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■よろづ帳
著者:長屋生 校正者:市川浩


○(前囘の試案)その文、軽妙洒脱にして 文語文の粋を集むる名文揃へなり。 さて、緑雨と吾とを比するに、 その文才雲泥の差にして、倣ふといふもをこがましく、蓋し猿真似とこそ称すべけれ。 庶幾(コヒネガハ)くは吾が文の内容の乏しきと 文体の拙なきとに暖かき眼差しを。


その二


○ その在世の頃より百有余年を経たる今日なればや、斎藤緑雨が名を知る人も少なくなりぬ (+る) 。近時、緑雨の著述など読みたる人は、よほどの好事家もしくは奇人ならん。緑雨の生まれたる一八六七年即ち慶應三年は、後の明治文界にとりて当たり年とも謂ふべき年にて、夏目漱石、正岡子規、幸田露伴、尾崎紅葉など生まれいでたり。この平成の世にては偲ぶ る(トル) よすがもな きぬ(=け)れど、明治期にては、緑雨の文名決して低からず、当今にても高名をば保ちたるこの同年生まれの四氏とも、緑雨は明治文壇にて併称されぬる存在なりけり。緑雨の才藻は、かの森鴎外も認め お(=を) りぬるところなり。


◆ 口語は歐文の影響ありて、「時制」嚴しく「た」多用せられ、文語にても過去の助動詞多しと雖も、必ずしも遣ふを要せず、むしろ多用は徒らに煩瑣を招く傾あり
◆ 「偲ぶ」はバ行四段、完了助動詞「り」の連結ならば「偲ぶる」は「偲べる」と已然形の所
◆ 「なし」に完了助動詞「ぬ」を連結せむには、「なかりぬ」
◆ 「もしくは」は口語、文語は「もしは」
◆ 文語にて本朝暦と基督暦を併記するには西暦を後にす、また平成の「世」は「御代」または「御世」と致したし
◆ この段落、文意は緑雨の在世時の盛名に比し、平成の御世に知らるゝ少なきを述ぶるにあれば、語順工夫あるべし






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