スタンリー・キューブリック最後の作品となってしまった「アイズ・ワイド・シャット」を、たまたま見る機会がありました。
キューブリックの訃報が世界中を駆け巡った際に、ニュース等で最後の映画としてこの作品の映像が流れていたので、やたら顔の良い男女が絡み合っているシーンなんかを見た記憶がある、なんて方も多いのではないでしょうか。
なんだかどのニュースでもHなシーンばかりが使われているなあなんて思っていたら、答えは簡単。この映画にはそおゆうシーンしか無かったんです。さすが15才未満鑑賞禁止。

ストーリーには、大きな起伏はありません。まるで僕らの日常のように、安定した毎日と、ちょっとした身の回りの不安が繰り返されるだけです。
それゆえに、映画の中盤で、無意味にやたら顔の良い主人公の医者が、ある奇妙な不思議パーティーに偶然忍び込む場面が、異常な恐怖を生み出します。それまでただのひねくれたホームドラマだったものが、唐突にゴシック・ミステリーに変化します。
際限の無い恐怖が観ている僕らをも包み込みます。喩えるなら、「子供時代、ちょっとしたイタズラが大変な事件に発展してしまって、その犯人探しを大人達がしている場面に立合っている緊張感」とでも言いましょうか。白状してしまえば簡単に済むのかも、という考えと、自分の想像もつかないような大問題になっているんじゃないかという不安感のせめぎ合いです。
そしてこの恐怖は、はっきりとした解決を迎えず、「なんとかやり過ごした」というような形で終結し、映画は淡々と終わります。中盤の、水面に落とされた墨のような恐怖がシンプルに映画を飾っているだけで、あとは本当に起伏の無い映画です。
大変気に入ってしまいました。

同行者も気に入っていたようでしたし、お客さんも随分入っているみたいなので、良い映画なのかもしれませんが、気がかりなのは、僕と一緒に映画館を出たほとんどの人が首をひねっていたことです。
ハリウッド型の分かり易い映画を見なれた人には、楽しみかたが難しい映画かもしれません。でも、よかったら、どうぞ。




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