【ムックと共に】 第30話



 登山と犬(5) 

   共に登山を楽しめるルール作りを



 犬連れ登山の規制は各山域でどうなっているのかをインターネットで調べてみた。

 私が調べた範囲内では、全国の山域を網羅したこの種の公的な情報は見つけられなかった。情報源は主に、犬連れ登山をしている人たちの体験記である。いちいちウラを取っていないから、正確性に欠ける情報も混在しているかもしれない。また、犬連れ登山の報告があっても、実は飼主が規制を知らずに入山し、たまたま誰にも咎められなかった事例もあるかもしれない。しかも私自身の登山計画の参考にするつもりもあって、関東甲信から東北までの限られた地域しかリストアップしていない。結果は
別紙のとおりだ。

 リストアップして、思った以上に多くの山に犬連れ登山者が入山しているのがわかった。レポートを読むかぎり、かなりの山域で犬を連れての登山が可能だ。私自身がこの1年、ムックを連れて関東甲信の山をかなり歩いて1度も入山規制にあっていないから、実感としてもこれは頷ける。

 非常に荒っぽいくくりになるが、私が知りえた範囲内で山域別にざっとみてみよう。

 東海道・伊豆、富士山・富士五湖、奥多摩・奥秩父、丹沢・箱根、高尾・道志、中央道、上越、日光、北関東での入山規制は報告されていない。

 入山規制のある山域をみてみると、まず信越では、夏の湯ノ丸山一帯がダメなようだ。湯ノ丸山では登山口や山頂に管理人がいて、犬連れ禁止といわれたという報告がある。湿原のある三方ヶ峰も不可だという。この地域ではこの他の山では入山規制は報告されていない。すぐ近くの根ッ子岳・四阿山には私自身がこの7月にムックと登ってきたし、犬連れOKのレストランもある軽井沢近辺も問題はないようだ。妙高・飯綱にも登山報告がある。

 八ヶ岳では、麦草峠・白駒池一帯が犬連れ全面禁止らしい。車から犬を降ろそうとして、ダメだと禁止されたという報告がある。ここは無雪期には佐久側からも諏訪側からも車で峠まで登ってこれ、駐車場から20分ほどで白駒池まで行かれるから、登山というよりも観光地化して、犬連れ観光客のもたらす環境への弊害が看過しえないまでになっているのかもしれない。

 だが北八ヶ岳でも、すぐ近くの坪庭ではリードに繋げば犬もOKだという。コーギーくらいまでの大きさなら、ロープウェイにも乗せてもらえるらしい。

 蓼科山の山頂小屋では、犬を見ると入山禁止と注意をされるが、あまり強い禁止ではなく、歓迎はされないといった程度らしい。山頂まで登ってきてしまったものは仕方がない、ということなのだろうか。本気で禁止するなら登山口にしっかりバリアを張るべきだ。

 南八ヶ岳の報告は少なく、硫黄岳のレポートのみである。ここはOKらしい。もっとも硫黄岳石室から横岳にかけては豊かなお花畑が広がるから、花の時期にここまでノーリードで犬を入れるのはひかえたほうがいいだろう。

 私はムックを連れて2度ばかり八ヶ岳南部に登っている。一度は昨年の秋で、天女山から三ツ頭を往復した。このときは行き会った単独行の男性から、「俺は犬が嫌いなんだ、犬を山に連れてくるな!」とストックを振り回しての威嚇にあったが、むろん正式な入山禁止ではない。もう一度は4月に美濃戸から行者小屋、中山乗越、赤岳鉱泉をまわる残雪トレッキングだったが。美濃戸小屋にムックを連れて駐車のお願いに行ったが、小屋の人からは何も言われなかった。行者小屋で大休止をしたが、ここでも小屋番から何も言われなかった。残雪期のウィークデイだったからなのかもしれない。

 東北の山では早池峰山がダメらしい。秋田駒の登山口には〈ペットは放さないこと〉と記された環境省の看板があるという。つまりは北八ツの坪庭同様リードに繋げばいいということか。ここはハイシーズンにマイカー規制があるから、規制のあるウィークエンドや夏は実質的に犬連れは不可能かもしれない。駒止湿原も犬連れは入れないらしい。

 北アルプスでは白馬・八方尾根、燕岳、乗鞍岳、上高地など、国立公園内は全面禁止のようだ。八方ではロープウェイも乗せてもらえないようだが、面白いことに隣の五竜遠見のロープウェイは犬料金が設定されていて、犬もお客として扱ってもらえるらしい。ただし犬連れで歩けるのは地蔵ノ頭まで。乗鞍高原の一之瀬園地への入山報告はある。太郎平もOKらしい。たしかここの小屋には犬がいたのではなかったかと思う。

 総じて北アルプスは入山規制が厳しいようだが、南アルプスの北岳は大丈夫らしいという報告がある。私も昔、夏の北岳肩の小屋で犬を連れた登山者を見ている。ただし犬は小屋の外につながれていたから、夜の寒さと飼主から離れている不安でとても心細いようであった。私自身はムックにそんな思いまでさせて高山につれて行こうとは思わない。

 南アルプスのその他の山の報告は見当たらない。

 そのほか人気のある山では、前にも書いたように白山は犬連れお断りだ。尾瀬でも犬連れ登山者を見たことがない。ここは湿原と木道の連続だから、仮に禁止をされていなくても犬を連れて行けばほかの登山者の迷惑となる。禁止以前の問題だろう。

 ついでにロープウェイなど山麗の交通機関について記しておくと、筑波山では犬も200円払えば乗れるらしい。那須・茶臼岳のロープウェイも中型犬までならケージに入れれば乗れるという。奥多摩の御岳山のロープウェイも子供料金で乗車できる。その上のリフトもOKだという。丹沢・大山のロープウェイも150円でダンボールを買ってそこに入れることのできる犬なら料金200円で乗れるという。谷川岳も片道200円で乗れる。ケージに入れたり抱き上げる必要もないとのこと。ただし乗客が多いときも可能かどうかはわからない。北アルプス白馬地区の岩岳ロープウェイもほかに乗客がいなければ手荷物料金で乗せてもらえるという。

 また「遊歩会山歩き情報」「WAN in Black」「登山犬"Hana"」などにも豊富な情報が掲載されているので、犬連れで山に出掛ける方にとっては有用な情報源になると思う。ぜひ参照していただきたい。

 ざっとこんなところで、犬を連れて登れる山はあまたあるのだから、不愉快な思いをしたくなければ敢えて入山禁止の山に近づくことはないだろう。禁止されている山に強引に入れば、関係者の不評を買って犬連れ登山者全体が迷惑する。

 ただし犬連れ登山者が自己規制をして、禁止の山に近づかなければそれで問題なしかというと、そんなことはない。

 この種の情報は非常に少ないから、北アルプスなど一部山域を除くとどの山が犬を連れて入れないか、犬連れ登山者が事前に知ることができない。たとえば国立公園内は自然公園法などでペットの持ち込みは禁止されているとよく言われるが、それは事実に反していて、犬の入山を規制する法律はない。だから環境省はあくまでペットを持ち込まないよう「お願い」をしているにすぎない。その根拠も、犬の糞の植生に与える影響や寄生中など、実証的な調査の結果とはいえない理由によるようだ。その結果、いま見てきたように国立公園でも山域によって犬連れ登山に対する許容度がかなり違う。

 こういう状況だから、思わぬトラブルに巻き込まれる例もある。事例を二つ紹介しよう。

 まず苗場山。『今日もいた、犬連れ!』と題されたこのページによると、昨年7月の末、登山者の混雑する週末に犬を連れた夫婦が入山してそれを咎める筆者と感情的な言い合いになったようだ。このページを一瞥されるとおわかりのように、批判者もかなり感情的になっているようで、ホームページ上で口を極めて犬連れ登山者を罵っている。こういう調子で犬連れ登山者を批判したのだろう。売り言葉に買い言葉になり、飼主側が「犬を連れてきてはならぬという看板はここにはないではないか」といった遣り取りになったようだ。どちらも冷静さを欠いて、これでは両者とも本来楽しいはずの登山がぶち壊しだろう。

 この山では一部の人の犬連れ登山者への非難、あるいは嫌悪感はことのほか強いようだ。〈今日も〉と謳っているように、ほかにもトラブルがあるようで、もうひとつ同じサイトに犬連れ非難のページがある。同じ筆者によるものかどうか不明だが、こちらは同じ年の6月18日、残雪の上をノーリードの犬が走りまわっていて、犬が嫌いな人間もいるのだから繋いでほしいと注意したところ、口論になったという。先の例よりも筆は落ち着いており、この筆者の言うとおりだとすれば非は犬連れ登山者の側にある。

 このサイトはけっして犬連れ登山を非難するために開設されたものではなく、苗場山を総合的に研究し、多くの人と山を楽しむためのものだ。筆者のプロフィールがないので明確なことは言えないが、内容を読むと学校の先生らしい。苗場山に犬連れ登山者が増え、その弊害も目に余るようになってきたので、高層湿原に犬を入れるのはどんなものか、愛犬家と議論をしたいとページを創ったようで、こういう姿勢で犬連れ登山を考えてくれる人がいるのはありがたい。寄せられたメッセージを読むと、大方は冷静な意見を述べていて、犬連れ登山に反対、理解あり、中庸とさまざまだ。

 上の二つの犬連れ登山者非難のページはこのサイトの読者の手になるもののようだ。建設的な議論をする前に、出会い頭に感情的な関係になってしまったようで、犬を連れているからといってべつに卑屈になることはないが、場所がデリケートな高層湿原だけに、犬連れ登山者のほうがまず謙虚に対応してほしい。また、高層湿原の入口に、湿原を歩くうえでの注意事項を掲げておき、そのなかに犬連れ登山者への注意も記載しておけば、いきなり口頭で注意される場合のような感情のぶつかり合いはかなり避けられるだろう。

 つぎに、『遊歩会』という犬連れ登山者の会を主催している〈みどり氏〉が今年2月に乗鞍高原のスノーシューハイクの際に出会った事件。

 この方のサイトは内容の充実した見事なもので、事件の顛末は『2001年2月 雪の乗鞍でおこったこと』と題されたページを読んでいただくのがいいが、犬の糞害にフンガイした地元の一業者が、「環境庁」や「クロスカントリー振興会」「大野川地区」などを名乗った犬連れ立ち入り禁止の張り紙を独断で掲げ、クロスカントリーコース内への筆者らの立ち入りを拒んだ事件である。

 幸いいろいろの人たちの動くところとなって、現地安曇村観光課との話し合いを経て、犬の飼主へのマナー遵守を呼びかける地区の看板を掲示することで解決し、再びその地区に犬を連れて入れるようになったとのことだが、〈みどり氏〉も言うように、これで問題が終わったわけではない。同様の問題はどの山域でも起こりうるし、ひとつ間違えれば犬連れ登山者入山禁止という決定がなされないともかぎらない。

 こうした不幸な事態を避け、地元関係者、一般登山者、犬連れ登山者が相互理解と信頼関係を醸成して楽しい登山と山の環境保全を実現していくには何が必要かを、最後に簡単に整理してみよう。

 なによりもまず、犬連れ登山者の組織化を進める必要がある。われわれ犬連れ登山者が組織的な行動を起こさなければ犬連れ登山に対する社会の理解は進まない。犬、乃至は犬連れ登山に対する現在の社会の許容度を考えると、何もしなければ行動可能なフィールドはむしろ狭まっていくだろう。

 組織化を果たしたうえで、関係者との話し合いによるルール作りに着手する。現状は犬連れ登山を禁止するかどうかは各地区の判断にゆだねられていて、なかにはかなり恣意的な判断による禁止の決定もあるのではないのか。犬連れ登山者も、他人に迷惑を及ぼさないかぎり、国民の一人として国立公園を含む自然の中に立ち入る権利がある。その権利を一部の人の恣意的な判断で制限されるのはあるべき姿ではない。

 だからできれば犬連れ登山者の多数を代表する組織が、山岳関係のしかるべき機関などと意見交換、研究を進め、一定の幅をもった判断基準をつくる。そしてそれを基礎にして各山域の実情を加味したルール作りを犬連れ登山者組織と各地域とが話し合いのうえ制定していく。その過程で、現在犬連れ登山を禁止している地域もあらためて禁止を再度見直してもらう。

 各地域で犬連れ登山者に関するクレームが発生したら、それを集中して受け付け、組織的な対策を講じることも、入山禁止地区を増やさないためには必要だ。

 それと並行して、犬連れ登山者のマナー徹底のための啓蒙活動を組織は継続的に行う。トラブルや入山禁止に至る過程をみてみると、原因は飼主のマナーの悪さに起因するものが多いのではないのか。これを改善することが、犬連れ登山を社会に認めてもらうための急がば回れの早道だろう。また、犬連れ登山が可能不可能の地域情報を広く発信することができれば、立ち入り禁止の山に知らずに入山して無用なトラブルをひきおこすことも防止できる。

 組織化への着手はできるだけ早いほうがいい。一から作るのはたいへんだが、先ほどの遊歩会はかなりの会員を擁し、私の知るかぎり犬連れ登山者の組織としては現在唯一のものではないだろうか。だからこの遊歩会を母体として、より多くの犬連れ登山者がここに結集してまずしっかりした組織を作ってはどうだろう。

 主催者のみどりさん、遊歩会のメンバーのみなさん、いかがでしょうか。


(2001年10月27日)


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