紀の川流域委員会を考える その1 法律面から考える 
  
弁護士 岩城 裕

1 はじめに

 このたび「紀の川流域委員会」なる委員会が国土交通省によって設置され、当会の副代表である小川和子さんもこの委員会に委員の一人として参加することになっています。そこでこの稿では、紀の川流域委員会とはいったいどのようなものなのか、当会としてこの委員会にどのような姿勢で取り組めばよいのかなどについて考えてみたいと思います。

2 河川法の仕組み

 まず、前提として現在の河川法(平成9年改正)の仕組みを簡単に説明します。紀の川のような大きな川は1級河川として国(国土交通省)が管理しています。管理の方法として、国はまず一つひとつの1級河川について「基本方針」と「整備計画」を定めることになっています。
 基本方針にはいろいろな内容が含まれますが、最も重要な事項は「基本高水(たかみず)」「計画高水」の決定です。少し耳慣れない言葉ですが、とても重要な概念ですので理解して下さい。基本高水とは、過去の洪水から、例えば100年に1回の可能性のある大雨を想定し、これが現状の川に流れ込んだときの流量(立米/秒)をいいます。これに対して計画高水とは、基本高水がダムなどの貯留施設によって洪水調節された結果として生じる流量をいいます。
 ところで国は、基本高水と計画高水のいずれについても住民の意見を聞かずに決定します。その理由として、国は、行政の公平性(同種同規模の川は、全国的に同じような安全性を持つべきである)とか、基本高水や計画高水は科学的技術的概念であって、住民参加にはなじまないといったことを上げていますが、このような考え方に対しては当然ながら異論もあるところです。また、ダム建設を正当化するために、基本高水を決定するについて過大なデータに基づく計算をしているのではないかとの疑問がしばしば寄せられています。
 基本方針が抽象的なものであるのに対し、整備計画は、その基本方針に沿って、これから20年ないし30年くらいの間に川をどのようにして整備するかという具体的な計画です。この計画では、具体的なダムやその位置についても定められます。そして、河川法は、国に対し、整備計画の案を作る場合には、@河川に関し学識経験を有する者の意見を聴くこと、A関係住民の意見を反映させるための必要な措置を講じることを義務付けています。

3 紀の川流域委員会の位置付け

 ここまで読んできてお分かりのように、紀の川流域委員会とは整備計画の案を作るについて、国が@の義務を果たすために設置するもので、その目的は二つあるとされています。一つは紀の川の整備計画案に対して学識経験者の集団として意見を述べることであり、もう一つは関係住民の意見の聴取方法について意見を述べることです。
 そして、紀の川の整備計画には、当然に紀伊丹生川ダムの建設計画が含まれますから、紀の川流域委員会は、紀伊丹生川ダムの建設の是非についても審議することになりますし、ダム建設の是非に関する住民の意見をどのようにして聴取するかという聴取方法についても審議することになります。
 河川法が改正された結果、現在、全国の河川で同じような委員会が設置されて議論が始まっています。なお、インターネット情報によれば、全国的には現時点で大野川(宮崎・熊本)、多摩川の2河川で整備計画がすでに作られたようです。

4 紀の川流域委員会への取り組み

 平成9年の河川法改正に際し、国会ではずいぶん議論が行われました。これらの議論は国会議事録で確認することができます(インターネットでは国会図書館のHPで簡単に検索できます)。当時の建設省は、国会で、とにかく徹底的に情報を公開し、住民の意見についても単に聞き置くだけでなく、意見の内容によっては整備計画の案を修正していくという姿勢を盛んに強調していました。この国の姿勢そのものは、それが実現されるのであれば極めて適切なものであるといえます。現に公表されている「紀の川流域委員会のあり方について(答申)」においても積極的な情報公開が定められているなど、「まず結論ありき」といわれたかつてのダム審議会と比較すれば、相当な開きがあることは認めてよいでしょう。
 しかし、他方で、紀の川流域委員会の「庶務」は和歌山工事事務所が行うとされており、具体的には「会議資料(案)の作成」「議事録(案)の作成」「会議内容のとりまとめ及び公表資料(案)の作成」などが、ダム建設を進めようとする行政当局によって担われることになります。このような場合、事務方の主導によって委員会の議論が進められ、事務方にとって都合のよい資料ばかりが配布されていくようなことがしばしば見うけられるところであり、紀の川流域委員会についても十分な注意が必要です。
 当会が紀の川流域委員会に取り組む際には、改正河川法の建前である「情報公開」と「住民参加」を国に徹底的に守らせること、あるいは国が建前と違う行動をすることを許さないこと、その上で紀伊丹生川ダムの問題点を、委員会やマスコミ、ひいては県民や国民に粘り強く訴えていくことが必要であろうと考えています。