今年もよろしく

 

 久し振り。
 108つの鐘の音。
 35辺りまで数えたら上から声が降って来た。
「風間?」
 心臓は十分びっくりしているのに、背がずっと高くなったり、服が男の子から男に人に変化しているのに、ちゃんと風間だって分かった自分の脳みそ万歳って感じだった。
 同じことを思ったらしい。
 よく分かったなって顔を、風間はした。

「長谷部も初詣でなんて来るんだな」
「ああうん。母親と一緒に……って意外?」
「こういう一般的行事、興味なさそう」
 そういう部分もあったので、否定はしなかった。
 いるはずの隣を見てみたら、いつのまにか母の姿はなく。
 どうやら近所の友達でも発見したらしい。人ごみに紛れてしまえば、トレードマークの爆発まりもパーマも見つかりそうになかった。
 深夜の0時が近づいているけれど、今日だけは特別。
 近所の神社は大勢の人でにぎわっていた。

「風間は? 毎年来るの、おまいり」
「いや今日は母親にせがまれて。いつのまにか消えられたけど」
「あはは、うちと一緒か」
 神社の境内までは長い長い階段が続いていて。
 その途中で。風間が隣にいる。
 鐘の音は50ぐらいは越えたと思う。もう数えていなかった。

 風間は中学校の卒業式以来だった。
 同窓会とか参加しないので、おもに私が。

 久し振りだなぁと、もう一度風間が言った。背中を伸ばしてぐんと上にひと伸び。
 背が高くなっていた。

「今何してんの? のんびり大学生?」
「うん、のんびり大学生。風間は?」
「オレものんびり大学生。看護士になろうと勉強中」
 すごいことをさらりと言われた、今。
 看護婦さんじゃなくて、看護士さん。
 男の人もなるんだよね、最近は。とか、一般的感想を挟むのはやめた。
 すごいとか誉めたくもなかった。ただ悔しくて、へぇ。とだけ言った。
 せめて裏切りものだと思ったことは、ばれないようにする。

「お賽銭持ってる? 願い事は決めた?」
 上のほうから声が降って来た。
 え、と思って顔を上げると、もう2、3人がすむと私たちの番で。
 慌ててお財布を出したら、45円にしなよ、と注文がついた。
「しじゅうご縁がありますように」
 ああなるほど。

 ぱんぱん、と二回手を叩いて。ガラガラと鳴らす。
 家内安全、無病息災などなど適度にお願いして。
 目を開けたら、まだ隣で風間が手を合わせていた。
 たぶん、風間は私よりいい形で新年を迎えるんだろうと思った。

 108つ目の鐘の音を聞き逃してしまった。
 2003年、一番最初に会うのがこの人だとは思わなかったな。

「あけましておめでとう。今年もよろしく」
 右手を差し出されたので、同じほうの手を重ねて握手する。よろしく、と。
 風間はそのまま人垣を割って歩き出した。
「え、え」
 視界のすみで、爆発まりもパーマが手を上げて、ぽかんと口を開けていた。
 あーあとで言い訳が面倒くさいな。なんて思いながら、手に引かれて神社をあとにした。

「……風間は何をお願いしたわけ?」
 家まで送ってくれると言うので。
 お言葉に甘えるというか、強制的にというか。
 どういうつもりなのか、考えるのはすごく面倒くさかった。
「心願成就」
 同じ四文字熟語なはずなのに、そこにはずいぶんな差があるような。
 立派な看護士になれるように。だろうかと思った。
「長谷部と、今年はしじゅうご縁がありますように。って」

(じゃあ)
 風間の願いをかなえるのは神様次第なんかじゃなくて、私次第なのかと思った。
 心臓がすごくびっくりした。
「ええと……」
 それでも幸せを掴んだら離さない、自分の手万歳って感じだった。


 

 

 

 

 

 おしまい。

2003年も、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

こばなしへもどる