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「なにもしてあげられないから..」

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母はいつもそう言って 家から持ってきた ちらし寿司を冷蔵庫に入れて置く

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「もう子供じゃないんだから 心配しなくていいよ」

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僕が答える

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当時 転職したばかりの僕のアパートに

 母は 時おり 訪ねて来た

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いつもは 言葉少なげに帰っていくのだが

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どういうわけか その日は桜が見たいという

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アパートの近くにある公園の桜が綺麗だったから 一緒に見たいと言う

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しつこく言うので 照れくさいけれど仕方がなく公園の桜を見に行った
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「こんな綺麗な桜を見る事が出来て良かった・・」

 と母が無邪気に笑って言うと

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「桜は来年も咲くよ」 

と僕は答えた

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そして

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母は いつものように 

家で作ってきた ちらし寿司を冷蔵庫に入れると

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上機嫌で 帰って行きました
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次の日

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母が倒れたと 叔母から電話があった

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そして 

僕が急いで帰る間に 母は亡くなってしまった
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僕は涙を流す間もなくて

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慌しく葬儀を終えなくてはならなかったのです

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ひと通り葬儀は終わり

僕は ボロ雑巾のように アパートに戻ってきた

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部屋に入ると 喉の渇きをおぼえ ビールを飲もうと冷蔵庫を開けた

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そこに 母の作った ちらし寿司があった
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ちらし寿司の包みを開けると

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ちらしが 桜吹雪のように思えた

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腹の底から 涙が とめどなく出てきた

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僕は 涙と一緒に 

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ちらし寿司をひとくち食べた
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なぜか情けなくて 僕はボロボロ泣きながら 

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ちらし寿司を 食べながら泣いた
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かあさん

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一度も

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あなたの 自慢の息子に成れないままで

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ごめんなさい

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