NEW教育とコンピュータ 1999年2月号掲載
小さな島からの大きな発信
ーふるさと湯島のすばらしさを知ってほしいー
熊本県大矢野町立湯島中学校は、熊本県の有明海に浮かぶ、周囲4kmのたいへん小さな島の中学校です。豊かな自然と、温かな人々に囲まれた環境のなかで、7名(2年2名、3年5名)の生徒たちが元気に学校生活を送っています。
本校に赴任して、機械に弱い私が始めたものがパソコンでした。そしてインターネットにより多くの方に出会うことができました。このような人との出会いの楽しさを、子どもたちとも共有したいと思い、授業でのパソコンの活用に取り組むようになりました。
ふるさと湯島を大切にする心を育てたい
本校の生徒たちに、これからも、ふるさと湯島を誇り、自分らしさを失わず、胸をはって生きてほしいと願います。そこで、町内の中学校との交流をきっかけに、島の人たち、さらに全国の人との交流活動を積極的に行っています。
交流を通して、視野を広げ、多面的にものを見たり、考えることができるようになってほしいと思います。それは、外へ目を向けるだけでなく、自分たちのふるさと湯島を見つめ、自分たちで島を盛り上げていこうという気持ちを高めることにつながると考えています。私は、この「ふるさと湯島を愛する心」を交流活動を通して育てていきたいと考えています。
取り組みの内容と実際
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ふるさとを見つめる
情報基礎のなかでHTML言語を学習し、ホームページ作成に取り組みました。ふるさと湯島のすばらしさを全国の人に知ってもらおうと、湯島に関して1人1つ(2年生は2人で1つ)テーマを決め、次のような流れでホームページ作成に取り組みました。
1.テーマを決める
2.取材計画を立てる
3.取材を行う
4.ページの構成を考える
5.ホームページを作成する
6.他の人の意見をもとに修正する
具体的な取り組みを紹介します。まず、テーマを決め取材計画を立てました。以下の通り、歴史などがテーマとなりました。
・天草島原の乱における湯島
・湯島の地域の名の由来
・湯島にはなぜ5つの姓が多いのか
・土曜清掃の歴史
・湯島の仕事
・湯島の名人
計画をもとに、取材を行いました。取材は、島民の方にご協力いただき、特におじいちゃんおばあちゃんには多くのことを教えていただきました。家族に聞いた生徒もいて、湯島について時間をかけじっくり話ができたようです。初めて知ることに感動しながらの取材となったようです。
取材後の感想を紹介します。
「湯島の五姓についていろいろな話を聞いて、そんなことがあったのかと、とてもびっくりしました。そしてとてもおもしろかったです。
ホームページでは字だけになりそうだけれども、見やすくわかりやすく作りたいと思います。そしてパッと見て読みたくなるようなホームページにしたいです」
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相手を意識してデジタル交流
電子メールでの交流、ホームページによる発信は、相手の顔が見えず、漠然としたところがあります。誰に向けて発信しているのか、交流を進めていけばいくほど、相手を意識することが大切であると感じるようになりました。そこで今回は、鹿児島県の鷹巣中学校との交流と、ホームページ作成を同時進行で取り組みました。「郷土を見つめる」を合言葉に、それぞれの地域についてホームページにまとめ、お互いに見て評価することにしました。
テレビ会議を行い、お互いの学校や地域、ホームページ作成の進行状況を紹介しました。今までと違い、顔が見える交流では、ホームページや、メールと違った楽しさがあり、そのあとのホームページづくりへの意欲も高まったようです。
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自分の手で自分のページ作成
取材をもとに、ホームページの作成を始めました。今回はハイパーエディットというソフトを使ったのですが、タグを打たなくても、HTML言語を理解していくことができます。慣れるまでには少し時間がかかりましたが、タグの意味を少しずつ理解していき、簡単に修正することができるようになりました。
まず基本的なソフトの使い方、HTML言語について学習しました。そのあとは生徒がやりたいことに対して助言する形で作成を進めていきました。なかには、自分で機能を見つけたり、自分と同じことをしたい生徒に教える生徒も出てきました。教え合うことで互いに理解を深めていったようです。
また、生徒により興味を持つところが様々だったことが印象的でした。字の大きさや色にこだわる生徒、リンクを多用した生徒、クリッカブルマップをどうしてもしたいと雑誌で調べる生徒、バナーづくりに励む生徒などです。壁紙やカットも内容のイメージを考えて素材集より選んでいました。いろいろな工夫を行い、個性豊かなページを作ることができたようです。
トップページは、先にページができた生徒が中心になり作成しました。「湯島今昔物語」と名づけ、それぞれのページにリンクできるようにして完成しました。
たくさんの意見をもとにさらに工夫を
ホームページ公開後、天草島原の乱について質問のメールが送られてきました。質問をくれた小学生に、わかりやすく答えようと文章を工夫したり、自分がわからないところを調べなおしたりしていました。そのことは、学習を深めることにつながったと思います。また、自分が遠くの人の役に立てるということは、たいへんうれしかったようです。
このように、インターネットの双方向性という特質は、学習をさらに深めてくれます。ホームページを公開したらおしまいではなく、意見や感想をもらいそれをもとにホームページの充実に取り組みました。
いろいろなメーリングリストで呼びかけ、ホームページを見てもらい、感想を寄せていただきました。
鷹巣中学校とは、テレビ会議でホームページ完成報告会を行いました。事前に相手のホームページを見て、その感想を発表しました。相手のホームページのよさを学ぶだけでなく、自分たちのホームページを客観的に見てもらうことができ、たいへんよかったと思います。これらの意見をもとに、ホームページをさらに工夫しました。特に、鷹巣中学校のページでは、写真が多くわかりやすかったため、本校でも写真をできるだけ入れました。
たくさんの人の前でプレゼンテーション
交流をしている県内の滝水中学校の文化祭に参加することになり、湯島の紹介を兼ねて自分たちが作ったホームページの紹介を行うことになりました。たくさんの人の前で発表する経験は少ない生徒たちです。事前に、どのようにすれば自分の思いを伝えられるのか、プレゼンテーションの練習を行いました。話す速さや、間のとり方、話すときの表情などみんなでアドバイスをしあい、本番に臨みました。みんな自信を持ち堂々と発表することができました。
以下は、発表後の感想です。
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練習の時みんなの前で発表して、悪いところをなおしてよくなったと思う。人に聞いてもらうとよくわかるんだなあと思った。
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人前で話したりするのは苦手だったけれども、今は何とかできると思います。
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いかに相手に伝えることが難しいかがわかった。話し方を知らないと、いくら内容がよくても伝わらないということがわかった。
生徒の声・たくさんの人に見てほしい
ホームページの完成後の生徒の感想です。自分の作品に満足していることがわかります。
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なんといってもでき上がったときがうれしいです。私は見る人が読みたくなるようなホームページにすることを目標につくりましたが、けっこうよくできたと思います。なんとなく話のイメージに合うようにできてよかったです。
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私は湯島で、一番長生きの人で95歳だったので、すごいなあと思いました。ウニとりが上手な人は、一回に200個くらいとることに驚きました。私たちが作ったホームページをいろんな人に見てもらえたらいいなあと思います。
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島原・天草の乱については、あまり 興味がなかったけれども調べているうちにだんだんおもしろくなってきました。このホームページは、自分で取材に行って、天草・島原の乱のことについて調べて一生懸命つくったので、たくさんの人に見てほしいです。
学習がどんどん広がる
予定よりも、時間がたいへんかかりました。事前の計画をきちんと立てるべきだと感じています。しかしながら、その原因の一つは学習がどんどん広がっていったためでもあり、そのぶん得ることも多かったと思います。
小さな島の子どもたちが、全国の人とかかわるなかで、地域を見つめ直し、地域を大切にしていこうという気持ちが少しずつ高まろうとしていると思います。
今回の取り組みのなかで、湯島のすばらしさを発見、発信できたと思います。さらに発展につながるように取り組んでいきたいと思います。そして、これからもふるさと湯島を大切にしていってほしいと願います。
元熊本県大矢野町立湯島中学校教諭 E-mail=yoshiaki@mxj.mesh.ne.jp
1970年熊本県出身。専門分野は数学。3年間の小学校勤務のあと湯島中へ着任。学校の規模が小さいため音楽、技術の授業も行う。「ACE九州(教育とコンピュータ利用研究会九州支部)」との出会いのおかげで多くの方に助けられながら今に至る。’97年末にパソコンが整備され、’98年2月にインターネットに接続。全校生徒一人に1台という恵まれた環境になる。夏休みにはNTTの協力を受け、教師・生徒が一緒になって校内ネットワークの構築に取り組んだ。今回紹介するホームページは、’98年に朝日新聞社主催のスクールページコンテストで中学クラス賞に選ばれた。
湯島中学校のホームページ=http://www.edu-c.pref.kumamoto.jp/jhs/yusimajh/ |
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