ゲームの正体というのはその組み上げられたシステムにあるわけですから、「ゲームを混ぜる」というのはそれぞれのシステムを混ぜ合わせることに他なりません。
では、たとえば、「テトリス」と「ぷよぷよ」を混ぜる、という話が持ち上がったとしましょう。
もちろん、考えるまでも無く、これは無謀な試みです。共に、一般に「落ちモノパズル」と呼ばれるジャンルの人気ゲームですが、「混ぜろ」と言われてはいそうですかとすんなり何物かが出来上がるような単純な話にはなりません。
確かにこの二つのゲームは似ています。しかし、全体には似ていても、細部にシステム上の大きな違いがあり、その違いこそがそれぞれを独立したゲームにしている欠くべからざる要素であり、かつ、他にも数限りなく溢れる「落ちモノパズル」のゲームの中でも、この二作が特に優れた作品に仕上がっている理由そのものなのです。

「どっちも人気があるゲームだから、混ぜればもっと人気が出るだろう。」・・・そんなわけにはいきません。
コンピューターゲームのシステムというのは、基本的には数式によって成り立っていると言えるでしょう。だから、ゲームを混ぜるというのは、その数式を混ぜるということに成ります。
他の言葉に置き換えてみると、つまり「万有引力の方程式と、物質が内包するエネルギーの方程式はどちらもこの世界の根源にかかわる強力な方程式だから、混ぜ合わせればもっとすごい式ができるだろう。」・・・こういうむちゃくちゃな話になるわけです。

ところで、ここ数年、格闘技ブームなんて言われる流れがありますが、その中でも特に興味をもって語られるのが異種格闘技戦というヤツです。
「柔道と空手はどっちが強いんだ?」とか、「プロレスは最強だ!」とか、そういうやつです。
異種格闘技戦を楽しむコツは、試合の前にいろいろと想像を膨らませることです。「掴んでしまえば柔道には誰も勝てないだろう」「いや、掴まれる前に一撃で倒すのだ」「プロレスラーの耐久力ならば空手家の一撃にも耐えられるはずだ」「しかし組み合えば柔道家が強い」などなど、とにかくいろいろ考えてみます。そうして、自分の中で盛り上げてから実際に試合を見に行きます。
そうすると、たとえばその試合が意外な大凡戦、お互い相手の技を恐れて近づかないまま試合時間が終わってしまった、なんてことになっても、ただガックリするのではなく、ブーイングを飛ばすなり、なぜにそうなってしまったかまた考えてみたり、気を取り直して次の戦いに想像を巡らせてみたりといったふうに、それなりに楽しめてしまいます。

「CAPCOMvsSNK」は、そういう要素を本質的に備えている作品です。
ゲームの目的そのものが、「リュウとテリー、どっちが強い?」なわけですから、このゲームのことを考える場合、どうしたってプレイヤーは「クラックシュートを昇竜拳で打ち落とすシーンが見たい!」という妄念にとらわれることになります。

極端な例になりますが、先述の「テトリスvsぷよぷよ」は面白くならなさそうですが、「カードキャプターさくらのテトリス(アリカ社)vsアルルのぷよぷよ(コンパイル社)」ならば、一部のファンには楽しみ方がありそうです。
「CAPCOMvsSNK」を楽しむには、つまりそういう覚悟が必要なわけです。
二つの異なるシステムを組み合わせて作られたものは、なんだかんだいってもそれらとは別のシステムにならざるを得ません。元になっている二つのゲームを生かした、新しいゲームを作るという作業を、「CAPCOMvsSNK」のスタッフは強いられたわけです。
空手家の猛烈な打撃をかいくぐって掴みにいく柔道家、それを見越してフェイントをかける空手家、フェイントにだまされてまともに一撃を食らってしまい、意識が遠のきつつも空手家の道着のすそにすがり付き、次の瞬間豪快な投げを打つ柔道家、そういうものが見たいファンに対して、そういう試合が行われるように、空手のものでも柔道のものでもない、新しいルールを整備するという仕事が必要だったわけです。
実際の異種格闘技戦の時、試合前の交渉でもっとも難航するのは、試合時期やファイトマネーの決め方ではなく、そのルールの部分です。それは、ものすごく難しい仕事です。

さあゲームが出来上がりました。それはもちろん、ストリートファイターでもキングオブファイターズでも無いシステムの、新しいゲームです。
「こんなのリュウじゃない」「こんなの京サマじゃない」そんな意見も出てしまうのは、まさに格闘技の試合で「なぜ顔面パンチが禁止なんだ」「なぜ関節技が禁止なんだ」とブーイングを飛ばす観客と同じ心理だと思います。
でも、空手家と柔道家が同じリングに立っているんです。これだけでもすごく楽しめてしまう人種が、ゲームのファンの中にも少なからずいるわけです。
「CAPCOMvsSNK」が、ゲームとしてどこまで面白いのかというのは、まだ発売されたばかりということもあって未知数ですが、どこまでプレイヤーを楽しませるかという点については、すでに合格点だと思います。実際の異種格闘技戦でも、実は面白いのは試合開始のゴングが鳴るまでだ、という意見もあるくらいですし。

希望を言えば、「バーチャファイター」のシリーズのごとくシステムだけで何ヶ月もあそばせてくれるゲームであってほしいものですけどね。このゲームに限らず、すべてのゲームが。


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