〔縮刷改訂版〕を発行いたしました。 |
橋本左内 著作 「啓発録」 英完訳書 by Daisuke Konno
紺野 大介訳 日本文化を世界へ発信。世界各国で絶賛! 明治維新の精神を伝える良書として海外日本研究の絶賛をえた私書本『完訳啓発録』を装いを新たに増補改訂した教養書。《内容》巻頭に橋本左内の肖像画(島田墨仙画伯筆)、25年間の生涯の概略活躍した時代背景や思想形成に貢献した学問を系統的に説明し、本人の日記・書簡・漢詩等の筆墨を始め、景岳を追慕した徳川慶喜の書幅・伊藤博文の詩幅の写真等とその英訳解説に多くの頁を当て、その後に『啓発録』の英訳文と日本文を載せ、最後に維新に関係する主要人物・歴史用語の英・和文解説と参考文献の紹介等 《目次》 1、再版にあたって 2、橋本左内25年間の生涯X-Y線図、書状、草稿、書幅、詩幅、幕末維新関係者の書状、書幅、詩幅等 3、左内15歳時の著作「啓発録」の英文、原文、書き下し文等 4、橋本左内及び啓発録を読む上での参考:人物、事件、語彙等 5{解説}江種隆弘
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| 同著者の書籍 | 「啓発録」英完訳書〔縮刷改訂版〕 英完訳 留魂録 |
書評 靖国(平成12年5月1日)
外国人を驚歎させた
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一、はじめに
明治維新百三十年に当る平成十年、靖国神社では遊就館において特別展「明治維新百三十年展」を開催、維新の大業に一命を棒げられた祭神橋本左内命・吉田寅次郎命をはじめとする殉国志士の御遺影・御遺品等を展示し、多くの拝観者に深い感銘を呼び起した。ところが、それに先立つ平成七年に祭神橋本左内命(以下橋本左内と略す)の名著『啓発録』が、一科学技術者の手により英訳出版され、主として外国の日本研究機関に領布され、大きな驚きと共感を与えた。この『英完訳啓発録』の海外での反響を通して、外国人の眼に影じた明治維新観と橋本左内像について述べることとする。 二、『啓発録』の英完訳出版 『啓発録』は橋本左内が、数え年十五歳の時に自分の志を認めたもので、歴史にみられる偉人英傑の言動・節義等を学び自己の規範にしようと筆を取られたものである。『啓発録』は、次の五項目からなるが、その内容と論旨はとても十五歳の文章とは思われない抜群のもので、そこにもられた精神は現代においても無限の教訓と感銘を与えるものである。 ○稚心を去る ○気を振ふ ○志を立つ ○学に勉む ○交友を択ぶ 『啓発録』を英完飜振出版されたのは、当時セーコー電子且謦役研究開発部長であった工学博士紺野大介氏であり、ビジネスや学会で海外に出張することが多く、外国人に接して感ずることは、識者といわれ人物と称せられる人ほど、専門のいかんを問わず自国の歴史と文化を深く理解しており、誇りをもって語られることである。 これに反し日本人はどうであるか。自国の文化とその特色を深く認識し、日本の歴史を誇りをもって語ることができるだろうか。できないのが一般であり、自分もそうであった。日本という国に誇りを待てるような歴史教育を受けてこなかったという自省と懐疑から、改めて四十代になってから日本の歴史に関心を持ち勉強を始め、やがて幕末維新の英傑橋本左内に焦点がしぼられることになったという。それは主として、 一、日本歴史を代表する傑出した政治家であると思われたこと 二、母方の祖母が遠戚関係にあることを聞かされて育っ たことによるものであった。 『啓発録』は、学べば学ぶほど、その内容のすばらしさに引き込まれ、それが徳川時代から明治維新にかけての価値観の結晶であり、日本人の生き方、道徳、倫理、忠誠心、潔さ、美意識などあらゆるものの凝結であるように思はれ、外国人に日本人の心とその生き方の素晴らしさを知ってもらう具体的方法として、この『啓発録』を英完訳し、海外に発信することを決意することになったという。 英訳に当って、最も苦心されたのは、左内の志と格調高い文章を正確に伝えることであった。なかでも「仁」、「志」、「忠義と士道」等々の言葉は、英語の語彙(ターミノロジー)として、表言することは難しく、左内の精神を理解しその志が正しく伝えられる文章として、英訳することは容易ではなく、五年間、土曜・日曜目の休日を利用し飜訳に専念し、平成七年四月に完了した。誤訳を避けるため、外国人一言語学者のカも借り、英語が分る人なら誰が読んでも同じ理解ができるよう、十分に推敲を重ねられた。 出来上った英完訳本は、A4判・八十頁・和装綴私書版の豪華本で、『啓発録』の原文に英訳文を添えた部分を中心とするが、外国読者の理解を助けるため、前半に橋本左内の二十五年の生涯を紹介することに工夫をこらし、その肖像画や、二十五年の生涯の概略、思想形成の基となった学問、自記・書簡・漢詩等の筆墨のはか、左内を追慕した徳川慶喜の書幅・伊藤博文の詩幅等の写真とその英文解説を載せ、後半には参考となる歴史用語・人物の説明・参考文献・図書の英文解説を加え結んでいる。 初版本は、各国の主要大学に寄贈し、日本の国立図書館、中国社会科学院、米国ホワイトハウスにも贈呈された。予期せぬことであったが、クリントン大統領からも礼状が届き、二・三の新聞等でも大きく採りあげられた。『英完訳啓発録』に相当の反応があったわけである。 三、ロンドン大学での講演 この『英完訳啓発録』が英国のケンブリッジ大学及ぴロンドン大学の目にも留まり、博士に講演の招請があり、特にロンドン大学では「二十五歳で刑死した幕末の志士“橋本左内”について」との指定があった。幕末維新の生んだ英才「橋本左内」についての講演は、歴史学の分野であり専門外のことを、英国の一流大学で専門学者を相手に英語で講演することには少なからず戸惑いがあったようだが、大学の強い希望で実現の運びとなった。 講演時間は一時間半。橋本左内が幼少の頃から英才の誉れ高く、二十歳代前半で藩主松平春嶽公を補佐し国政の表舞台に出られ、当時の世界情勢の的確な分析の上に立って、内外に難問題をかかえた幕末の非常事態に対処し、幕府・親藩・外様といった個々の利害を超えて日本国を一家とみなし、広く内政外交にわたり改革を断行せんとした気宇壮大な抱負と経綸を話された。 また、橋本左内刑死の個所では、作家綱淵謙錠の直木賞受賞作『斬』にもふれ、幕府試刀役の首切り山田浅右衛門と吉田寅次郎刑死の様子にも言及し、「人が人を切るということ」をかなり詳しく説明、会場の英人学者は固唾を飲んで聞き入っていたとのことである。 講演後質疑応答の時間が持たれ次のような質問があった。 「数え年十五歳でこのような立派な書を著した人物は西洋人にはいない。一体どのような教育を受けるとこうなるのか」に始まり、 「伊藤博文は吉田松陰の弟子であった筈だ。その彼が、同じ安政の大獄で刑死した橋本左内を尊敬し、墓碑に詩幅をかかげ額づいているが、あと何年か左内が生きて日本の初代の総理大臣になっていたら、日本の方向はかなり変ったか」等々があり、また日本研究家の一人からは、横井小楠の『国是三論』、吉田寅次郎の『留魂録』、佐久間象山の『省侃録』といった幕末維新期の志士達の著述に関し、日本人による英完訳本が殆どないことに関し嘆願にも近い要望もあったとのこと。 講演会では、このような思いもよらない質疑を通じ、近代日本を築いた明治維新と、これを担い志半ばにして倒れられた志上達の活躍が、国境を超え世界の識者に大きな驚きと敬意をもって理解されていることに、改めて考えさせられたと博士は語られる。 『啓発録』の英完訳出版は、以上に見た如く外国で予期以上の関心を集め、また内外から再版の要請も多く寄せられたので、これをもっと広く日本人にも普及し、日本人の素晴らしさを再認識してもらう一助となれぱと、昨年十二月、和綴の初版本を補筆し洋装に改め、市販本『英完訳啓発録』として再版された。 これを何より喜ばれたのは、イスラエルのヘブライ大学教授ベン・アミー・シロー博士であった。博士は日本・アジア史を専攻とし、大学のゼミでは橋本左内論、吉田松陰論の講座をもち、早速『英完訳啓発録』をゼミ学生用のテキストとしてとりあげられた。 因みに、シロー博士はユダヤ文化と日本文化の比較を生涯の研究テーマとし、「天皇制という日本独特の現象を理解しないかぎり、外国人には日本の歴史上のさまざまな現象は理解できないであろう」と論述される知日の学究である。 なお、『英完訳啓発録』に続き、紺野博士は吉田寅次郎が獄中で知友門人への遺言として筆を執られた『留魂録』の英完訳を進めておられる。『留魂録』で吉田寅次郎は、橋本左内についてふれ、一回も会うことなく処刑されたことを嘆じ「死んだ左内を生き還らせ議論したいものだ。嗟夫。」と述懐しておられる。 四、むすび 明治時代、小泉八雲は『神国日本』を、新渡戸稲造は『武士道』を英文で著し、前者では祖先崇拝の日本の神道と日本人の精神形成について考察し、後者では日本人の道徳と武士道について外国人にも理解できるよう論理的に解説し、日本の国柄と日本人の心を海外に伝え、外国人の日本理解に大きく貢献した。当時、アメリカ第二十六代大統領セオドル・ルーズベルトが、『武士道』を読んで深い感銘を受け、数十冊を買い求め、子弟や友人たちに頒ち与え、たことは有名な話であり、当時この書がいかに世界中に大きな反響を及ぼしたかを物語るものである。 今度、橋本左内の『啓発録』が英完訳され、初めて外国人に紹介され、日本人の生き方と道徳・倫理について、また近代日本を生みだした明治維新とこれを担い非命に殉ぜられた志士たちについて、大きな関心と敬意が寄せられたことは、幕末志士の神霊を祭る靖国神社にとっても喜ばしいことと云えよう。 これに関連して思うことは、靖国神社について、 @神社の由来と百三十余年の歴史 A日本人の精神生活と神道の関係 B代表的な例祭神の幾柱 について、これを英文で一書にまとめ海外に紹介発信すれば、多くの国々の識者は靖国神社について正しい理解を持ち、また日本の国柄と日本人の素晴らしさを知ってもらうのに大きく役立つのではなかろうかということである。『英完訳啓発録』の再版をみでこのような思いを深くした。 (『英完訳啓発録』A4判上製一一○頁。錦正社発行。本体定価四七○○円) |