児童福祉審議会意見具申の材料となっている川崎市保育事業基礎調査報告書(以下「報告書」という)
について、私なりに分析してまとめました。意見具申は父母へのアンケート結果をそのまま数値のみ拾
っている感がありますが、その背景にある意味を可能はかぎり探ったつもりです。アンケート自体が親
のニーズという視点のみで保育内容への分析が弱く、不十分であることを痛感しました。
1.0歳保育と育児休暇
認可保育園に0歳から預けている親のうち、その理由として、4月から入所しやすいこと、職場での育
児休暇制度の問題をあげている方が約半数おられます。
0歳児のほぼ5割は、保育事情や職場の環境が改善するなら、もっと育児休暇をとることができるという
ことを示しています。そういう方向での改善策も1つの方向かと思います。
0歳から保育所に預けた理由(%)
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2.”保育内容が良い”の意味するところ
「報告書」の「まとめ」では、”保育内容が充実していることが保育園選択の理由の1つである”とされ
ていますが、その意味することについては触れられていません。
以下のように分析することができると思います。
・公立保育所では、選んだ理由では低いが預けてみて良いという回答は高い。これははじめから、保
育内容は一定レベルであるとの安心が親にはあり、それ以外の点で選んでいると考えられる。
・これと対称的なのが地域保育園で、選んだ理由では一番高い。これは、少しでも良い環境を子ども
に提供したいという親の切実な願いを反映したものだが、しかし、入ってみてどうか、というとき
に数字に変化が見られていない。
「保育内容が良い」との回答率(選択時と預けた後)
3.「臨機応変にみてくれる」ニーズ
地域保育園が臨機応変に預かってくれることは父母から高い評価を得ています。一方、
認可保育園はその点での改善の声があるが、公立、私立認可という運営形態による差
はほとんどありません。
「急用時の対応を改善して欲しい」と「臨機応変に対応してくれる」の比較
4.公立では延長保育が調査後広がった
公立保育園では延長保育実施のためのニーズが強くなっていますが、これは調査時
の延長保育実施率が5割程度であり、その後8割まで引きあがっており、私立認可保
育園と同程度に改善されているのではと想像できます。
5.夜間・休日保育の実施
認可保育園での「夜間・休日保育の実施」の声は、25%存在します。ただし、この人
達がすべて利用したい層とは思えないので、実際のニーズ把握にはこの数字は使えま
せん。実際必要としている人の割合こそつかむ必要があると思いますが、そこが調査
されていません。
6.サービス満足度
サービス満足度についての報告書の分析ですが、満足度指数というのを定義してこ
れに基づいて分析していますが、満足度指数の絶対値にはあまり意味がないにもかか
わらず、「保護者の希望にあった保育が行われていると回答した人は、『保育士がやさ
しく対応してくれる』…・」とのくだりで絶対値で比較しているのは誤りと思われます。
本来は、満足度の高い・低いで差が出ている項目に注目する必要があると思います。
そうすると、「保育時間」「急な残業時の対応」「保育士の数」「保育室の広さ」「保育士の
やさしい対応」「送迎時の保育士との会話」「多様な遊びの取り入れ」などがむしろ影響
が大きいことが分かります。
もう1つ、施設別の満足度について、ピックアップして図示します。これについて、市も全
く分析をしていませんが、保育室の広さについては的を得ているように思われますが、
保育士の数については理解できない結果となっています。送迎時の会話についても公
立保育園では反省すべき点があることを示唆しているようにも読めますが、これだけで
はなんとも難しいところです。評価している親がどこまで保育園について認識しているか、
それと合わせて考えないと読めないと、保育充実の指針にならないと言えると思います。
また「報告書」の「まとめ」において、「4.保育内容や保育サービスの満足度」としてまと
められていますが、保育内容にはいっさい踏み込まれていません。「保育時間や急な残
業時の対応などソフト面については、地域保育園の満足度指数が高い」との記載も誤り
です。保育内容は子どもに対してどういう保育が提供されているかが最も重要なソフト面
であるのに、親に対するサービスのみ語られていますし、調査報告書の大きな欠陥です。
各施設毎の満足度指数(報告書で定義したパラメータ)
7.行事についての意識
行事の実施を希望については、公立・私立認可・地域保育園で明確な傾向が出ています。
地域保育園の場合、比較的乳幼児が多い、転園を希望している、などでそれどころではない
等の父母の条件の違いも影響しているとは思われますが、しかし、全体として残念ながら地
域保育園の親の保育に関する関心が低いという傾向が表れていると思います。
公立と私立認可は入っている層の条件が同じと仮定すれば、公立保育園のほうがすべて
に渡って行事に対する希望が高くなっており、これは、園内で行事が子どもの成長に果たす
役割が親に伝わっており、親の保育に関する意識を高めていることが伺える内容であり、公
立保育園について評価できる結果となっています。
行事について「やってほしい」との回答
8.保育園の場所−自宅の近くか、交通の便利が良いところか
これから保育園を整備すればどこが良いかという問いとして「駅近く」の回答が第3位の
33.2%となっており、これをとりあげて、まとめでは、「『通勤に便利な駅周辺』と回答した
人が3割以上おり、駅前保育所のニーズが伺える」とまとめられていますが、これは誤りだ
と思います。(駅前に作るのが悪いという意味ではないです)
問題は自宅近くという設問がないことです。特に認可保育園の場合、選んだ理由として「自
宅に近い」が70.7%と第一位となっており、駅前よりは自宅近くのほうがニーズが強いと
考えられ、待機児童が多い地域に保育園を数多く作っていくことこそがもとめられています。
また電車通勤者が35%程度しかないことも示されており,駅前ニーズが特に高いとは言え
ません。
9.地域保育園の入園の理由−認可保育園に空きなし
地域保育園の入園理由として「認可保育園の空きがなかったから」というのが35.3%あ
り、これが地域保育園に預ける親の中での潜在的な認可保育園ニーズと考えられます。地
域保育園で1400人が保育されているとおおよそ考えれば、ここだけで500人程度の潜在
的な待機児童が保育されていると見ることができます。
10.幼稚園について
報告書では、いくつかの幼稚園に対して保育への参入の意思を尋ねているが以下のような
回答にまとめられています。参入の意思はあるけれども簡単ではないことがみてとれます。
・保育事業への参入は今のところ考えていない。(A幼稚園)
・学校法人も保育所を経営できるのであれば、今後検討してみたい。(B幼稚園)
・保育園併設は可能とは思うが、敷地に余裕がなく、空き教室が出た場合に考えられる。(C幼稚園)
・今後預かり保育園を充実していくことを考えている。(D幼稚園)
・社会の動きに適応して保育園化を進めていかざるをえないと考えている(E幼稚園)
11.企業参入について
また、最近保育事情(認可外)に参入した企業を対象に認可保育所運営に参入する意思が
あるか訪ねています。これについては、現行の制度では参入は難しいというのが全体的な
傾向です。
・将来は保育所の運営に参入することも検討事項になっているが、現在は白紙(A社)
・規制緩和だけではなく、保育所認可基準の緩和による最低基準の見直しの動向を踏まえ
ながら、参入の可能性を検討する。(B社)
・社会福祉法人などでは、お金を余らすことができず使いきってしまうことになるなど必ずし
も保育の質を上げることに使われていない。公立の払い下げや公設民営方式は大賛成
である。時間内の基礎的保育と時間外の選択的保育に分け、前者は福祉、後者はサー
ビスと位置づけ、利用者負担や公的補助の範囲を区分すべきである。(C社)
・公設民営方式は賛成である。措置費の中から家賃も捻出するとなると経営は難しい。何ら
かの自治体の助成がないと無理と思っている。(D社)
12.今後の入園希望数予測
今後の入園希望者数の計算根拠が簡単に書かれています。これでは分からない点も多
いですが、結局は最近の動向から将来を予測したまでにすぎないということで、社会状況
の変化により変わりえるということだと思います。
入園希望者数は対象児童数と希望率で決まりますが、対象児童数は継続的に減少し、希
望率は着実に増加していくとの予想であり、平成15年がピークでその後下がりますが、し
かし2018年になっても、現在の定員より多い11000人の入園希望者があるという結果
となっています。また、現在、待機児童が多いため申請すらしていない親や公立保育園で
の延長保育の広がりによるニーズ拡大を想定すればさらに希望が増えることは容易に予
想されますので、保育園をある程度増やしても少子化で余ることを心配する必要はないと
思います。
以上