命  令  書


松山市北持田町131−1
申立人   愛媛私立学校教職員連合組合
執行委員長 柳瀬一秀

今治市中日吉町二丁目1番34号
同    今治精華高等学校教職員組合
執行委員長 檜垣義光


今治市中日吉町二丁目1番34号
被申立人      学校法人今治精華学園
                代表者理事 森 一男


 上記当事者間の愛媛労委平成11年(不)第1号今治精華学園事件について、当委員会は、平成12年8月9日第1058回公益委員会議において、会長木村五郎、白石喜徳、原田満範、友澤美幸、山下泰史が出席し、合議のうえ、次のとおり命令する。

主       文


 1 被申立人は、檜垣義光に対する平成10年7月18日付け停職処分をなかったものとして取り扱い、同人に対する賃金等減額分金311,760円を支払わなければならない。

 2 被申立人は、申立人らに対し、本命令書写しの交付の日から7日以内に、下記の文書を手交しなければならない。(注:年月日は手交した日を記載すること。)



平成 年 月 日
愛媛私立学校教職員連合組合
執行委員長 柳瀬 一秀  殿
今治精華高等学校教職員組合
執行委員長 檜垣 義光  殿

学校法人今治精華学園
代表者理事  森 一男



 当学園が行った下記の行為は、愛媛県地方労働委員会において、不当労働行為と認定されましたので、今後はこのような行為を繰り返さないようにいたします。





 1 檜垣義光氏に対して、平成10年7月18日付け停職処分を行つたこと。また、それに伴って同氏の賃金等を減額したこと。

 2 平成10年6月25日に組合機関紙「羅針盤」の配布活動を妨害したこと。

以上

 3 申立人らのその余の申立ては、これを棄却する。


理      由

第1 申立人らの請求する救斉内容
 1 被申立人は、今治精華高等学校教職員組合執行委員長檜垣義光に対して行った、平成10年6月29日付け戒告処分及び平成10年7月18日付け停職処分が、それぞれなかったものとして取り扱い、同委員長に対する賃金等減額分金311,760円を支払わなければならない。
 2 被申立人は、今治精華高等学校の校内及び校外において、今治精華高等学校教職員組合機関紙「羅針盤」及び愛媛私立学校教職員連合組合機関紙「愛媛私教連新開」の配布活動を妨害するなどして、申立人らの組合活動を妨害してはならない。
 3 上記1及び2に係る謝罪文の掲示

第2 認定した事実
 1 当事者
 (1) 申立人
 ア 申立人愛媛私立学校教職員連合組合(以下「私教連」という。)は、平成7年7月21日、愛媛県下の私立学校の教職員で構成される単位労働組合などで結成された連合団体であり、本件審問終結時(平成12年4月14日)において、6単位労働組合と個人加盟の組合員で組織され、組合員数は、約180名であり、全国私立学校教職員組合連合に加盟している。
 イ 申立人今治精華高等学校教職員組合(以下「組合」という。)は、平成10年6月13日、今治精華高等学校に勤務する教職員によって結成された労働組合であり、同日、私教連に加盟している。なお、組合員は、執行委員長と書記長以外明らかにされていない。
 (2) 被申立人
 被申立人学校法人今治精華学園(以下「被申立人」という。)は、昭和23年11月1日に設立された学校法人であり、肩書地に所在し、今治精華高等学校(以下「精華高校」という。)のほか幼稚園を経営しており、平成12年4月現在の教職員数は、非常勤講師を含めて59名(うち精華高校41名)である。
 なお、精華高校は、大正15年今治精華高等女学校として創立され、昭和23年の学制改革により現校名となり、普通科、食物科及び衝生看護科を有し、平成12年4月現在の生徒数は340名である。

2 組合結成に至るまでの経緯について
 (1) 組合の執行委員長である檜垣義光教諭(以下「檜垣教諭」という。)は、昭和52年九州大学大学院農学研究科を修了後、九州の私立高等学校に勤務し、平成7年4月、精華高校に教諭として採用された。授業は、生物及び総合理科を担当し、放課後の部活動では、生物部の顧問をしている。
 (2) 平成9年11月から翌年1月頃にかけて、檜垣教諭と組合の書記長である伊川淑子教諭(以下「伊川教諭」という。)は、被申立人から勤務成績不良や職務に必要な適格性の欠如などの理由で退職を強く求められた。そこで、同人らは私教連に個人加入し、伊川教諭は私教連とともに団体交渉を行い、檜垣教諭は私教連の組合員であることを通告した。その後、被申立人からの退職を求める言動はなくなった。
 (3) 平成10年6月13日、檜垣教諭らは、上記の経験を通じて、教員としての身分を安定させるため、また、待遇の改善などのためには職場に労働組合が必要であると考え、組合を結成した。

3 ジュース事件に対する戒告処分について
 (1) 漢字テストをめぐる金銭のやり取リ
 ア 精華高校では、全校を通じて、週1回程度、漢字の書き取りテスト(以下「漢字テスト」という。)を行っている。平成10年5月中旬頃、檜垣教諭は、理科室で漢字テストの勉強をしていた同校の生物部員である男子生徒らから、「漢字テストでよい成績を取るためには、どうすればよいのか。」と相談され、「君達の成績が10点満点であれば、私がジュースをおごろう。その代わり、もし10点満点でなければ私におごれよ。」という話を持ちかけた。この申し出に対し、男子生徒らのうち1名は断ったが、もう1名(以下「A君」という)は受諾した。
 なお、檜垣教諭は、放課後の部活動時などに、生物部員らに対し、ジュースをおごることがあった。
 イ 同年5月22日、第2回の漢字テストが行われた。A君は10点満点を取れなかったため、檜垣教諭のもとに、ジュースではなく金銭(100円)を持って行った。檜垣教諭はそれを受け取って、自己の金銭と区別して、机の引出に保管した。
 ウ 同月29日、第3回の漢字テストが行われ、A君は10点満点を取ったので、今度は、檜垣教諭がA君に机の引出に保管していた金銭(100円)を渡した。
 エ その後行われた第4回及び第5回の漢字テストでは、A君は10点満点を取ることができなかったため、その都度金銭(計200円)を檜垣教諭に渡した。
 オ 同年6月18日放課後、A君は、A君のクラスの副担任であり、校務分掌において生徒指導を担当する生徒課の課長である小原淳二教諭(以下「小原教諭」という。)に対し、これまでの檜垣教諭との金銭のやり取りを打ち明け、助けて欲しい旨を申し出た
 カ A君から相談を受けた小原教諭は、直ちにこのやり取りをやめるようA君に指導を行うとともに、A君の母親に電話で謝罪をした。その際、母親は、A君から檜垣教諭と漢字テストをめぐって金銭のやり取りをしていることは知っていたが、それをやめるように言っても、A君がかたくなにやめようとしないこと、漢字テストが近づくと、家庭でいらいらしていることなどを話した。
 キ 小原教諭は、この件を校長らに相談すれば、檜垣教諭の進退問題になりかねないと判断し、生徒課の教員らと相淡して、A君が直接檜垣教諭に金銭の返却を求め、今後このようなことは行わないという約束をし、二人だけでこのやり取りを終わらせるよう指導することとした。
 ク ところが、翌19日、A君は、昨日小原教諭から指導を受けたにもかかわらず、職員室で、その日に行われた第6回漢字テストで10点満点が取れなかったことによる金銭(100円)を檜垣教諭に渡した。その現場を目撃した小原教諭は、事は緊急を要すると考え、昨日の決定どおり、A君を檜垣教諭のもとに行かせることにした。
 ケ 同日放課後、A君は、檜垣教諭のもとを訪ね、漢字テストをめぐる金銭のやり取りをやめることを告げ、これまでに檜垣教諭に渡っている金銭の返却を求めた。それに対し、檜垣教諭は、「もうやめるのか。」と怒ったように言い、これまでに受け取っていた金銭(300円)を返した。
 コ A君から檜垣教諭の上記対応を叩いた小原教諭は、この問題が生徒課で指導する範囲を越えていると判断し、再度生徒課の教員らと相談して、翌20日、精華高校の渡邉以都甫校長(平成11年9月に退職した。以下「渡邉校長」という。)及び山戸一三教頭(以下「山戸教頭」という。)に、これまでの経過(以下「ジュース事件」という。)を報告した。
 (2) ジュース事件に係る懲戒委員会の開催
 ア 平成10年6月24日、被申立人の森一男理事長(以下「森理事長」という。)は、ジュース事件について報告を受け、学校法人今治精華学園就業規則(以下「就業規則」という。)第51粂第2項に基づく懲戒委員会を開催することを決めた。
 なお、就業規則によると、被申立人が懲戒処分を行うときは、理事長が招集する懲戒委員会の意見を聴くものとされている。
 イ 翌25日午後4時、「本校檜垣義光教諭の行った金銭のやりとりを伴った生徒とのかけ行為について」を議題とする懲戒委員会が開催され、懲戒委員による意見陳述が行われた。
 なお、懲戒委員には、理事長、校長、教頭及び各学科の主任並びに校務分掌における総務課、教務課及び生徒課の各課長が任命されており、進路渉外課、保健衛生課、環境美化課及び庶務課の各課長は除かれていた(ただし、進路渉外課長は普通科主任と兼務しており、普通科主任として任命されていた。)。また、以後の懲戒委員会も出席者を除き同じメンバーで開催されている。
 ウ 翌26日午後4時、再度懲戒委員会が開催され、檜垣教諭に対しジュース事件に関する事情聴取が行われた。そして、檜垣教諭は、事実関係について概ね認め、教育的配慮に欠けていた旨を述べた。
  檜垣教諭の退席後、引き続いて檜垣教諭の処分について協義が行われたが、処分内容は森理事長に一任された。
 エ その後、森理事長は、戒告処分を相当と判断し、その旨を懲戒委員に個別に諮り、了承を得た。
 (3) 戒告処分と始末書の提出
 ア 同年6月29日、被申立人は、檜垣教諭に対し、教育的配慮に欠けるものがあったとして、就業規則第51条及び第52条に基づく戒告処分(以下「戒告処分」という。)を行った。
 イ 檜垣教諭は、森理事長に戒告処分に係る始末書の提出を求められ、同日午後、始末書(乙5)を提出した。
 ウ 翌30日、檜垣教諭は、昨日の始末書で「かけととまがい」と書いたことを不本意と思い、新たに、「漢字指導において教育的配慮に欠けるものがあった」とする始末書(乙4)を提出した。
 エ その後、組合は、被申立人に対し、平成10年10月27日付け文書(甲9)で、就業規則第51条第4項に基づく処分理由を記載した説明書の交付を要求したが、被申立人は交付していない。

4 授業失念事件等に対する停職処分について
 (1) 授業の不実施
 平成10年6月25日7校時、檜垣教諭は、理科室で調べ物などをしていて、担当していた2年1組の生物の授業を行わなかった(以下「授業失念事件」という。)。
 (2)授業失念事件に係る懲戒委員会の開催
 ア 同年6月30日午前、森理事長は、授業失念事件についての報告を受け、同日午後4時、就業規則第51条第3項に基づき懲戒委員会を開催した。
  なお、今回は、冒頭から檜垣教諭に対し事情聴取が行われた。
 イ 事情聴取の開始早々、渡邉校長が檜垣教諭に対し事情聴取の内容を録音するかどうか確認したところ、檜垣教諭は、録音しない旨を述べた。
 ウ 開始から約45分間、懲戒委員は、檜垣教諭に対し、授業失念事件の事実関係について質問し、檜垣教諭は、それを概ね認めた。
 エ ところが、その後、上記事情聴取がほぼ終了したところで、檜垣教諭が小型の録音機を胸ポケットに所持し、これまでの内容を録音していた事実が発覚した(以下「隠し録音行為」という。)。そのため、懲戒委員が反発したまま、懲戒委員会は散会となった。
 なお、この録音機は、戒告処分後、被申立人からの組合攻撃に備えるためとして、私教連の柳瀬一秀執行委員長(以下「柳瀬委員長」という。)から檜垣教諭に対し携帯するよう渡されていたものであった。
 オ その後、森理事長は、檜垣教諭の処分内容について、懲戒委員に個別に意見聴取を行った。
 (3) 停職処分
 ア 同年7月18日、被申立人は、檜垣教諭に対し、処分理由説明書(甲14)のとおり、就業規則第51条第1項第2号ないし第4号に抵触する行為があったとして、就業規則第52条に基づく2週間(7月21日から8月3日まで)の停職処分(以下「停職処分」という。)を行った。
 イ 上記処分理由説明書に記載されているもののうち、生徒の成績表を理科室に放置していた件は平成9年10月頃に、また、劇薬の入った瓶を焼却場に放置していた件は平成10年3月頃に、校長らから注意もしくは指導を受け、改善されている。
 (4) 停職処分後の経過
 ア 檜垣教諭は、渡邉校長に対し、停職処分が組合に対する不当な攻撃であるとして、停職処分撤回要求書(乙16)を送った。それに対し、被申立人時、停職処分が組合活動と一切関係ないことを理由に撤回しない旨を回答した(乙18)。
 イ 平成10年8月7日、団体交渉の席上で、柳瀬委員長は、停職処分について、「このままでは地労委に提訴せざるを得なくなる。」と発言した。それに対し、被申立人側は、「組合であれば何をしてもいいということではない。」と述べた。
 ウ 同年10月15日、柳瀬委員長は、精華高校を訪れ、森理事長不在のため被申立人の理事に対し、「職場内で解決できないか。」との申し入れを行ったが、被申立人からの回答はなかった。
 (5) 賃金等の減額
 停職処分により、被申立人は、檜垣教諭に対し、平成10年8月分給与から155,879円、平成10年冬季一時金から155,881円を減額した。

5 組合機関紙の配布活動に対する発言等について
 (1) 組合結成後の状況
 平成10年6月13日の組合結成後、同月15日、組合は、被申立人に対し組合結成通知(甲20の1)を行うとともに、待遇改善などの要求を議題とする団体交渉を申し入れ、組合結成を知らせる組合機関紙「羅針盤1号」(甲30)を教職員に郵送した。
 (2)組合機関紙の配布に対する山戸教頭の発言
 ア 同月24日、職員会議後の午後6時15分頃、檜垣教諭らは、精華高校と県内の他の私立高校との賃金水準の比較表などを記載した組合機関紙「羅針盤2号」(甲19)を、教職員の宛名が書かれた封筒に入れて封をし、職員室において各教職員の机上に配布した。
 なお、精華高校の教員の終業時刻は午後4時45分であるが、この日は職員会議が午後6時過ぎまで長引いていた。
 イ 翌25日、山戸教諭は、檜垣教諭に対し、「ビラの配布は、勤務時間外でも校長の許可が必要である。」と述べた。それに対し、檜垣教諭は、「組合に帰って検討します。」と答えた。
 なお、就業規則にビラ配布を制限する規定はなかったが、山戸教頭は、職場には組合員以外の教職員がいることから、被申立人の許可がない限り、組合機関紙は配布できないものと考えていた。
 ウ 組合は、山戸教頭の発言は正当な組合活動に対する妨害行為であるが、結成間もない状況下で、差し当たり団体交渉を軌道に乗せるためには、この件で職場内に混乱を生じさせることは好ましくないと考え、自主的に組合機関紙の配布を教職員の自宅への郵送に切り替えた。
 (3) 組合機関紙の郵送と教職員有志の申し入れ
 ア 組合は、同年7月22日に組合機関紙「羅針盤3号」(甲31)を、同年10月6日に「同4号」(甲32)を精華高枚の教職員に郵送した。
 イ それに対し、同校の若い教職員らは、組合機関紙に記載されている渡邉校長についての批判的な意見などを読みたくないため、郵送を断りたいと考えた。そこで、総務課長である佐伯保之教諭(以下「佐伯教諭」という。)が精華高校で最も勤務年数が長いことから、同教諭に教職員の意見をまとめて欲しい旨の相談を持ちかけた。
 なお、佐伯教諭自身は、直接組合に断っていたため、組合機関紙は郵送されていなかったが、若い教職員らは、組合員がベテランの教員であるため、直接断ることができなかった。
 ウ その結果、教職員有志が連名の文書で組合に対し申し入れを行うこととなり、佐伯教諭は、上記教職員らとその申し入れ書を作成し、勤務時間中などに職員室で教職員の署名を集めた。
 エ 同月15日、精華高校の教職員有志23名は、組合に対し、組合機関紙「羅針盤」の配布や郵送をしないよう申し入れる旨の文書(甲5)を提出した。
 オ しかし、組合は、同年11月11日及び同月16日に組合機関紙「羅針盤号外」(甲33、甲34)を教職員に郵送した。
 カ そのため、同月20日、配布のなかった数名を除く教職員有志19名は、組合に対し、再度上記文書と同様の趣旨の申し入れ書(甲6の1)を提出した。
 キ 同年12月2日、精華高校の教職員有志23名は、私教連及び組合に対し、再々度上記申し入れ事と同様の趣旨の申し入れ書(甲7の1)を提出した。
 なお、この申し入れ事には、教職員有志が組合と被申立人の団体交渉の録音テープを聴いたとする旨の記載があった。
 ク 佐伯教諭は、これらの申し入れ書を組合へ提出するにあたって、精華高校の公用封筒や印章を使用した。
 ケ 精華高枚には、渡邉校長が校長職に就任した際、教育面での活動を充実もしくは発展させるために、週1回程度、教頭、総務課長及び教務課長と話し合うために設けた会(以下「三役会議」という。)があり、その会の情報交換の中で、組合活動や団体交渉の状況などが話題に上ることがあった。
 (4) 本件申立て後の状況
 ア 本件申立て後、当委員会の審問において、山戸教頭は、勤務時間外であれば校長もしくは教頭に届け出ることによって、職員室で組合機関紙の配布を行うことに問題がない旨の証言をした。また、森理事長も、山戸教頭と同様の証言を行い、かつ、檜垣教諭に対する山戸教頭の発言について行き過ぎがあったことを認めた。
 イ 組合は、同年7月22日以降、組合機関紙を計11回郵送してきたが、山戸教頭の上記証言に基づき、平成11年10月25日から職員室での配布を再開し、本件審問終結時(平成12年4月14日)までに計4回(羅針盤第8号から第11号)の配布を行った。
 ウ 本件申立て後、団体交渉は、本件審問終結時までに計3回行われている。また、私教連、組合及び被申立人の三者は、組合と被申立人が、今後、労使問題について双方で前向きに対処することを確認する旨の平成11年10月8日付け覚書(乙26)を締結している。

6 懲戒に関する就業規則について
 (1) 就業規則
 平成10年当時の懲戒に関する就業規則は、次のとおりである。

(懲戒処分)
 第51条 教職員が次の各号の一に該当するときは、その情状により、戒告、減給、停職又は解雇をすることができる。
  (1)  (略)
  (2) 上司の職務上の指示に従わず学園の秩序をみだしたとき
  (3) 職務上の義務に違反し、又は職務を怠り、若しくは業務の遂行又は運営を阻害するような行為があったとき
  (4)教職員としての品性を欠き、学園の名誉を損ずる非行のあったとき
  (5) (略)
 2 前項の処分を行うときは、別に定める懲戒委員会の意見を聴くものとする。
 3 懲戒委員会は理事長が招集する。委員の人選は理事長と校長(園長)・教頭が行うものとする。
 4 理事長又は校長(園長)は、第1項の処分を行う場合において、その教職員に対し、処分理由を記載した説明書を交付するものとする。
(懲戒処分の種類)
第52条 懲戒処分は次のとおりとする。
  (1)戒 告  始末書を提出させ、戒告書を交付して将来を戒める。
  (2)減 給  給与を減額する。ただし、労働基準法第91条の制限を超えてはならない。
  (3)停 職  3ヵ月以内の期間を定めて出勤を停止する。この場合において、その期間の給与は支給しない。
  (4)解 雇  本人の願出によらず解雇する。

 (2) 就業規則の改定
 被申立人は、就業規則の改定を行い、新しい学校法人今治精華学園就業規則(以下「新就業規則」という。)を平成11年4月1日から施行した。
 新就業規則には、第47条以下に懲戒に関する規定があり、第50条の規定は、次のとおりである。

(懲戒解雇)
第50条 教職員が、次の各号の一に該当する場合は、懲戒解雇とする。ただし、事情により、これを軽減することがある。
  ( 1)〜(11) (略)
  (12) 学園内に於いて、許可なく演説・放送・掲示・印刷物等の貼付または配布をした者
  (13)〜(16) (略)

 なお、本件申立て後の審問において、森理事長は、勤務時間外に特定の各所で組合機関紙を配布することについては、新就業規則第50条第12号に当たらない旨の証言をしている。

第3 判 断
1 申立人らの申立人適格について
 (1) 被申立人の主張
 申立人らは、檜垣教諭が停職期間中の賃金等減額分のバックペイを求めることについて、固有の救済利益もしくは救済の必要性を有しない。したがって、前記第1、1については、内容の審査に入るまでもなく、申立て自体失当として却下を免れない。
 (2) 当委員会の判断
 不当労働行為制度の下で、組合員に対する不利益取扱その他の不当労働行為が行われたときは、同時に組合活動を侵害するものであるから、労働組合はその任務である組合員の権利の保護と団結権擁護のための独自の権能に基づいて、労働組合自身の権利が侵害されたものとして、その救済を求める利益を有する。また、このことは、上部団体とその傘下の労働組合の組合員との関係においても同様である。
 したがって、不当労働行為の救済として賃金等減額分のバックペイを求める本件において、申立人らは、当事者適格を有するため、被申立人の主張は採用できない。

2 ジュース事件に対する戒告処分について
 (1) 申立人らの主張
 ア 檜垣教諭は、あくまで生徒を励まし、漢字テストに対する意欲を喚起するために金銭のやり取りを約束したものであり、賭事をしたものではない。
 クラスマッチで優勝すれば学級担任が自腹を切ってジュースをふるまうことなどは、教育現場で往々にして行われていることであり、仮に金銭のやり取りをしたことに多少の問題があったとしても、口頭による注意もしくは指導で事足りる程度の問題に過ぎず、懲戒処分に該当するような問題ではない。
 イ 檜垣教諭が同様の行為を繰り返すおそれがあるなら、何よりも校長らが、急ぎ教育的観点からそういう行為をしないよう指導をするであろうが、それをすることなく懲戒処分を決めている。また、組合の要求にかかわらず処分理由説明書が交付されていないため、処分の対象とされる事実や急ぎ処分をする必要性が明らかでない。
 ウ 精華高校においては、「教育的配慮に欠ける」教員に対し、懲戒委員会が開催された事例がないにもかかわらず、今回、被申立人がやみ雲に戒告処分を行ったことは、組合活動を敵視し、その中心である執行委員長を「見せしめ」として処分して、組合の影響力の拡大阻止を図った不当労働行為にほかならない。
 (2) 被申立人の主張
 ア ジユース事件における檜垣教諭の行為が賭事であることは、何人の目から見ても明らかであり、純真な生徒に与えた精神的悪影響ははかり知れず、教育者としてあるまじき所業である。
 イ 檜垣教諭は、A君が金銭の返還を申し出た際、「もうやめるのか。」と怒声をもって応じたことから、再度、他の生徒に対して、教育的指導と称して同様な非常識極まりない所業に及ぶ可能性も十分うかがえ、管理職からのある程度時間を要する矯正監督や率先垂範よりも、一刻も早く、かかる異常な指導方法を阻止するために、急きょ戒告処分に踏み切ったものであり、不当労働行為でないことは明らかである。
 (3) 当委員会の判断
 ア 戒告処分の合理性の存否
 (ア) 処分理由について
 檜垣教諭の行為は、前記第2、3、(1)、アないしウのとおり、当初ジュースを賭けていたものが、10点満点をとれなかったA君が金銭を持ってきたことから、以後、金銭のやり取りになったものであり、当初から金銭を対象としていなかったこと、その額も1回100円であること、また、檜垣教諭は、受け取った金銭を自己の金銭と区別して、机の引出に保管していたこと、部活動時などに、生物部員であるA君にジュースをおごることもあったこと、などを併せ考えると、金銭を目的とした賭博行為とは認め難いものである。
 しかしながら、檜垣教諭は、前記第2、3、(1)、アのとおり、自ら漢字テストの成績を対象とするジュースのやり取りを提案し、前記第2、3、(1)、イ、エ及びクのとおり、実際に生徒から再三にわたって金銭を受け取っている。また、前記第2、3、(1)、ケのとおり、金銭のやり取りをやめることを告げたA君に対し、「もうやめるのか。」と怒ったように言うなど、たとえ生徒を励まし、漢字テストに対する意欲を喚起する意図でこのやり取りを行ったとしても、客観的には教育的指導とは認め難いものである。
 一方、A君については、前記第2、3、(1)、オのとおり、小原教諭に相談を持ちかけた際、助けて欲しい旨を申し出ていること、前記第2、3、(1)、カのとおり、母親が金銭のやり取りをやめるように言っても、かたくなにやめなかったこと、家庭でも漢字テストが近づくといらいらしていることから、檜垣教諭との約束に相当の精神的重圧を感じていたことが認められる。また、生徒課長である小原教諭も、前記第2、3、(1)、キのとおり、この件を管理職に相談すれば檜垣教諭の進退問題になりかねないと判断している。
 したがって、ジュース事件における檜垣教諭の行為は、賭博行為とは認められないものの、教員としての節度を越えており、生徒に与えた影響を考慮すると、懲戒処分の対象となることもやむを得ないものである。
 なお、被申立人は、前記第2、3、(3)、エのとおり、就業規則第51条第4項に基づく処分理由説明書を交付していないが、処分の対象とされる事実については、前記第2、3、(2)、ウのとおり、ジュース事件に係る2回目の懲戒委員会において、檜垣教諭に対し事情聴取がなされており、その際に弁解の機会も与えられていたことが認められるため、当事者間において処分理由は明らかであったものと考えられる。
 (イ) 懲戒権の濫用について
 戒告は、前記第2、6、(1)のとおり、就業規則の中で最も軽い処分であり、懲戒権の濫用は認められない。
 (ウ) 懲戒手続きについて
 被申立人は、前記第2、3、(2)、イ及びウのとおり、処分に先立って就業規則第51条第2項に基づく懲戒委員会を開催し、懲戒委員の意見を聴き、翌日、檜垣教諭から事情聴取を行った後も、再度懲戒委員の意見を聴いており、就業規則に基づく懲戒手続きは遵守されていたものと認められる。また、懲戒委員についても、各学科の主任及び校務分掌において生徒と触れ合うことの多い部署の課長を選出しており、その人選には合理性が認められる。さらに、森理事長は、前記第2、3、(2)、エのとおり、処分を一任された後も、実際に処分を決定する際には懲戒委員に個別に了解を求めており、本件処分に対して慎重に配慮していたことがうかがえる。
 したがって、被申立人の行った戒告処分の手続きは、適正であったと言える。
 (ウ) まとめ
 以上のことから判断すると、戒告処分は、処分理由に合理性があり、懲戒権の濫用も認められず、懲戒手続きも適正であることから、相当である。
 イ 不当労働行為の成否について
 教育の現場では、通常「教育的配慮に欠ける」教員に対しては、管理職から教育上の指導を行うものであるし、他の生徒に対して同様の行為を繰り返すおそれがある場合は、まず、それを阻止するために急ぎ、注意もしくは指導を行うべきものと考える。
 それにもかかわらず、被申立人は、管理職が小原教諭からジュース事件の報告を受けて、森理事長が懲戒委員会を開催することを決定するまでの間、檜垣教諭に対し何ら注意等を行ったことが認められない。また、精華高校では、過去に「教育的配慮に欠ける」ことを理由に懲戒処分がなされたことも認められない。
 しかしながら、教育上の指導は、あくまでも管理職の裁量によって行われるものであり、戒告処分の合理性に影響を与えるものではなく、また、過去に必ずしもジュース事件と同様の事件があったとは言えないことから、これらのことで戒告処分の合理性に優越するだけの不当労働行為意思を認めるには十分でないと言わざるを得ない。
 さらに、前記第2、3、(3)、イ及びウのとおり、檜垣教諭は、処分後、直ちに始末書を提出しており、組合も、その後本件申立てまで、特に処分の撤回の要求等を行っていない。
 したがって、檜垣教諭に対する戒告処分は、不当労働行為とまでは評価することはできない。

3 授業失念事件等に対する停職処分について
 (1) 申立人らの主張
 ア 本件懲戒処分は、これまで労働組合が存在しなかった職場に組合が結成され、最初の団体交渉の実現を目指して精力的に活動をしていた時期に、その組合執行委員長に対して、極めて短期間に2度にわたって行われている。
 イ 檜垣教諭は、授業失念を繰り返したり、過去に同様の行為を行っていたものではない。また、精華高校において過去に授業失念を理由として懲戒処分がなされた事例もない。
 本件申立て後も、伊川教諭が確認しただけでも3件の授業失念が起こっているが、被申立人は、これらについて懲戒処分をしていないのみならず、調査もしていない。
 ウ 檜垣教諭は、授業失念事件に係る懲戒委員会において、授業失念事件以外の停職処分の理由について一切弁解をする機会も与えられず、事実かどうかの確認もないまま処分が行われている。また、被申立人は、懲戒委員会という合議体の意見を聴取していない。
 エ 処分理由説明書は、事実誤認ないし停職処分の理由とはなり得ない事実に基づくものであり、合理的な理由がない。
 オ 以上のとおり、被申立人が不当労働行為意思に基づいて停職処分を行ったことは明らかである。
 (2) 被申立人の主張
 ア 戒告処分よリ3週間も経過しないうちに再度の懲戒処分がなされていることについては、事実を異にする懲戒理由が時を移さず発生したためであり、やむを得ないことである。
 イ 授業の不実施は、教師としての最低限守られるべき心構えの欠落と言う他なく、やむを得ない事情の存在が証明されない限り、重大な職務怠慢である。
 檜垣教諭以外の授業失念をした教諭の調査については、伊川教諭が授業を失念した教諭の氏名を明かさないため、授業失念は犯罪行為ではないので、教諭を一人ずつ尋問する訳にもいかず、自己申告がない以上、その有無の確認は困難である。
 ウ 檜垣教諭は、処分理由とされた事実関係を全て認め、特に争わなかったのであるから、本人の弁解を聞かないまま処分を行なった訳ではない。また、停職処分の決定については、懲戒委員会の開催以後、懲戒委員に対し、個別に意見を聴取しており、就業規則第51条第2項に違反していない。
 エ 授業失念事件に係る懲戒委員会において、当初は本人の猛省を促すに止め、処分は見送りとするか、処分するとしても極く軽い方向でというのが全懲戒委員を通じての雰囲気であったが、隠し録音行為が判明したため、懲戒委員が強く反発し、減給を飛び越えて停職処分となったものである。
 オ 停職処分は、就業規則第51条第1項第2号ないし第4号に該当することを理由にやむを得ずなされたものであって、檜垣教諭が組合執行委員長であることもしくは組合活動をなしたことの故をもってなされたものでない。
(3) 当委員会の判断
ア 停職処分の合理性の存否
 (ア) 処分理由について
 a 授業の不実施について
 檜垣教諭が、前記第2、4、(1)のとおり、担当する授 業を実施しなかったことは、職務怠慢であり、職務専念の義務違反であるため、就業規則第51条第1項第3号にいう「職務上の義務に違反し、又は職務を怠る行為」に該当する。
 b その他の処分理由について
 檜垣教諭が職員会義中に録音機を使用し、管理職が注意等を行ったにもかかわらず、反省、謝罪の態度を示さなかったとする件は、被申立人から職員会議中に渡邉校長が檜垣教諭に注意したこと、実際に録音機が使用されていたことを確認するに足る疎明がなかったため、そのような事実があったものと認めることはできない。
 隠し録音行為により上司の命令に背き、不服従の態度をとったとする件については、前記第2、4、(2)、イのとおり、渡邉枚長は、懲戒委員として、檜垣教諭に対し録音機の所持を確認したのであるから、就業規則第51条第1項第2号にいう「上司の職務上の指示」に当たるものではない。
 また、女生徒から騒々しい授業を何とかして欲しい旨のお願い文が出されたが、授業改善がなされていないとする件及び学級指導や学習指導に工夫がみられず、生徒や保護者から不平不満が絶えないなど指導の在り方に批判が多いとする件は、仮に事実であったとしても、このことをもって、就業規則第51条第1項第4号にいう「教職員としての品性を欠き、学園の名誉を損ずる非行」があったとまでは認められない。
 生徒の成績表を理科室に放置していた件及び劇薬の入った瓶を焼却場に放置していた件については、前記第2、4、(3)、イのとおり、平成10年3月頃までに校長らから注意もしくは指導を受け、改善されている。また、戒告処分の際も、それ以前にも問題とされた事実は認められず、今回処分理由とすることは不合理である。
 したがって、授業の不実施以外の処分理由については、合理性は認められない。
 (イ) 懲戒権の濫用について
 授業の不実施について、処分理由説明書では授業放棄とされているが、檜垣教諭は、前記第2、4、(1)のとおり、理科室で調べ物をしていて、担当していた授業を失念したものと認められる。
 もちろん、たとえ失念によるものとはいえ、授業の不実施は、学枚を経営する被申立人にとって、見過ごすことはできないであろうし、被申立人にはいかなる懲戒処分を選択するかについての裁量権があることも否定できないが、2週間の停職処分という相当に重い懲戒処分にすることは、著しく妥当性を欠き、懲戒権の濫用に当たるものと言わざるを得ない。
 なお、隠し録音行為が停職処分の引き金になったとする被申立人の主張は、上記のとおり、このことを理由に処分を行うことに合理性が認められない。
 (ウ) まとめ
 以上のことから、授業の不実施については、懲戒処分の対象となるものの、処分内容に懲戒権の濫用が認められるため、停職処分には合理性が認められない。
 なお、前記第2、4、(2)のとおり、授業の不実施については、懲戒委員会で檜垣教諭に弁解の機会が与えられるなど、一定の懲戒手続きはなされているが、それ以外の処分理由については、そのような手続きがなされたとは認められない。
 イ 不当労働行為の成否
 (ア) 被申立人は、組合結成後1ケ月程度の期間に、組合執行委員長に対し、戒告処分に続いて、2週間の停職処分という相当に重い懲戒処分を行っており、組合に対する不当労働行為意思がうかがわれる。
 (イ) 被申立人は、処分理由説明書において、授業失念事件以外にいくつかの処分理由を付け加えており、被申立人にとっても、授業の不実施が本来2逮間の停職処分に値するようなものではないと考えていたことが認められる。
 (ウ) 申立人らは、前記第2、4、(4)、イ及びウのとおり、停職処分後、団体交渉や被申立人を訪問するなどして、労使間の話し合いでの解決を求めていたことが認められるが、被申立人は、この問題に対して組合と誠実に話し合うという姿勢が見受けられなかった。
 (エ) 以上のことから、被申立人は、檜垣教諭が組合の執行委員長であるが故に、授業失念事件を捉えて、殊更に重い処分をしようとしたものと認めざるを得ない。したがって、檜垣教諭に対する停職処分は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

4 組合機関紙の配布に対する山戸教頭の発言について
 (1) 申立人らの主張
 ア 組合が結成間もない段階で自らの主張を職場の組合未加入の労働者に対して広く伝えることは、組合の団結を確保し、それを広げていく上で不可欠の活動である。これに対し、学校職場における管理職である教頭が、ビラ配布を禁止する行為は、労働者の自主的な団結活動に対する妨害行為であることは明白であり、支配介入に該当する。
 イ 申立人らは、労働組合が行うビラ配布の時間、鎗所、方法等により、一定の場合、使用者の施設管理権や業務上の支障との関係において制限される場合があることを認めるものであるが、本件におけるビラ配布は、勤務時間外に、職員室内で、封筒内にビラを封入して行われたものである。
 ウ 本件申立て後の審問における森理事長の証言は、自ら山戸教頭の発言を違法と認めるものであるが、これをもって支配介入が免責されるものではない。また、被申立人は、新就業規則に基づいて懲戒解雇を行う危険性があり、本件申立てにおいても、依然として山戸教頭の発言の不当労働行為性を争っていることから、救済の必要性がなくなるものでもない。
 (2) 被申立人の主張
 ア 山戸教頭は、檜垣教諭に対し、組合機関紙の配布について、勤務時間外であっても、教育の重要な拠点であり、神聖なスペ−スとも言うべき職員室内においては自粛されるべきである旨説明し、同教諭の了解を得たものである。
 イ 山戸教頭は、管理者による「許可」が必要である旨を述べたものではなく、管理者に対する事前の「届出」が必要である旨を述べたに過ぎず、しかも「命令」ではなく「要請」であったから、支配介入ではない。
 (3) 当委員会の判断
 ア 不当労働行為の成否
 (ア) 組合機関紙の配布の正当性について
 結成間もない労働組合が組合機関紙の配布などの情宣活動を行うことは、労働組合の団結権を確保するために不可欠なものであり、そのために使用者の施設を利用することは避け難いものである。一方、使用者は、所有者として施設管理権を有しておリ、時間、場所及び方法等によっては、その配布を制限することも許されている。
 本件において、組合が行った組合機関紙の配布は、前記第2、5、(2)、アのとおり、勤務時間外であり、しかも、その日は職員会議が長引いたことから、会議が終わるのを待って配布している。また、場所も職員室において各教職員の机上に配布されており、方法も教職員の宛名が書かれた封筒に入れて封をして行われたものであり、生徒等の目に触れないよう十分な配慮がなされていたことが認められる。さらに、内容については、精華高校と県内の他の私立高校との賃金水準の比較表などであり、特に誹謗、中傷記事が掲載されていたものではなく、職場秩序が乱された具体的な事実もないことから、本件組合機関紙の配布は、被申立人の業務遂行上、施設の管理上及び職場秩序の保持上も特に支障を及ぼしたとは認められず、正当な組合活動の範囲であると言える。
 (イ) 山戸教頭の発言について  
 山戸教頭は、前記第2、5、(2)、イのとおり、就業規則にビラ配布を制限する規定がないにもかかわらず、職場では組合員以外の教職員がいることから、被申立人の許可がない限り、精華高校内で組合機関紙を配布できないと考えていたものである。したがって、山戸教頭の発言は、被申立人の「許可」を得ることを求めたものであり、「要請」とは認められず、組合機関紙の配布を制限したものと言わざるを得ない。
 なお、檜垣教諭は、前記第2、5、(2)、イ及びりのとおり、山戸教頭の発言に対し、特に抗議等行っていないが、「組合に帰って検討します。」と答えており、職員室で配布することの自粛を了解したものとは認められない。
 (ウ) まとめ
 以上のことから、山戸教頭の発言は、正当な組合活動である組合機関紙の配布に対する支配介入と言わざるを得ない。
 イ 救済利益の存否
 被申立人は、前記第2、5、(4)、ア及びイのとおり、本件審問において、山戸教頭の発言について行き過ぎがあったことを認め、勤務時間外に校長もしくは教頭に届け出ることによって、職員室での組合機関紙の配布を認めている。また、それに基づいて、組合は、平成11年10月25日以降、職員室での組合機関紙の配布を再開しているが、被申立人の妨害行為は認められない。
 もっとも、被申立人は、本件申立て後、前記第2、6、(2)のとおり、これまでビラ配布について規定のなかった就業規則を改正し、無許可で印刷物を配布した場合は懲戒解雇とする旨の規定を新たに設けている。
 しかしながら、森理事長は、本件審問において、組合機関紙の配布はこれに当たらない旨の証言をしており、このことで組合活動が制限されるものとは認められない。
 さらに、本件申立て後、私教連、組合及び被申立人は、前記第2、5、(4)、ウのとおり、今後、労使問題について前向きに対処することを確認する旨の覚書を締結しており、当事者間において安定的な労使関係の構築が図られつつあることがうかがえる。
 以上のことから、山戸教頭の発言による支配介入の結果は、平成11年10月25日以降、除去されておりく また、将来このような支配介入が繰り返される可能性もほとんど認められないことから、救済の実益はないものと考えられ、これを棄却するのが相当である。

5 組合機関紙の郵送と教職員有志の申し入れについて
 (1) 申立人らの主張
 ア 佐伯教諭が精華高校の教職員に対し教職員有志の申し入れ書への署名を求めたことは、単に組合の機関紙配布活動に対する妨害だけでなく、署名に応じなければ組合員とみなそうとする「踏み絵」として行われたものであり、組合に対する露骨な支配介入である。
 イ 上記申し入れ書は、いずれも教職員有志が作成した形式となっているが、佐伯教諭の署名活動が勤務時間中に行われていること、文書の送付に精華高校の公用封筒が使用され、あるいは被申立人の印章が用いられていること、文書の内容が被申立人から団体交渉の録音テープが提供されていることが前提となっていることなどから、実質的には被申立人が行ったものである。
 ウ 佐伯教諭は、当時総務課長であり、三役会義の構成員であることから、管理職としての地位を有していたものであり、校長らと組合に対する認織を一致させることは教職員管理のため当然であると認めていた。したがって、佐伯教諭の行った郵送妨害行為は、被申立人の行為と同視し得るものである。
 エ 佐伯教諭は、上記申し入れ書を作成するに際して、組合が規約や名簿の提出に応じないことや団体交渉の内容等について、三役会議を通じて情報を得たことを認めており、組合対策のために上記申し入れを行ったことが十分にうかがわれるものである。
 オ 佐伯教諭が、自分には郵送されておらず、郵送を拒否する理由も説明できないにもかかわらず、執ように郵送拒否を申し入れた理由は、被申立人の支配介入の意向に基づくものとしか考えられない。
 (2) 被申立人の主張
 ア 教職員有志の申し入れ事は、あくまで教職員有志の自発的な意思のもとに作成されたものであって、被申立人の企画策動によるものではない。
 イ 佐伯教諭が総務課長職にあるのは、教諭が事務職ポストを兼任しているためであり、同教諭も、教職員有志の一人に過ぎない。また、同僚教師間の文書のやり取りに、学校の公用便箋、封筒、印章などが用いられることは珍しくなく、こような慣行は官庁や民間会社内などでも往々にして見られる現象であり、このことが被申立人の差し金によることを裏付けるメルクマールになるとの主張は、一方的即断というほかない。
 (3) 当委員会の判断
  ア 佐伯教諭は、前記第2、5、(3)、イのとおり、精華高校で最も勤務年数が長いことから、組合機関紙を読みたくないとする教職員らから、職場の意見をまとめて欲しい旨の相談を持ちかけられたものであり、その相談を受けて、自分には組合機関紙が郵送されていなかったにもかかわらず、申し入れ書の作成にかかわったものと認められる。
  イ 佐伯教諭が、前記第2、5、(3)、ウ及びクのとおり、勤務時間中に署名を集めたり、公用封筒等を使用していることは、精華高校に限らず、一般の職場でもあり得ることであり、また、教職員有志が、前寵第2、5、(3)、キのとおり、被申立人から提供があったと推測される団体交渉の録音テープを聴いていたことは、被申立人が教職員有志の要望に応じて聴かせることもあり得ることであり、これらをもって、被申立人が、申し入れ書の作成に対し、実質的に関与していたことを疎明するには至らない。 
  ウ 三役会議は、前記第2、5、(3)、ケのとおり、渡邉校長が精華高校の教育面での活動を充実もしくは発展させるために設けた会であり、教職員の管理のための会ではないことから、佐伯教諭がこの会の構成員であったとしても、管理職と同様の地位を有していたとの根拠にはならない。また、この会の情報交換の中で、組合活動等について話題に上ることがあったことは認められるが、管理職から佐伯教諭に対し、組合への対応について何らかの指示があったことは認められない。
  エ 以上のことから、佐伯教諭が、被申立人の意を受け、もしくはその意図に基づいて、組合機関紙の郵送を拒否する旨の申し入れを行ったものと認めることはできず、申立人らの主張は採用できない。

6 救済方法について
 申立人らは、謝罪文の掲示を求めているが、当委員会は、主文の救済で足りるものと判断する。

第4 法律上の根拠
 よって当委員会は、労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条を適用して、主文のとおり命令する。

 平成12年8月9日
 
                 愛媛県地方労働委員会
                会長木村五郎


 この写しは、原本と相違ないことを証明する。

   平成12年8月11日
   地方労働委員会事務局長 今井好幸



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