|
卒業の日に…
|
1. ピピッ!ピピッ!ピピッ!…(目覚ましの音)カシャン。 「あ〜ん!もう朝になっちゃった。」
ピンクのカーテン越しに初春の朝の光が、この少女の部屋全体をほんのりと明るく照らしていた。 少女の名は『藤崎詩織』 ここから十五分ほど歩いたところにある〔私立きらめき高校〕の三年生だ。
「さっ、今日は早くでかけないと」 そうつぶやくと少女の顔に少し緊張の色が走った。 「勇気を下さい…」
2. キーンコーン、カーンコーン… 「やっべぇ予鈴だ、おい!急げ、遅刻するぞ」 『何言ってんだよ好雄、おまえが寝坊するのが悪い。 だいたい卒業式の日くらいちゃんとおきろよな!』 「いやー優美のヤツ、自分は休みだからってぐっすり寝てて、俺を起こすのを忘れていやがったんだ。 その上『お兄ちゃんも卒業できるんだぁ〜』だぜ。」 『好雄…おまえ優美ちゃんに起こしてもらってるのか?』
「…そんな事どうでもいいだろう、 ほら先いくぞ」。
3. 教室にはまだだれもいなかった、 詩織だけである。 「ふう‥」小さくため息をついてみる。 もう五分もここにいる、今日しかない事も分かっている。 ただ手紙を机に入れるだけなのに、まだ勇気が湧いてこない。 (早くしないと) 「ふう‥」二度目のため息。 (この手紙を見たらどう思うだろう) 気晴らしに窓に目をやってみた。 詩織はここからの景色が好きだった。 遠くに見える富士山や、鉄橋の上を走る電車。 そして、校庭の片隅にある一本の古木…
そう今日しかない。 今日でなければ一生後悔するかもしれない。 そう思うと勇気が湧いてきた。
あの樹の下で…「好きです」
|
|
4. 俺は戸惑っていた。 それは卒業式が終わって教室に帰ってから、 机の中に一通の手紙が入っていた事に気づいたからだ。
『伝説の樹の下で、待っています』 名前はどこにもない。 好雄のいたずらかと思ってみたが、 どうやら違うようだった。 複雑な気分だ、なぜなら俺は『藤崎詩織』がすきだった。
5. 俺が今まで女の子と付き合ったことがなかったのは、 「別に興味が無い」とかいう理由ではなかった。 ラブレターをもらった時など一日中悩んだりもした。 でも、どうしても付き合う気になれなかったのだ。 それはいつも「詩織」がそばにいてくれたからだ。
今までは詩織のことをただの幼馴染だと思っていた。 いや、きっと詩織に本心を悟られるのが怖くって そう思い込ませていたのかもしれない。 だが、卒業する今…離れ離れになるかもしれないという今になって、 やっと自分の気持ちに気が付いた。 『シオリニ、コクハク』 たとえ断られてもいい。 この気持ちはもう抑えられないものになっていた。 だが、その前に伝説の樹に行かなくては。 この手紙を出した娘にきちっと断ってあげないと… 俺は今の自分と重ねる事で、 その娘の気持ちが痛いほどわかるような気がした。 伝説の樹に行こう。
6. 詩織は不安だった ここに来てからもう二十分も経っていてる。 どうして手紙に名前を書かなかったんだろうと、 今更ながら悔やんでいた。 「いたずらだと思ったりしないだろうか?」 そう思うと、手紙に名前を書くことができなかった 自分に、苛立ちさえ感じた。
|
7. 詩織が彼の事をはっきりと意識したのは、 高校二年の夏。二人で一緒に行った遊園地のパレードを見てからだった。 それから一年半… 「校庭のはずれにある一本の古木、 その袂で卒業式の日に女の子からの 告白で生まれた恋人達は、 永遠に幸せな関係になれる」 今日はその大事な日、詩織は祈るような気持ちで待っていた。 「お願い、来て…」
8. 俺の目に伝説の樹が飛び込んできた。 だが、誰もいなかった。 息を切らせながら走ってきた自分が馬鹿らしく感じてきた。 いたずらだったのだ! だが、それでよかったと思っていた。 誰も傷つけずに済んだのだから…
と、その時伝説の樹の後ろからスッと人影が出てきた。 「ごめんなさい、こんな所に呼び出したりして…」 その人影は『藤崎詩織』本人だった。
その後の事はあまりの出来事で気が動転していて、 よく覚えていないのだが、 あの言葉だけは今でもはっきり覚えている。
「好きです…。 世界中の誰よりもあなたが…好きです。」
俺達は今でも幸せです。
FIN
|
|
いかがでしたか? これは私が今から約二年前に 支部設立を決心した時に会報用として初めて書いたものです。 しかし実際に会報に載せるスペースがなくって、今までお蔵入りになっていました。 今回多少加筆修正してホームページにアップいたしました。 これを読んだ感想をぜひお聞きしたいので、掲示板に書き込んでおいてくれれば幸です。 宜しくお願いします。 掲示板へはこちらからどうぞ
|
|