立ち読み |
「……あのさ」
こういうときの言葉の選び間違いは一発で破滅に結びつく。 「なんで……泣いてんの?」 夕食を買いにきただけだった。 いつもなら簡単に何か作って済ますのだけども、頭に浮かぶレシピの数々があーでもないこーでもないと切り捨てられていって。 雑誌のコーナー。立ち読みはご遠慮願いますのプレートの前に見慣れたカエル色ジャージに全身を包んだ女の子が。 ぼたぼたっと大粒の水滴が、安っぽい紙を叩いたので、ぎょっとしてレジを振り返る。 涙のあとで文字がにじんでいる。先ほどから、そのページで止まったまま動く気配なし。 ふと、顔が上がった。 次の瞬間、分厚い雑誌が細腕から床へと瞬間移動した。 楽しそうに続いていた店員らの談笑もさすがに途切れた。 (なんで、泣いてたんだろ……) 帰り道、メロンパン一つにしては膨らみすぎたコンビニ袋の中には、ゆさゆさと揺れる分厚い雑誌があった。 そして、カエル色の女の子が残した涙のあとに、男の子は永遠に悩まされることになる。 |
おしまい。
半分ノンフィクションです。 |
+こばなしへもどる+