刃物は禁止です、刃 物 は 」
刃物は禁止だが打撃兵器はオーケーというのは聖職者の基本。
よって見ての通りの打撃兵器であるフライパンを天に向けて構える。そしてシスターの全身が光った。これが神の光というのか。
「ま、待ってくれ、そ、それはぁっ!」
「・・・触れたものを光の粒子に代えるという伝説の技」
どこまでも無駄に冷静な桐葉。解説とはこうでなければならない
「光に、おなりなさい!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
一撃。光と共に伊織は消滅した。
「に、兄さん?」
消滅した伊織の様に目が点になっている瑛里華。
「明日になったら復活するから、気にしなくていいわよ」
桐葉が人事のように言い放つ。まあそういう問題ではないような気もするが、ともかく寮の平和は保たれた。
「こっそり〜」
「孝平君?どこに行くのかなぁ?」
孝平の逃げ道を塞ぐように立っている黒いオーラを纏った陽菜が、彼にとってはベルリンの壁に見えた。
「俺は別に首謀者じゃないんで、これで・・・」
「孝平君、「共犯者」って言葉、知ってる?」
前方からの殺気も凄いが、それ以上に後方からの物凄い殺気が彼を突き刺している。かなでと桐葉だ。
「こーーーーへーーーー!」
「好奇心は、猫をも殺すって言葉、その身にしっかり教えてあげるわ」
・・・紅瀬さん、その手に持ってるものすごーく大きくて重たそうな熊野筆は?
「お姉ちゃんは情けないぞ!こんな悪い弟にはきびしいしつけが必要なのだ!」
・・・かなでさん、その手に持っているものすごーく大きくて重たそうな南部鉄鍋は?
支倉孝平に明日は来るのだろうか。それは誰にもわからない。
*あとがき
長編話に詰まってたので、勢いだけで書きました。
男性陣を2人に絞ったシンプルなSSですが、まあ気楽に読んでください。
後、早坂さんごめんなさい(謎)
さて、にげるか((( ヽ(;^-^)ノ スタコラサ
SSこーなーにもどります
とっぷにもどります