サンサ編
第二十九話『二人』
クメン内乱の終局、キリコとフィアナを乗せた1機のシャトルが惑星メルキアを脱出した。しかし、謎の存在がシャトルごと二人を取り込んでしまう。
二人が目を覚ましたのは、正体不明の戦艦Xの内部であった。艦内をくまなく調べるキリコとフィアナ。だが、どこにも人の姿はなく、しかも航法システムや通信機能はロックされてしまっていた。もはや、自動操縦で進む艦に身をゆだねる以外に術はない。ひらき直った二人は、艦内の倉庫から酒を持ち出し、乾杯した。突然、酒を吹き出すキリコ。心配するフィアナにキリコは告白する。酒を飲むのは初めてだ、と……。
二人が初めて手にしたおだやかな時間。だが、安息は長くは続かなかった。艦内に突如、鳴り響きはじめたマーチの音に、キリコは激しく動揺する。音源を求めるキリコが見つけだしたのは、モニターに映し出されるレッド・ショルダーの蛮行の数々を記録した映像であった。血塗られた忌まわしい過去の記憶を呼び覚まされるキリコ。自分に安息を求める資格などないことを思い知らされたキリコは、酒に逃避していく。そんな彼の姿を痛ましげに見つめるフィアナ……。
そんな時、バララントのパトロール隊が停船命令を発してきた。戦艦Xはバララントの領宙を侵犯していたのだ。キリコは艦内に用意されていたATに乗り込み、バララントを迎え撃つ。その姿は、戦いの中にしか居場所を見つけられない者のものであった。
第三十話『幻影』
キリコはバララントの警備艦2艦とAT20機を単独で撃破した。バララントの首脳部は、このおそるべき事態を前に“戦艦Xにはパーフェクト・ソルジャーが乗っている”と推測、なんとしても拿捕すべく、追撃を開始した。
その頃、メルキアでキリコたちの行方を調査していたロッチナは、バララント領内への潜入を上官であるバッテンタインに進言しようと考える。だが、時間と費用を浪費しながらも成果をあげることができないロッチナにいらだっていたバッテンタインは、彼を更迭してしまう。自分の進退を知らされたロッチナは、不敵な捨て台詞を残して去っていった。
静かに変動していくアストラギウス銀河の情勢。その渦中のまさに中心にいるキリコは、バララントとの激しい戦いで身体を傷めていた。また、容赦なく流れ続けるレッド・ショルダーのマーチと映像が、心まで傷つけていく。苦しむキリコの姿に、複雑な想いを抱くフィアナ。果たして、このまま変わらぬ想いをキリコに抱き続けていけるのだろうか? そこへ、またもバララントの部隊が接近してきた。フィアナはキリコに代わって迎撃するため、ATに乗り込んだ。キリコを守るために戦うフィアナ。だが、皮肉にも戦いによって、精神を病んだキリコが求める安息は戦いの中にしかなかった……。
第三十一話『不可侵宙域』
キリコとフィアナは驚異的な戦闘力でバララントの部隊を撃破していく。バララントの指揮官は、やはり自分たちの敵がPSであることを確信し、さらなる攻撃を命じた。激しくなる戦いの中、自分が倒した敵兵の姿に、キリコはかつての自分の姿を見る。ついに被弾したキリコを、フィアナは戦艦Xの医務室に連れていく。必死にキリコを治療しようとするフィアナ。熱に苦しみながら、イプシロンの幻影を見るキリコ。
戦艦Xはいずことも知れぬ目的地へ向け、加速を開始した。だが、ついに艦内にまでバララントのAT隊が潜入しはじめていた。フィアナは単身でバララントAT隊に立ち向かう。フィアナの決死の行動で敵AT隊が目的を達しえないでいるまま、戦艦Xは不可侵宙域へ突入していく。不可侵宙域内における戦闘行為は、百年戦争の終戦協定に対する重大な違反となるため、バララントの部隊は撤退していく。
だが、彼らは艦籍を秘匿して、追跡を続けていた。そして、戦艦Xを追うもう一艦が存在した。戦艦テルタイン…かつて小惑星リドを襲撃した艦である。テルタインの艦内では、イプシロンがフィアナのイマジネーションから作られた映像を見せつけられていた。キリコへの憎悪をあおるために……。
傷ついた身体のキリコと、必死に看病するフィアナ。二人を乗せた戦艦Xは、静かにある惑星に接近しつつあった……。
第三十二話『イプシロン』
バララント軍はギルガメスを挑発する愚を警戒しながらも、依然として戦艦Xに対する追撃を続けていた。そして、テルタインも。秘密結社は機密保持のため、バララントに奪取される前にプロト1もろとも戦艦Xを撃破しようともくろんでいたのだ。
その頃、フィアナはキリコを救うために艦載機でバララントの部隊に接触していた。自分が投降することで、艦内に残っているキリコを見逃してもらおうというのだ。だが、交渉が成立する寸前で、バララントの宇宙艇は破壊されてしまう。攻撃を加えたのはテルタインだった。行き場もなく、帰還したフィアナからそのことを知らされたキリコは、かつて彼の運命をくるわせた艦であるテルタインに敵意を抱く。
ついにテルタインからの攻撃がはじまった。艦砲射撃で傷つきながら、名も知らぬ惑星に降下していく戦艦X。テルタインはイプシロン指揮のAT隊を出撃させる。ATで迎撃しようとするフィアナの前に、イプシロンが立ちはだかった。自分の身柄と引き換えにキリコを救ってほしいと願うフィアナ。だが、イプシロンにとってそれは屈辱的なものであった。それでも、イプシロンは戦いの中で、砲火に身をさらすフィアナを案じてしまう。そして、ついにキリコもATに乗り込んだ。謎の惑星に降下していく戦艦Xの甲板上で対峙する二人。宿命の対決が、再開されようとしていた……。
第三十三話『対決』
イプシロンとキリコの対決が始まった。キリコはフィアナをコントロール・ルームに待機させた。イプシロンを戦艦Xのメインノズルの前におびきだそうというのだ。イプシロンの命を自分の手で奪うことにためらうフィアナ。だが、キリコの指示でフィアナはメインノズルの点火スイッチを押した。激しい噴射に吹き飛ばされるイプシロンのAT隊。それでも、イプシロンは生きていた。テルタインの部隊はイプシロンを回収するために撤退した。
わずかな休息の間に、フィアナはキリコの治療を続ける。戦艦Xの医療コンピュータがはじきだしたキリコのカルテは、異常な数値を示していた。キリコの治癒力が常人ではありえない異常なものであることを知るフィアナ。キリコはその能力をもって、ついに回復を果たしていた。敵を迎え撃つ準備をするキリコ。その時、戦艦Xの不時着した惑星の光景をあらためて目にしたキリコは、ここが惑星サンサと呼ばれる星であることを思い出す。
やがて、イプシロンのAT隊がまたもや襲撃を加えてきた。キリコたちは改造した姿勢制御ノズルを使って、秘密結社のATを次々と撃破していく。イプシロンの部隊が苦戦している頃、サンサの衛星軌道上でも事態が変化していた。バララントの艦隊がテルタインを挑発していたのである。帰還命令に応じないイプシロンに業を煮やしたテルタインは先制攻撃をかけてしまう。応戦するバララント艦隊。キリコたちは混乱する状況のなか、戦艦Xを爆発させ、その隙に脱出することに成功するが……。
第三十四話『サンサ』
戦艦Xを脱出したキリコたちは、謎の一団に包囲された。フィアナをトレーラーに残し、ATで戦いを挑むキリコ。手慣れたキリコの戦いに、一団のリーダーは相手がただ者でないことを悟る。戦闘は意外な形で終結した。キリコにとっては旧知の仲であるゴウトが仲裁にあらわれたのである。キリコたちを襲ったのは、この星の転がっている兵器の残骸を修理して売り飛ばす再生武器商人であり、キリコたちのトレーラーを狙っていたのだ。商人たちも、大事な取引相手であるゴウトの仲間・キリコたちをアジトへ迎えいれる。
一方、テルタインではバララント艦隊まで現れた状況の変化に、キリコに対する攻撃はあと一度と艦長のフットーが決定していた。また、イプシロンは戦艦Xで入手したキリコの異常な治癒能力に疑念を抱く。
武器商人たちのアジトで、キリコはココナやバニラとも再会する。ココナは初めて会うフィアナの美しさに心を乱される。そんなココナに声をかけることもないキリコの姿に、ゴウトは彼の変化を感じとる。
やがて、イプシロンの部隊がアジトへ襲撃を加えてきた。キリコを渡すよう要求するイプシロンに、ゴウトは砲撃で応じる。だが、商人たちの女リーダーであるゾフィーは攻撃を中止させてしまう。ココナが、キリコが元レッド・ショルダーであることを話してしまったのだ。サンサを蹂躙したレッド・ショルダーに対するゾフィーたちの憎しみは深かった。キリコは一対一でのイプシロンとの対決を決意する。
第三十五話『死線』
イプシロンと対決するキリコ。もはや、キリコはフィアナの援護さえ欲してはいなかった。だが、そこへバララントからの奇襲攻撃が加えられた。ギルガメスとの秘密会談で自分たちの敵がギルガメスでないことを確認したのだ。軌道上での戦闘の復讐をもくろむバララント部隊の苛烈な攻撃に、イプシロンたちも窮地にさらされる。激しい戦闘に巻き込まれ、ゾフィーたちのアジトは壊滅した。ゴウトたちは自力で脱出し、キリコもフィアナを連れて、トレーラーに乗り込んだ。バララント軍はアジト跡を調査するが、何も発見することはできなかった。
目的もなくトレーラーを走らせるキリコ。その後を追う者がいた。ゾフィーである。かつて、レッド・ショルダーの虐殺によって家族を殺されたゾフィーには、キリコはけっして許すことのできない相手だったのだ。キリコは襲ってきたゾフィーを逆に捕らえるが、砂漠に解放してしまう。その夜、キリコたちは廃棄ドームのなかで野営をしていた。フィアナがジジリウム欠乏による発作を起こしはじめたため、補給基地跡を目指す決意をするキリコ。そこへバララントの偵察隊が襲ってくる。ゾフィーが密告したのだ。戦闘のすえ、トレーラーとATを失ってしまうキリコたち。キリコはまたもゾフィーを見逃すと、身体の硬直をはじめたフィアナを背負って、砂漠へと歩を進める。だが、その背中を憎しみと悲しみに満ちたゾフィーの目が見つめ続けていた……。
第三十六話『恩讐』
ジジリウムがあるかもしれないバララントの補給基地跡をめざし、フィアナを背負って歩き続けるキリコ。そして、その後を追うゾフィー。苛烈な環境に体力を奪われながら、彼らの無言の旅は続く。しかし、予備の酸素ボンベを携行していなかったゾフィーは、酸欠のあまり、砂漠に崩れ落ちた。大戦末期の戦役によって生態系を破壊されたサンサの環境は、酸素ボンベなしでは生きていくこともできなくなっていたのだ。やがて、目覚めたゾフィーは自分のボンベが新しいものに換えられていることを知る。キリコの行いであった。数限られたボンベを与えることは、キリコたちにとって自殺行為に等しかった。補給基地へ近づきつつも、キリコたちに残された酸素は減りつつあった。
まさにキリコたちが死を覚悟した瞬間、キリコはそこが戦場跡であることに気づいた。スクラップの中から小型宇宙艇を発見するキリコ。そこで酸素ボンベを発見したキリコは、そこに残された計器の表示から、ここで戦闘が行われたのは、奇しくもリドで自分がフィアナと出会った日であったことを知る。フィアナと自分の酸素ボンベを交換したキリコの前に、銃を手にしたゾフィーが現れた。引き金にかけられたゾフィーの指がしぼられようとしたその時、ゴウトたちのバギーとバララントの偵察機が現れた。キリコたちを回収したバギーは補給基地へ逃げ延びた。フィアナをジジリウムに浸すキリコ。なおもキリコに復讐しようとするゾフィーに、ココナが叫ぶ。その涙を見たゾフィーは、いずこかへと去っていくのであった……。
第三十七話『虜』
キリコはバララント軍から奪ったATの整備を続けていた。ゴウトたちも脱出の準備を進めるが、キリコには彼らと同行する意志はなかった。フィアナにとって不可欠な液化ジジリウムのあるここを離れることはできない。キリコの考えを知ったゴウトたちは、自分たちも残ることを決意し、応戦の準備をする。バララント軍が必ず襲ってくることは、誰もが承知していた。
バララント軍の指揮官は秘密結社の新たな襲撃を予想する。彼は自分の望む状況を演出するために、攻撃を開始した。ゴウトたちの決死の応戦にも関わらず、一同はバララント軍に捕まってしまう。やがて、指揮官の前に連れ出されたキリコは、意外な指揮官の正体を知らされる。彼はかつてメルキア軍の情報将校であったロッチナだったのだ。自ら<神の国から来た男>と名乗るロッチナに、キリコはゴウトたちの釈放を要求する。それに対し、ロッチナが提示した交換条件は、キリコとイプシロンの対決であった。
一方、テルタインにもキリコたちが捕らえられた情報が、すでにもたらされていた。艦長のフットーは行方不明のイプシロンを回収しようとするが、アロンとグランはキリコとの対決に期待する。
やがて、ロッチナはキリコに交渉の返事を求める。三人の安全を約束するロッチナに、キリコも要求を受け入れる。その夜、ついにイプシロンの奇襲がはじまった。バララント軍と秘密結社のAT隊が激突する乱戦のなかで、キリコとイプシロンは対峙する。
第三十八話『暗闇』
補給基地跡で、キリコとイプシロンは対決する。だが、キリコには闘志はなかった。イプシロンの闘志をいやすためか、キリコは望まない戦いに応じる。そのさなか、基地に備蓄された火薬が誘爆した。弾薬庫の爆発によって、テルタインのAT隊は全滅。キリコとイプシロンは地下に落ちていった。
不本意な結末に、ロッチナは探索隊を派遣する。どうやら、二人は瓦礫の下に閉じこめられているらしい。ロッチナは彼らの救出を命じた。
キリコとイプシロンは、二人だけで閉じこめられていた。心ならずも出口をともに探す二人……。イプシロンは、キリコに言葉を投げかける。なぜ戦うのか、なぜプロトワンをフィアナと呼ぶのか。その言葉にキリコは自覚していなかった疑問の存在を知る。イプシロンはPSとしての誇りを心の支えとして対決してきた。キリコはそんな彼の誇りを否定する。だが、自分とキリコが異質な存在だと主張し続けるイプシロンも、認めざるを得ない共通点があった。常人を遥かに超越した戦闘力である。
バララントの探索隊が、ついに地下の二人を発見した。キリコはバララントに保護されたが、イプシロンはテルタインから派遣されたAT隊と合流する。バララントの部隊を撃破して帰還するイプシロン。キリコとイプシロンは再戦の時と場所を誓いあっていた。ロッチナは満足し、ゴウトたちを解放する。フィアナはさらに続く二人の戦いに恐れを抱く……。
第三十九話『パーフェクト・ソルジャー』
キリコとイプシロンの再戦は、誰にも止めることはできなかった。テルタインの艦長であるフットーの意志にもかかかわらず、静かに時を待つイプシロン。そして、フィアナの懇願にも応じないキリコの強い意志。ロッチナとフィアナは、この戦いによってキリコが自分の宿命に気づくことを期待し、恐れていた……。
その頃、不可侵宙域である惑星サンサの戦闘は、すでにギルガメス軍にも関知されていた。かつて、ロッチナの上官であったバッテンタインは、サンサにキリコ、PS、ロッチナ、テルタインらが関与していることを知り、宇宙艦隊の派遣を決意する。
そして、ついに対決の時がやってきた。キリコは約束の地であるシグレ・クレーターへ向かう。ロッチナ、フィアナとともに。二人の最後の戦いは、イプシロンの奇襲によりはじまった。初手で葬るつもりのイプシロンの攻撃を、キリコはかわす。二人の激戦をフィアナは正視できなかった。やがて、キリコの異常なまでの戦闘能力はついにイプシロンを追いつめていく。その姿に、ロッチナはキリコもまたPSであることを確信する。それを否定したいと望むフィアナも、目の前の現実から目をそらすことはできなかった。
ついにイプシロンにとどめを刺そうとするキリコ。それを止めたのはフィアナであった。キリコもPSである、と叫ぶフィアナ。イプシロンは、その言葉を信じることで自分の誇りを守りながら、死んでいった……。
第四十話『仲間』
キリコとフィアナの乗ったシャトルは、たしかにクメン王国の密林から脱出した。だが、惑星メルキアの衛星軌道上で何者かが彼らを取り込んだのだ。二人を取り込んだ謎の存在は、無人の戦艦のなかで、執拗にキリコに過去との対決を強要する。次第に心が病んでいくキリコ。二人の乗った戦艦は、バララントの領宙を侵犯し、彼らは否応なしに戦いのなかに引きずりこまれていく。だが、キリコにとってそれは安息できる瞬間への逃避ともなっていた。
やがて、戦艦は惑星サンサに不時着する。この地でキリコはゴウト、ココナ、バニラと再会する。だが、仲間との一時も、キリコに安息を与えてはくれなかった。そして、またもイプシロンの執拗な追撃が迫ってくる。しかし、これこそが、キリコにとっての安息であった。自分の真の同類、仲間であるイプシロンとの対決こそが……。