◆山小屋造り 〜 はじめに
■山小屋の記録■
〜埼玉県神川町で〜
(旧神泉村)
森林ボランティア活動の延長で、平成12年の1月から森林サポータークラブの会員有志で山小屋造りを始めました。これは、山の所有者であり林業家でもある方が「ボランティアの拠点に小屋を造らないか?山の木と場所は提供するよ」と提案され「よし!やってみよう!」と始めたものです。
その山小屋は、山の間伐をし、その山に、その間伐材を使って建てるものです。産地直送ならぬ産地そのまま活用です。しかも自分たちの手で、山小屋建設に必要となる木を伐採し加工する、つまり小屋を造る前に小屋を造るための木材を造ることから始めるという、何とも気の遠くなる話しです。
作業の段取りについては、山が専門である林業家の方と設計が専門である自分とが担当となりました。山小屋の概要は、平屋で2間半×5間半の約14坪の広さ、屋根は単純に片流れ、床は高床式、基礎は造らず掘立て柱による軸組み工法です。
これを建築史における学術的な面から専門的に説明すると「日本古来からの知恵と技術を駆使した歴史ある伝統工法による山小屋造り」となりますが、簡単にわかりやすく説明すると「掘っ立て小屋」ということになります。
山小屋を造ると言うと聞こえはいいのですが、作り手は全員そろって立派な素人でありその平均年齢も立派なものの、道具と予算は立派とは言えず、あるのは「山の木」と皆の「やる気」だけという状況で、ほんとに出来るのかな?と思っているうち、無謀にも工事はスタートしてしまいました。
以来、林業家の方による林業技術指導、林業事務所や役場の方々の協力もあり、週末には物好きなのか暇人なのか老若男女問わず集まり、皆でコツコツ作業をしています。
又、山小屋の名称が「くるみ小屋」と名付けられ、ある会員有志の方が「くるみステッカー」「くるみ手ぬぐい」を製作し、それを買ってもらう事でのカンパによって建設資金を集めることにしました。
集まったお金が総予算であり総工事費となる訳で、仕事では経験できないとてつもないローコスト建築が要求され、変なやりがいを感じます。
◆平成12年 〜 くるみ小屋作業日誌
<1月>
山に入り現地視察、建築場所を決め作業開始!夢と希望、いや不安と心配の方が・・・。まず整地のため15年生の桧を約50本伐採。ほとんどの人がチエーンソーを使うのは初めて。直径10数センチの桧を緊張しながらの伐採。そして枝払い、皮むきを行い垂木の材料に仕上る。ちなみに、安全のため事前にチエーンソーの講習は受けました。↑整地した建築場所 <2月>
30年生の桧を約30本間伐。間伐するのは急斜面の場所で桧は直径約30センチ!倒れる迫力に皆おもわず「オオッ〜」と声が出る。倒した木は、ウインチで道まで引っ張り上げる。まさに林業!それを現場に運び、柱梁に使う材料とするため皮むきを行う。↑間伐材を道に引き上げる <3月>
ひたすら、ただひたすら皮むきに励む!↑鎌を使っての皮むき <4月>
皮むきが終わった丸太から、いよいよ加工のための墨付けを始める。墨付けも当然初めて。で、相手が製材されてない丸太とは、ちとむずかしいんでないかい?やりかたは前もって大工さんに教わったけど、実際やってみると・・・う〜む・・・あれ?・・・。↑皮むきをした丸太に墨付け <5月>
まだまだ墨付けに悪戦苦闘しながらも、墨付けが出来た丸太から加工に取り掛かる。ようやく建築工事らしくなってきた。まるで山小屋でも造ってるかのようだな、おっ!山小屋を造ってたんだよ、と忘れてしまうほど今まで地道な作業が長かった。↑ほぞ穴をチエーンソーで <6月>
柱材にはホゾ加工、梁材にはホゾ穴加工をしていく。使う道具はチェーンソー、手ノコ、ノミなど人によってさまざま。仕上がり具合も人によって、、、さまざま?↑ほぞ穴をノミで <7月>
理論的にはうまくいったハズの墨付け通りに加工すれば、理論的には組み上げた時に寸分の狂いも無くピッタリ納まるハズ・・・理論的・・・には。この先理論的には楽しみなのだが、現実的にはチョット・・・心配も。↑柱のホゾ加工 <8月>
まだまだこれから先の事を考え、休憩小屋を造る事に。桧を伐採し、皮むきして、建て上げ、屋根を張り、これはなんと3日で完成!中には囲炉裏も作り、毎回お昼は鍋料理、素晴らしい!↑後に見えるのが休憩小屋、総桧造り! <9月>
屋根下地用、外壁用の板材を作るため、70年生の杉を20本間伐する。さすがに太い!長い!しかし素人がこんなデカい木を切り倒してしまっていいんだろうか?ちょっとビビる。伐採した杉は製材所へ。↑間伐した杉林 <10月>
柱を立てるための穴を掘る。なるほど、掘って立てるから「掘立て小屋」。水盛り遣り方を行い位置は正確に決める。柱は、防腐防蟻処理として地中に埋まる部分を焼いて炭化させた。↑水盛り遣り方と柱を埋める穴 柱元を焼いて(豪快な焚火状態!)炭化させる→ <11月>
地上で1スパンごとに柱と梁を組み、それをワイヤーと滑車を使って順次立て上げていく。そしてついに!上棟!しかも!寸法的な誤差もほとんど無く組み上がった!理論的かつ現実的に!驚きました!感動しました!皆で喜びました!↑心棒に滑車を吊るし引っ張り上げる 仮筋交いで固定し、無事上棟となる→ <12月>
足場を作り、垂木となる丸太を組み、製材した野地板を張り、屋根を葺き上げる、1年掛かってやっとここまで終わりました。それにしても、経験の無い素人の作業でよくここまで造れたなあ〜とシミジミ実感。↑屋根が出来上がる
◆平成13年 〜 くるみ小屋作業日誌
<1月〜3月>
今後の準備のため作業はお休み。何も無かった状況からの1年を振り返ってみると、、、これは僕等にとっては小さな一歩だが人類にとっては大きな飛躍となることであろう。。。山小屋の完成を想像しながら今年も何かと楽しみです。
↑雪景色のくるみ小屋 <4月>
春の訪れを待っていたかのように作業再開!まずは高床式となる床造りから。材料は、床板/杉の足場板を購入、大引/杉を105角に製材、床束/桧の皮むき丸太、束石/山に転がっている石を利用。↑水平に床下地を造る <5月>
床板完了。杉の厚板で、なんともこれは気持ち良い床だ。当面の間、ダンボールでしっかり養生しておく。↑いかにも”室内”という雰囲気になった <6月>
壁を造るための足場を造る。当然足場も丸太。↑足場の丸太は間伐で調達 <7月>
壁の下地造り。見た目にも”山小屋”らしい雰囲気になってきた。いや、小屋というより”山のホール”とでも言いたくなるような見事な出来栄えになってきたゾ。↑いい感じに出来ています <8月>
外壁完了。外壁の材料は、昨年秋に杉を製剤した時にでた端材(丸太を角材に挽くと丸面の部分が余る)である”セコ板”。実は、セコ板という呼び名があるとは知らなかった。材木としては”セコい”部分だからそう呼ぶのだろうか?↑壁が抜けている部分は建具が入ります <9月>
今度は内壁です。杉の板を張っていきます。写真で見えるところの板張りは、女性だけの作業で行われました。女性にとっては、物珍しさと、思った以上の楽しい作業、思った以上の出来栄え、思った以上の満足感だったようで、作業中も作業後もたいへん賑やかに活気づいていました。きっとこれからは”職人”として活躍してくれることでしょう。↑白く見える部分は下地に張った防水シート <10月>
内壁完了。部屋としての雰囲気が出来てきました。壁が抜けている部分は建具が入ります。建具廻りの作業が最後の難関、もう一分張りです。↑屋内も屋外も木に囲まれて <11月>
建具本体は、一部ドアについては造りものとしますが、その他は中古の木製建具を改良して使います。仕上り具合は出来上がってからのお楽しみ、ってとこでしょうか。↑建具製作中。真剣です! <12月>
今年の春より、小屋造り作業班とは別に『彫刻部隊』が密かに活動を開始していました。彫刻部隊は、山小屋の入口に建てる「トーテムポール」を造ります。写真はその頂部にセットする「くるみを持ったリス」です。かなり精密に彫り込まれており、素人とは思えないハイレベルな技術のほどが見受けられます。恐るべし!彫刻部隊!↑リスの大きさ比較にチェーンソー
◆平成14年 〜 くるみ小屋作業日誌
<1月>
建具が入りました。写真左側の建具は障子を改良したもの、右側の建具は戸襖を改良したもの、正面真ん中の建具は杉材で製作したものです。床の一部に畳が敷かれ、暖房には薪ストーブが入りました。↑中はまだ片付いてませんので。。。 <2月>
外部の足場が外れ、思わず笑みが。完成は近い!そしてあらためて見ると、、、桧の柱、内外装に杉、建具は木製、そして暖房に薪ストーブ。。。これ、実は理想の住宅なのではないだろうか?電気と水は無いが。。。↑予想通りの出来か?予想以上の出来か? <3月>
先日降った雪で、小屋に隣接する杉林に多大な被害が・・・。積雪10数センチ程度でしたが、雪の重みで杉がバッサリ立ち折れしてしまいました。という訳で、今回はその後片付けです。立ち折れした杉はチェーンソーで切倒し、小屋造りなどの材料にすることにしました。
肝心の小屋のほうですが、雪の被害はありませんでした。(ホッ。)↑痛々しい姿です
<4月>
玄関となる部分に、デッキと手摺を取り付け完了!
さあ!これでいよいよ!!!
<5月>
完!成!です!
何も言葉がありません!
平成12年1月より始めた山小屋造り。2年5ヵ月かかって無事完成を迎えることが出来ました。この間、山小屋そのものの存在もさることながら、いろいろな人との交流、又、林業の知識・技術にも深く関与できたことは、貴重な経験となりました。
▼平成14年5月3日〜くるみ小屋完成祝賀会!!▼
祝!見事な出来栄え(でしょ?) 祝!お祝い事は華やかに晴れやかに 祝!室内はこんな感じです 祝!老若男女70人で賑やかに 祝!小屋の入口にはトーテムポール 祝!90年生の杉を彫り込んだもの
〜そしてそれから〜
今も尚「くるみ小屋」では現在進行形で新しい取組が続けられています
<平成15年5月>
くるみ小屋に隣接する場所を開拓して
駐車場が出来ました<平成15年7月>
くるみ小屋に展望デッキが完成しました
<平成15年10月>
くるみ小屋の噂を聞いてか?
画家の堀越千秋さんを中心に
美術系大学生たちが集まり
今度はくるみ小屋のお隣に
陶芸釜をつくることになりました
<平成16年5月>
トイレも出来ました
手洗い用のタンクも脇に設置されています<平成17年4月>
森の中のツリーハウスで
こどもたちは大喜び<平成17年5月>
完成した陶芸釜からは
既にいくつもの国宝級?の作品が
誕生しています<平成17年5月>
湧き水をくるみ小屋まで何とか引込んで
念願の水が使えるようになりました
<平成18年5月>
茶室
堀越千秋「学生グループ」の手で
森の中に造られた”ツリーチャシツ”
究極のワビサビ!?<平成18年5月>
茶室
中を覗いて見ると・・・
宇宙空間に迷い込んだ錯覚に・・・
(・・・謎)
<平成18年5月>
露天風呂
地元グループ「こだま山の会」
の手で造られた絶景の露天風呂
前方に見えるのは群馬の山並みです
<平成18年5月>
露天風呂
入浴しながらの森林浴か
森林浴しながらの入浴か
<平成18年5月>
薪ストーブ
新しく生まれ変わった
くるみ小屋2代目の薪ストーブ
<平成18年5月>
仁王像
森を歩いていると・・・
なぜか木彫りの仁王像が・・・
KIJIMA建築工房トップページへ