日本教育情報学会 教育情報研究掲載
第14巻第3号1998 VOL.14NO.3
本校における交流活動の取り組み
Our School's Way of Tackling Interchange
Activities
本校は、熊本県有明海に浮かぶ小さな島の学校である.豊かな自然と温かな人々に囲まれた環境のなかで、7名の子どもたちが元気に学校生活を送っている.すばらしいところがたくさんある反面、小さなころから狭く同じ環境、同じメンバーでの生活であり、いろいろな人と接し、いろいろな考えに触れる機会が少ない状況にある.そのような子どもたちが、島をでたときもふるさと湯島を誇り、自分らしさを失わず、胸をはって生きてほしいと願う.
そのために学習の場を学校内だけでなく、地域へ、そして全国へ広げた交流学習を進めている.町内の中学校との交流をきっかけに、島の人たちと、そしてインターネットにより、全国の人との交流が始まった.
このような活動が、相手のすばらしさだけでなく、自分自身や自分をとりまく地域や人々のすばらしさを見つめ直すことにつながると考える.
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はじめに
人は他の人と関わることによって、自分の持っていない感じ方に触れ、見方を広げ深めていく.同時に、相手のことをさらに知ろうとする.このように、自己理解及び他者理解を深めることができると考える.
本校ではどうだろうか.離島という閉ざされた環境のなかでは、人と関わる、さらにその関係を深めるといった機会がたいへん少ない.だからこそ、出会いの場を増やす、そして関係を深められるようにすることを求められていると考える.そこで交流学習がはじまり、積極的に取り組んでいる。
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交流相手と視点
交流相手を、次の3つに大きく分けることができる.
・いつでも会うことができるところの人たち(老人会など、島の方々と)
・ときどき会うことができるところの人たち(町内の中学校の友だちと)
・実際に会うことが難しいところの人たち(インターネットを使って全国の人と)
次のような視点で、交流をすすめていった.
視点1
ふるさと湯島を見つめる
視点2 自分自身を見つめる
視点3 相手を見つめる
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取り組みの内容と実際
ふるさと湯島を見つめる活動
−討論・地域へ発信・地域の行事・全国へ発信−
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討論「湯島を活性化するには」
ふるさと湯島の現状を見つめ、これ以上過疎化をさけたい.そのために、自分たちにできる湯島の活性化がないかと全員で話し合いを行った.
いろいろな立場の人から多くの意見を聞きたいと思い、事前にインターネットを使って意見募集を行った.3年生が考える湯島の活性化に対する意見を知ることができ、問題意識が高まるとともに、自分たちの考えを深めていくことができた.
はじめは、レジャーランドや海中公園をつくるといった湯島に来る人のための活性化であった.しかし、生徒たちは湯島に住んでいる人のための活性化の大切さに気づき、「島の人たちが楽しいと思う島づくり」という視点で話し合いは進んだ.
今回の話し合いでは、今後の湯島について考えるとともに、自分たちがこれから先も湯島をもっとよくしていこうという意識を高めることにつながった.
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活性化への思いを地域に広げよう<文化祭>
みんなで話し合ったことを地域に広げ、自分たちの考えを実現したい.そんな思いを文化祭において劇で表現した.日頃感じている問題を提起し、これらを解決していくことが「島の人たちが楽しいと思える島」つまり「湯島の活性化」に結びつくことを訴え、討論の様子を再現した.
最後に、島民みんなで湯島を活性化していこうという願いをこめ、4つの宣言をした
島の人たちが楽しくふれあえる場を増やします
自分たちから先にという気持ちで挨拶をして、島を明るくします
土曜清掃の仕方を工夫し、島をきれいにします
湯島太鼓の伝統を次の世代に残していきます |
たくさんの地域の方に、自分たちの思いを知ってもらうとともに、湯島の活性化に向けがんばっていこうという思いを全員で再確認することができた.
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地域の方との交流<お手玉リレー・秋祭り>
地域の人と楽しく触れあおうと、老人会との交流を行った.事前に、お手玉づくり、遊び方を教えてもらい、文化祭当日はみんなでお手玉リレーを行った.たくさんの人に参加していただき、みんな笑顔でとても楽しい時間を過ごすことができた.
秋祭りでは、昔ながらの秋祭りの再現に向け、島民有志の手で作られたみこしをかつぎ、湯島じゅうを回った.そのあとは、湯島太鼓を披露し、島民みんなで秋祭りを楽しむことができた.
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湯島をホームページで紹介
<地域を取材・湯島弁による紹介>
本校のホームページの中で、湯島紹介を行っている.その作成のために、学校を飛び出し、取材に行った.そこでは、いろいろな人と出会い、日頃見落としている美しい自然に出会うことができた.自分たちが生まれ育ったところだからこそ、気づかなかった湯島のすばらしさを再認識することができた.
また、生徒のアイデアから、紹介は湯島弁により行った.湯島弁化するところでも、おじいちゃんやおばあちゃんとの触れあいができた.
驚いたことに、小さな島でもいろいろな言い方があった.そこで全国の方言を調べようと、YZH計画(湯島を全国の方言で紹介してもらおう計画)を行った.現在40都道府県、100人あまりの協力を頂いている.方言を教えてもらうだけでなく、生徒の取り組みを評価して頂いたり、多くの励ましの言葉を頂いた。これらをもとに、湯島のことを考える授業を行った。このように、地域の人と触れあい、全国の人とつながるなかから様々なことを学ぶことができている。
湯島を全国の方言で紹介してもらおう計画のページへ
湯島紹介のページへ
自分自身を見つめる活動
−決意文のホームページ化・命の尊さ−
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立志式を迎えて
2年生の3学期、現在の自分、将来の自分を見つめ、これから主体的に生きようとする意欲を高めるために、立志式を行っている.この機会を大切にするとともに、決意文のホームページ化に取り組んだ.
ホームページを見た人からメールを頂き、将来のことをより真剣に考えることができた.
また、将来就きたい職業の人とメール交換をしようと募集したものの、残念ながら反応はたいへん少なかった.その仕事の内容や、仕事をすることのすばらしさを知ることにつながると期待しただけに、たいへん残念であった.
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命の尊さ
あるきっかけで、元X-JAPANのhideさんからメールを頂いた.芸能人からのメールに、みんなで喜んだ.それだけに、突然の自殺はたいへん衝撃的であった.生徒たちが、いじめや自殺を現実的な問題として考えることは難しい.それが、メールがきっかけで、自殺のこと、命の大切さのことを、身近なこととして、自分の問題として考えることができた.
相手を見つめる活動
−直接交流・パソコンの向こう側の人との交流−
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維和中学校との交流
パソコンを使った交流より、実際に会い、実際に話をしてふれあう方が大切なことは明らかである.いろいろな交流をするきっかけとなった維和中学校との交流も、2年目となる.授業を一緒に受け、給食や掃除、休み時間も同じように過ごす.マラソン大会、修学旅行、集団宿泊学習なども一緒に行うことができた.維和中学校の先生方、そして生徒たちに温かく迎え入れて頂き、日頃味わうことができない、大きい集団での生活を経験することができている.
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相手を意識した交流
<鹿児島県鷹巣中学校との交流>
電子メールでの交流、ホームページによる発信は、相手の顔が見えず、漠然としたところがある.誰に向けて発信しているのか、交流を進めていけばいくほど、相手を意識することが重要である.そこで、鹿児島県鷹巣中学校と、ホームページ作成を同時進行で取り組んだ.「郷土を見つめる」を合言葉に、それぞれの地域のすばらしさを取材して、お互いに見て評価しあうことにした.
はじめてのテレビ会議では、お互いの学校や地域、ホームページ作成の進行状況を紹介した.今までと違い、顔が見える交流では、ホームページや、メールとは違った楽しさがあり、そのあとのホームページづくりへの意欲も高まった.
今回は、「天草島原の乱における湯島」「土曜清掃の歴史」「湯島のそれぞれの地域の名の由来」など、一人一つのテーマを設定し取り組んだ.前回の湯島紹介より、歴史など深いことがらについて調べ、はじめて知ることに感動しながらの取材となった. ホームページも見る人の視点に立ち、相手を意識したものが作成できるようになってきた.
湯島今昔物語のページへ
<全国発芽マップ97.98への参加>
昨年より、全国同時に種を植え、成長の様子をインターネットを使って知らせていこうという取り組みに参加している.環境の話題としても注目されているケナフという植物を、70あまりの学校と一緒に育てることができた.
昨年は、全国の学校と情報交換をしていくなかで、寒さで育ちが悪い学校があることを知り、ケナフの苗を送ることにした.名づけてKYOP(ケナフを湯島から送ろうプロジェクト)北海道など全国4つの学校へ苗を送り、お礼のメールや、べにばなを送ってもらった.物ではなく、心の温かさをやりとりしたように感じる.
今までは島の中の世界でしか活躍できなかったものの、遠くの人の役に立つことができた.パソコンの向こう側には人がいるのだ、そのパソコンの向こう側の人と関わっているんだということが実感でき、その後の取り組みへの意欲が高まった.秋には収穫して、紙すきを行う.
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取り組みの成果
生徒たちは、いろいろな人と交流を深めるなかで、学校内だけでは学ぶことができない、多くのことを得ることができた.そのいくつかを挙げる.
○いろいろな人と接するなかで、「そんな考えがあるんだ」「そんなすばらしいところがあるんだ」
と、今までは得ることができなかった情報や、いろいろな立場の人の考えを知ることができ
た.それは、自分の考えを深め、自分自身を見つめることにつながった.
○地域の人たちと接し、地域のことを調べるなかで、「湯島にはこんな人がいたんだ」「歴史的
にとても重要なことがあったんだ」と改めて湯島の人や、歴史のすばらしさを感じることがで
きた. |
活動は予想以上に広がり、子どもたちの追求意欲も高まっている.また、相手にうまく伝えようと表現力も高まり、コンピュータの基本操作も自然に身についている.しかしながら、課題も多い.それらを明らかにしていき、今後の実践をより意義あるものにしたい.
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おわりに
小さな島の子どもたちが、全国の人とかかわるなかで、地域を見つめ直し、地域を大切にしていこうという気持ちが高まろうとしている.
怖い、冷たいという印象だった、パソコンやインターネットも、実は温かく、優しいもののように感じられるようになり、積極的に活用されている.
全国にもっともっと友だちを増やそう.そして、地域の人ともっともっと仲よくなろう、私たちのふるさとを盛り上げようと、今後の活動に期待が高まる.
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