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毒林檎を食べて 死の眠りについた 白雪姫は
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長い間 棺に入っていました
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腐りもせず
肌は雪のように白く
唇は血のように赤く
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黒檀の棺のように黒い髪をしていました
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〜 グリム兄弟 「白雪姫」より 〜
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私が幼い頃
夏になると父親に連れられて避暑地に行った
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別荘のまわりの森の中で
弟とかくれんぼをしていた時
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森の中に眠っている一人の女を見つけた
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それは鮮やかなスカーフを細い首に巻いた
とても美しい女であった
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私はそっと近づき 覗きこんでみたが
女は人形のように 眠ったまま起きなかった
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髪を触ってみたが 女は 決して目を醒まさなかった
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私は不安になり 弟の手を引っ張り別荘に走って帰った
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それは私の見た最初の「美しい女」の思い出
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その夜
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私は 長い間眠ることが
できなかったが
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いつしか
森の風音を聞いているうちに
眠ってしまった
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小指を無くした少女が 森の中で泣いていたので.
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僕は小指を探すために 森中に捜査願いの張り紙を
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貼って歩いくことにした
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蒼い目のフクロウが
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「東ネパールからやって来た貿易商が
阿片の密輸入のために
小指で捺印をしているのを見たよ」
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と言うと
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山猫が
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集めた小指を糸でつないで
指の琴を作っている小指蒐集狂の貴族が
バスタブの中で居眠りをしているらしい
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と言う
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「だけど 知ってるか?」
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山猫が続けて言った
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「あらゆる少女は小指嗜好症だからね」
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「吸血鬼のように小指をしゃぶって痩せさせたのではないか?」
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だいたい 君
小指なんて必要ない
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親指は眠り薬の瓶を持ち
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人差し指は鏡の中の自分を指し
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中指は女の唇に紅をひいている
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だけど 小指だけは何もできない
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僕は 山猫に言った
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「だけど 小指がいないと淋しいものさ」
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「役に立たないものは 愛されるよりほかはないのだから」
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8つの文字を書こうとして 僕は黙って 「きたないはきれい」と 鏡の上に書いた . .. 少女が数えると 数がちょうど8つでした . . .. . それから少女は 「きれいはきれい」と 鏡の上に書いた . .. . . 少女が数えると こんどは一字足りませんでした . . . . その 足りない一字だけが 少女のかなしみを知っているのです . |
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少女が眠ると時計の老婆が目覚め
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時計の老婆が眠ると少女が目覚める
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だから どうか少女を眠らせないでください
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そして 朝になり
父たちが森に集まっているのを見た
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父に訳を尋ねたが
父は なにも答えなかった
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そして
私と弟は 昨日見たことを
永遠に口にしないことを約束した
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あれから月日は流れて
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森の中の出来事を
話す人は居なくなり
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思い出す人もいなくなった
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だけど
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私は 今でも
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森の中で見た
人形のような 美しい女の横顔を
忘れることができないでいる
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