「第32回四国私学教育研究集会」《報告》
                                           今井 省三
                             香川県丸亀市 1999年3月6,7日

※これは3月6日の全体集会での講演の内容をまとめたものです。全文ではなく中心部分の要約であり、見出しも勝手に付けましたので、私の解釈が入ってしまう事はご容赦下さい。講演者の田尾さんは『タウン情報 香川』等の雑誌を編集しているホットカプセルという会社の方で、そういう仕事の経験から最近の若者や学校を語ってくれました。



講演:「学校・家庭の外から見た中高生」
                  田尾 和俊 氏(ホットカプセル代表)


【1】 雑誌を作る方法から考える教育方法

 私は『タウン情報 香川』という雑誌を作っていますが、雑誌を作る方法(手順)は次のような順序になります。これは雑誌の作り方というだけでなく教育を作っていくということにも通じると思います。

(1) 対象者は誰か。
 まず最初は、「対象者は誰か」ということを考えます。雑誌で考えれば、読む対象者を単に「読者です」等と認識していたのではそこからは何もでてきません。テレビでも「視聴者です」とか「広く多くの人々に」等といっていたのではだめです。例えば、大人か子供かによって、作り方や言う内容、使う言葉も変えなければならないのですから、当然そんな番組は相手にされません。対象者はできる限りしっかりと絞り込む事が大切なのです。
 本であれば対象者は何歳代の人か。男性か女性か。最低これくらいは決めていないと売れません。しかし、近頃は、単に年齢だけでは分けにくくなってきて、私たちはライフスタイルで対象者を絞るという方法を採っています。例えば、『タウン情報 香川』は「休日に遊びに行くのが苦にならない人」というように考えています。現代の多様化した社会では対象者の分類や絞り込みの方法も年齢というだけのものから、ライフスタイル、知的水準、等という新しい座標軸で分けていくという事が必要になってきています。さらにそれぞれのページやコーナーによってこういう人に読んでほしいという対象者が絞られるのです。
 それを家庭教育で考えれば、対象は「子供」ではなく「自分の子供」です。この場合は対象者を選べないという条件があります。だから、対象者を十分に観察し、その特徴をとらえて、その子にあった方法で、その子に合った道に進むことを考えなければなりません。
 学校現場においては「教育の対象者は子供です」ではなく、「私の学校の子供」でなければなりません。「広くどこの学校でも通じる」というような何の特徴もないものは、もはや通用しません。他の学校とは違う「自分の学校の(このような…)子供」を対象にしなければなりません。このような絞り込みができれば、何が大切なのかが見えてくるはずです。しかし、学校が家庭と決定的に違うのは生徒を選べることです。家庭には選ぶ余地は全くないですが、学校であれば、あらかじめ「うちの学校はこのような子供を対象にして、このような教育をします」ということをきちんと打ち出していれば、ある程度生徒を選ぶことができると思います。実際には学校でこれを完全にするのは難しいので、ある程度、家庭と同じように、入ってくる子供(対象者)を十分に観察してどのようなものなのかを認識していなければなりません。そして、一つの学校内でも「その中の誰が対象者なのか」を絞り込むことが効果的な教育につながると考えられます。

(2) 対象者をどうしたいか。
 多くの人は、「誰に」(という対象者)が決まれば、次は「何を」(という内容)を考えると思うでしょうが、実はそこが違うのです。2番目は選んだ対象者を「どうしたいか」(対象者にどうなってほしいのか)ということなのです。これがなければ「何を」とか「どのように」という事は出てきません。『タウン情報 香川』においてはこの本を読んでくれた人が、今までの生活に、何か一つ新しい遊び場や新しい食べ物屋のレパートリーが加わるということを考えています。さらに、本の中のページによっても少しずつ変わってきます。
 このことは家庭でも学校でも同じです。対象者であるその子供を「どうしたいのか」(どのようになってほしいのか)が2番目です。特に学校は「何を」という教科(内容)が先にあって、それを教えなければならないという性質が強いところではないかと思いますが、実際には「どうしたいのか」が先にあって初めて、そのために「何を」「どのように」が出てくるのです。雑誌の記事においても、それを読んだ読者に「どうなってほしいのか」そこがはっきりしない記事はボツです。逆にそれが決まれば、書く内容も形も自然と決まってくるのです。

(3) 何を書くか、どう書くか。
 もう、2番目までがしっかりしていれば、「何を」「どのように」は自然と出てくるのでより効果的な方法を選べばいいだけです。

【2】 最近の中高生の特徴
 
 次に中高生とは仕事上、投稿の手紙を読んだり直接に接することも多いのですが、昔の中高生は次の5つに分類されていたと思うのです。

1.勉強をやる者
2.スポーツをやる者
3.文化をやる者
4.ふつうにやる者
5.不良

 ところが、最近はこれに「6番目の分類」が出現しています。うまく言えないのですが、とりあえず「危ない系」と呼んでおきます。これは上の5つのどの分類にも入らなくて、例えば、宮崎努や神戸の殺人犯とかストーカーなど犯罪に走りそうな感じの(そこまでは行かなくても)危ない人や、他人とのコミュニケーション能力に欠けるため学校に来なくなった人や、友人や教師との対話や交渉ができず、すぐに「切れる」人などです。こういう人が最近かなり増えてきているように思います。しかし、こういう人はビジネスの世界では必要ありません。これには困ったものです。


【3】 学校とビジネスの世界のくい違い

  学校では何か勘違いされていたり、ビジネスマンには必要ではないのに、学校で一生懸命になっていることがいくつかあります。(「大学受験に」ではなくて「ビジネスマンにとって」ですので誤解のないように。)

(1) 記憶力が大切だという説。実際はほとんど必要ありません。記憶は機械や紙にさせるのが普通です。なまじ人間の記憶に頼ると間違いが起こります。

(2) 決まった正解を出そうとする事。これは学校ではできても社会ではしようとしてもできません。世の中では多くの問題は正解はありません。ベストな答えも出ないし、実行できません。常にベターを求めていくぐらいです。早く正解を求めたい人によくあるのが「他はどうしているか?」「今まではどうしていたのか」という台詞です。どこかに正解があるという安易な考えです。

(3) 超難問が解ける能力が必要という説。それはほんの少数の天才の人がやればいいのであって天才でない人(普通の人)は一生のうち超難問を解かなければならないような状態になるのはほとんどありません。そのときは誰かに聞けばいいのです。むしろ、ビジネスの世界では基本的なことがわかっていてそれが確実にできることが重要です。」

                                      愛媛の私立高校へ