「・・・あのさ」 こういうときの言葉の選び間違いは一発で破滅に結びつく。
だからそこで少し、間を置いた。
「・・・なんで、泣いてんの?」
夕食を買いにきただけだった。
いつもなら簡単に何か作って済ますのだけども、頭に浮かぶレシピの数々があーでもないこーでもないと切り捨てられていって。
おなかは余分に甘いコンビニのメロンパンを求めたので。欲求に従ったまでだった。
雑誌のコーナー。立ち読みはご遠慮願いますのプレートの前に見慣れたカエル色ジャージに全身を包んだ女の子が。
堂々と広げた分厚い雑誌は、その細腕には過ぎる品物のような気がした。
ぼたぼたっと大粒の水滴が、安っぽい紙を叩いたので、ぎょっとしてレジを振り返る。
客がほとんどいない店内に安心しきっているのか、二人の店員は楽しく談笑をしている。
隠れてほっと息をつく。
古きよき時代の人の言ったことを、今更痛感している。
備えあれば憂いなし。
出かけるときはポケットにハンカチを。
何もしてあげられないなら、ただ隣に立つしかない。
ほっといて、メロンパンを買いに行くような器用な真似が自分にはできない。
コンビニにはハンカチの一枚や二枚売っていること、頭の隅で思いついても、実行できるほど精神穏やかじゃない。
涙のあとで文字がにじんでいる。先ほどから、そのページで止まったまま動く気配なし。
「・・・なんで、泣いてんの?」
苦し紛れに、同じことを繰り返す。
ふと、顔が上がった。
ガラスの向こう、光に集まる小さな虫の群れの向こう、広がる暗闇が目に映った。
何かと視線の先を追ったが、何も見えない。
次の瞬間、分厚い雑誌が細腕から床へと瞬間移動した。
ついでに、カエル色ジャージも残像が目に映らない速さで店内から消え去った。
楽しそうに続いていた店員らの談笑もさすがに途切れた。
口をぽかんと開けて、何が起きたのかとお互いの顔を見合う。
取り残された少年は、床に落ちた雑誌を拾い上げ、ぺらぺらとページをめくる。
生真面目に首をかしげた。
(なんで、泣いてたんだろ・・・)
帰り道、メロンパン一つにしては膨らみすぎたコンビニ袋の中には、ゆさゆさと揺れる分厚い雑誌があった。
そして、カエル色の女の子が残した涙のあとに、男の子は永遠に悩まされることになる。
半分ノンフィクションです。
別フレ1000という雑誌を読んでいたらもうボロボロ涙が止まらず、どうしようかと思いました。末次先生に始まり末次先生に終わる雑誌です。さすがに買う価値があるなというか、買う必要があるなと思って、購入しました。おすすめ。
人前で泣くことを恥ずかしいと思わない今日この頃ですが、泣く人を目撃したら思い切り動揺するでしょう。
自重しようと思います。
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