闇に浮かび上がる赤光のライン。
手前から奥、左から右、縦横無尽に引かれたそのラインは、いつのまにか有機的に組み合わさり、立体の空間と擬似的な物体群を作り上げる。その中に放り込まれたあなた。あなたのまわりを包んでいるのは、やはり攻撃的な赤いラインで構成された戦闘機。
その戦闘機を駆って、あなたは宙に浮かび上がる。急加速、旋回、上下左右への水平移動、思いのまま。それどころか、後退、転身、機首を真上に向けてのアクロバットに、背面飛行のままでの高速戦闘。
現実世界ではありえない、空間に対しての完全な自由。
その空間は筒状に構成された敵要塞内の通路で、設置された砲台、迫り来る敵機、地面を逃げ惑う敵兵を視認しながら高速で駆け抜けると、その一番奥には巨大な敵が待ち構えている。しかし、空間に対して自由なあなたは、敵の死角に回り込み、ホバリングでその場に静止、一方的に有利な場所から敵の急所に向かって無慈悲な弾丸を叩き込む。
ある種のリアルな戦闘においては、空間に対してより自由である方が、絶対的な優位を保てるということを、あなたは身を以って知る事が出来る。
あなたがその戦闘機と一体化している限り、なにものもあなたの自由を奪うことはできない。あなたは常に勝利者なのだ。

この圧倒的な自由を体験したことのある方は、実のところ、ほとんどいないのではないでしょうか。
これは、任天堂の野心的ゲームマシン、「バーチャルボーイ(VB)」で、老舗ソフトメーカーT&ESOFTが発売した3Dシューティングゲーム「レッドアラーム」の世界です。
TV画面に映し出される平面の擬似3Dでは無く、左右の目に微妙にずれた画像を見せることで世界を立体に見せる技術を利用した、専用ディスプレイに浮かび上がる赤一色の立体空間。
しかしながら、その、あまりに先進的なハードコンセプトは、どうやら世間のほとんどに認知されなかったようで、新発売ソフトは半年ほどでほぼ死滅し、ハードも市場からあっという間に消えてしまいました。
また、ゲームプレイ後にえらく目が疲労するといった噂が蔓延したことや、このハードを頭部に装着している姿がはたから見るとあまりに情け無かったことも、敗因だったのかもしれません。

さらにいうならば、この「レッドアラーム」以外のソフトは、わざわざVBで発売したことに首をひねりたくなるような、特に目新しい工夫の感じられないゲームがほとんどでした。
「レッドアラーム」級の新感覚3Dゲームがあと二、三種類出ていれば、もう少し、このハードのコンセプトの素晴らしさが、世間に認知されていたかもしれません。しかし、それでも、「レッドアラーム」が優れたゲームソフトであることに変わりはありません。僕は、いまだにこのソフトを遊んでいます。
いつの日か、このハードの設計思想を継いだ、先鋭的な新しいゲームハードが再び僕らの前に現れるまで、僕は時々思い出したようにこのゲームを遊び続けることでしょう。たとえ本物の飛行機を操縦出来たとしても、ここまで空間に対しての自由感覚を味わうことは出来ないでしょうから。


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