「赤ずきんチャチャ」の世界は、極論すればすべての登場人物がチャチャの事を愛しているところから始まっています。どんなに訳の分からないバケモノが暴れまわっても、チャチャを「邪魔物!」と罵る恋のライバルが現れても、作品全体からあふれ出る愛はいささかの陰りも見せません。
それは登場人物達のお互いの呼び方の気安さを見るだけでも分かるというものです。
チャチャの登場人物達は、それぞれお互いを様々な名前で呼びあいます。
主要三キャラだけを見ても、主人公のチャチャは、愛犬のリーヤとセラビー師匠とマリンからは「チャチャ」、しいねちゃんとお鈴ちゃんからは「チャチャさん」、ドロシーからは「チャー子」と呼ばれ、つづいてリーヤはお鈴ちゃんからは「リーヤさん」、マリンからは「リーヤ君」、他の全ての人からは「リーヤ」と呼び捨てにされ、その中でもドロシーからは「犬」と、ひどい呼び方をされます。
そしてしいねちゃんは、セラビー師匠やうらら学園の校長先生、はては魔王に至るまで、全ての人から「しいねちゃん」と呼ばれます。自己紹介からして、「僕のことはしいねちゃんと呼んで下さい」と、自分の師匠の敵であるはずのチャチャに笑顔で言ってのけるほんわかぶりです。

僕が初めて「赤ずきんチャチャ」を知ったのも、この「呼び方」がきっかけでした。マンガより先にTV版です。ある時、TVの番組覧を何となく眺めていると、アニメ「赤ずきんチャチャ」の短い内容説明の中にあった、「ドロシーちゃん」という文字が目に入ってきました。まあ、童話チックな女の子の名前だなあと思ったわけですが、どうにもその後ろに「ちゃん」が付いているのが気にかかります。
その時の文面を見る限り、どうもそのドロシーというのは敵らしい。敵なのに、「ちゃん付け」で呼ばれている。なんとなく、チャチャ特有のほんわかした空気を、そこで感じたのでした。たまたまその日は時間があったので、そのアニメを見てみました。
それはとても丁寧に作られた、ほんわか、ギャグアニメでした。全般に、登場人物達はただ私欲のためだけに行動しますし、他人の迷惑も顧みません。その殺伐とした空気と、ほんわかが同居するという、類希なるアニメでした。しかも、物語の筋自体が面白い。あっという間の30分でした。途中のCMでその原作コミックの存在を知り、番組終了後すぐに、僕は本屋に自転車を飛ばしました。

アニメは1年ほどの放映期間を終えて打ち切られましたが、原作のマンガは99年12月現在、連載が続いています。
アニメがやっていたころに比べて、登場人物がさらに増えました。超能力者で不幸の塊、現時点で実質上の主役になってしまっている、ほっぺのなるとが素敵なポピー君、しいねちゃんを溺愛するしいねちゃんの両親、姉上激ラブのお鈴ちゃんの弟、ポピー君に一目ぼれのマリンの妹、依頼心が異様に強いやっこちゃんの弟、初登場からいきなりセラビー以上の危険人物に成り上がったチャチャの妹、セラビーの師匠でもあるチャチャの母、ポピー君に異常な執着を見せるロボットの市松君、登場人物中もっとも大人な精神構造をしていると思われるものの、一番の遊び人でもある魔王の平八、そしてセラビーの”父”にして痴呆症をわずらっている謎の美少女リザードさん。
増えたメンバーのほとんどは、誰かの家族です。全ての登場人物は、誰かを溺愛しており、それは輪のように繋がって、チャチャという一点に集約します。その輪を壊そうとする存在には、登場人物達の全力の排除行動が待っています。

何者も、このあまりに盤石な、完全なる愛の世界を乱すことは出来ません。その居心地の良さを楽しむために、僕は少々の恥ずかしさをものともせずに、ピンク色の表紙の少女向け、リボンコミックスを買い続けるのです。


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