あまり面白くない映画でした。
ものすごく丁寧に作られた脚本を見ても、1シーン1シーンの考えられた絵作りを見ても、おそらくそれほど多くはなかったであろう予算の中できちんとした作品に仕上げた執念みたいなものが感じられますから、決して、平凡な映画ではありませんでした。きっと、この映画を好きだと言える人も、見た方の中にはいらっしゃることと思います。
原作のマンガを読んでも解るとおり、この作品には、あまり多くの個性的な人物は登場しません。マンガ版は、警察官の日常が、飛びぬけて個性的な二人の主人公を引き立てるために用意され、延々と繰り返されるという作品です。しかし、この劇場版では、主人公二人の活躍もさる事ながら、サブキャラクターたちも精いっぱいの個性を主張して頑張ります。テロVS一般警察という非日常の状況に直面して、恐れ、そして奮い立つサブキャラクターたちは、みんな魅力的でした。
さらに、物語の端々で登場する小技の効いた演出や、マンガ版から受け継がれた特殊設定の数々も、ここでそうくるか!と思わず膝を叩いて唸らされるような使われ方をされていました。全体の流れを見ても、一つの事件と、そこに渦巻く人間ドラマ、そして状況に立ち向かう主人公達をよどみなく描いており、非常に完成度の高い映画になっていると思います。

しかし、まずなによりこの映画に言えることは、作品全体が小さいということです。描かれている人物のすべてが薄っぺらで、語られる能書きは説得力に欠けるものばかりでした。状況設定は正しいのです。日本の警察署は、本格的なテロリストの攻撃に対して驚くほど無力であり、警察がそれに対抗するためのマニュアルを作っていたという設定に無理はなく、それを作り上げた知的犯罪の専門家が謎の疾走を遂げたというプロローグも大変興味を掻き立てられます。
それなのに、それに関わるすべての登場人物が、その状況を理解しているとは到底思えない思い付きの行動を取り、しかしそれで事件は解決してしまいます。
また最大の問題点は、こういった犯罪を描いた物語においてある意味で主役以上に重要な役柄であるはずの犯人が、全く魅力的な人物でなかったことです。見事な手腕で手持ちが少ない戦力であるにも関わらず東京を混乱に陥れ、一つの警察署を完全に制圧してみせ、体制を手玉にとってみせた男が、行動の心理をやすやすと指摘され、自殺に失敗し、組み付されながら主人公たちと談笑するとは何事か!この映画全体の小ささは、この犯人の器の小ささに他なりません。犯人の魅力が皆無であるからこそ、彼との友情の板挟みにあいながら、終始謎の行動を取り続けた主人公たちの上司の魅力も、まったく引き出されなかったのです。

ラストシーンは、主人公たちの小さなパーティです。少々大掛かりな舞台装置を使った小さな物語は、後に何も残さないであっさりと終わります。筋も面白いし、派手なシーンも多いのに、ここまであっさりした印象を受けてしまうのは、まったく人間が描かれていないからです。作り手が最初から大きな話を作ろうとしていたのではないことは、そのラストシーンからも容易に想像できますが、それならば状況設定や舞台設定に凝った、こんな背伸びはやめるべきでした。人間が描かれていない物語ほど、見苦しいものはありません。優れた脚本家は、劇中の登場人物のほんの一言からでさえ、人間の持つ深い苦悩や喜びを、受け手に感じさせることが出来ます。それが出来ない、もしくは、それを行おうという努力をしない者は、表現者の道をあきらめるべきです。この映画の登場人物に、僕は一人足りとも惚れることが出来ませんでした。

大まかなストーリーの相似や、「○○ THE MOVIE」というタイトルから感じていたほど、この映画は「パトレイバー THE MOVIE」に似た映画ではありませんでした。東京や警察といったキーワードを重ねていくと自然に使わざる得ない、例えば河川と船による移動といった部分的にそっくりなシーンはあっても、これだけ異なる作品になっていたという点は評価できると思います。


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