茶の湯の中での陰陽五行

茶室の陰陽と五行
 裏千家十一代玄々斎家元の書に『四畳半の席は元来陰陽五行をかたどりて一室に世界をこめ
たる意なり。〜中略〜 室の建て様も南面にして東北の明を受けて造る事 席の本法なり。〜中略〜
之に依って点前北方に向かって居ると知るべし…』とあります。
 五行で言えば、東=木と南=火が陽で中央=土が陰陽の中庸、西=金と北=水が陰となり(少し判り
易く言えば、地面が中央で 土 地表に現れている 木と火 が陽、地下に存在する 金と水 が陰、と
という事になります)。
 さて、上の図は四畳半の部屋の図になりますが。亭主は北を向き、図の左上方(北西)《陰》に位
置し、客は東南《陽》に位置します。床の間の前の一畳は貴人畳で陰に多くが掛かりながらも陽の
光を正面から受け『君子ハ南面ス』と云われる場所となります。この四畳半という間取りの最初は、
東山慈照寺(銀閣寺)にある足利義政の持仏堂であった東求堂の東北隅に位置する《同仁斎…
ドウジンサイ》だと云われています。この“同仁斎”は「囲炉裏の間」と呼ばれていたそうですが、茶
室としての成立は南方録によれば《四畳半座敷は、珠光の作事也、真の座敷とて〜其後、炉を切
りて〜…紹鴎に成て、四畳半座敷 所々あらため〜〜》と出てきます。そしてその基本的とも言える
“四畳半出炉”の場合には、中央の半畳が炉畳となり、炉=土の場となる事も茶室の五行を考える
上での象徴的な事と言えます。

炉 と 風 炉
 季節感を大切にする茶の湯ですが、その中においても一年を大きく分けるとすれば 《炉》 の季節
と 《風炉》 の季節とに分ける事となります。炉を出す時期は『 柚子の色付く頃… 』 風炉に変わる
のは『 時鳥の鳴く頃に…』 と云われていますが、其処には陰陽も大きく関って来ています。“柚子の
色付く頃”とは秋から冬に掛る頃。“ホトトギスの鳴く頃”とは春から夏に向かう頃です。陰陽に分け
ると秋〜冬が“ 陰”で、春〜夏が“ 陽 ”です。
 さて、前述のように「地下に存在する⇒陰・」「地表に現れている⇒陽」という事を二季に当てはめ
て見ると判り易くなると思えます。“炉”いわゆる囲炉裏は床の下に切られ、“風炉釜”は畳の上に出
て、陰の姿 と 陽の姿 そのものが見えます。また、陰・陽の二元で湿潤・乾燥という分け方出来ます
が、炉の中と風炉の中に入っている灰を見ても陰陽が見えてきます(流派によって違いが有ります
ので一概には言えませんが)。 例えば千家流においては、炉の中には湿った灰を入れ、風炉の中
の灰は乾いた灰を使用します。また、焚くお香も炉の季節には湿った 《練り香》 を風炉の季節には
乾いた 《香木》 を使用するのが慣わしです。
 茶の湯の初期では『書院台子の茶』と呼ばれる(点茶を実際に行われたとは考え難いが)いわゆ
る風炉釜や茶器を書院に飾る所から始まりがあり、後に台子に飾られて点茶の作法も徐々に出来
上がっていったものと考えられ、その台子の中にも陰陽五行象徴的な配置を見とれます。すなわち
台子自体が天板と地板の陰陽で四本の柱が四象となり、そこに木と土と金で造られた道具に炭の
火と水が収められています。また、右座(向かって左)に陽の風炉を据え左座に陰の水指を据えて、
火の上には陰の茶碗を水の上には陽の茶入を飾り…と上下左右共に陰陽の相対を保つ姿です。
 そして、炉にもまた五行がそのまま備わっています。炉縁の木・炭の火・炉壇の土・釜の金・釜中
の水がそれにあたります。炉を開く時期は『旧暦亥の月の最初の亥の日に』と云われています。亥
は五行で云えば水にあたり、火を入れる炉であるから水をそこに当て陰陽のバランスを取り、火に
対する祈願でもあると考えられます。

茶 事 と 陰 陽
 茶事においてよく知られているところでは 《初入りは陰の席》 《後入りは陽の席》 でありますが。
先ページでの陰陽の説明でもありましたように、陰と陽はそれぞれその中でも相対分割を繰り返す
…との考え方を当て嵌めて見ます。
 先ず初入りでは大きく分けて炭手前と食事(懐石)に分ける事が出来ます。炭手前は火を盛んに
する為の所作ですし《陽》と見ます。懐石(名前からして陰的ですが…)は現れている物を体の中に
取入込む所作で《陰》となります。炭手前自体や懐石自体のそれぞれの中でも陰陽に分ける事が
出来ますが、これ以上は割愛します。
 次ぎに後座の席ですが、これも大きく分けて 飲茶と炭手前・若しくは濃茶と薄茶に分かれます。
濃茶・薄茶の二つに分けた場合は、濃茶=陰 ・薄茶=陽 という分け方になります。重いモノが陰
で軽いモノが陽。判り難いモノが陰・判り易いモノが陽。隠れているモノが陰・表われているモノが
陽…等々と見ていくとその相対性で明らかになってくるでしょう。
 濃茶や薄茶の喫茶の部分は菓子を戴く場面から始まっています。陰である濃茶の為の菓子は
陰の席(初座)で、陽の薄茶の菓子は陽の席(後座)で戴きますし、何よりも 濃茶=陰 の為の菓子
は湿潤な菓子で、薄茶=陽 の為の菓子は干菓子であるという事も、陰陽の表れの一つです。