週間少年ジャンプに連載された「キン肉マン」の最後の戦いは、キン肉星の王位をかけた、キン肉マン対キン肉マンスーパーフェニックスの激闘でした。
では、その一つ前の、今日僕がここで語ろうとしているある戦いが、誰と、誰による、どんな戦いだったか、憶えてみえる方がいらっしゃいますか?

と、気張って始めてみましたが、じつは今手元にキン肉マンのコミックスが無いので、記憶に間違いがあるかもしれないことを、先に謝っておきます。(ひょっとしたら、最後のいっこ前の戦いってネプチューンマンVSオメガマンだったような気がしてきまして・・・)
ご容赦をいただいた上で、ここに高らかに宣言いたします。てなしもが考える、ベストバウト・オブ・「キン肉マン」は、連載中ラスト2に描かれた戦い、マンモスマンVSロビンマスクです。

では、順を追って説明いたしましょう。
僕の印象としまして、マンモスマンは、作品中最強の敵超人として描かれていたように思います。
キン肉マンの多くのライバルの中でも、強さ、という点では象徴的存在であったバッファローマンを、正面から戦って破っることができたのは、ほんの数人です。キン肉マン、悪魔将軍、ネプチューンマン・・・・・・しかしその中でも、マンモスマンほど圧倒的な力の差を見せて勝った超人はいませんでした。
パワーにおいてバッファローマンを上回り、残忍さにおいて悪魔超人顔負けの技を使いこなし、ずるい知恵においてもかなりの策士でした。それを念頭において、改めて、「キン肉マン」をまとめて読み返して見てください。マンモスマンが登場する王位争奪戦開始までのエピソードは、まるですべてマンモスマンの強さを表現するためにあったかのような印象を受けるはずです。王位争奪戦に登場した敵超人たちの強さのインフレも、すべてマンモスマンが基点になっています。

そんなマンモスマンに、キン肉マン軍最後の刺客として送り込まれたのが、ロビンマスクでした。初登場は三巻。キン肉マンの親友であり、終生のライバルテリーマンの次に登場した、エリート貴族という設定の強力な超人でした。一時は、放浪の身にまでなってキン肉マンを付狙う復讐鬼となっていたこともありましたが、悪魔超人と戦いはじめたころには、キン肉マン軍団の参謀役として、最も頼れる仲間の一人になっていました。
それまでのライバルであるテリーマンと、ロビンマスクが決定的に違っていたところは、いくつもあります。私生活や私情をなかなか見せないクールなプロフェッショナルであったこと、「前回の超人オリンピックチャンピオン」という”権威”を持っていたこと、格好良い鎧を着ていたこと、そして、「タワーブリッジ」という明確な必殺技を持っていたことなどです。
後にキン肉バスターやキン肉ドライバー、パロスペシャル、改良阿修羅バスターなど多くのすさまじい必殺技が乱れ飛ぶようになるこの作品の中で、まともに登場した最初の必殺技です。そして、作中最後まで、だれもこの技を破ることはできませんでした。マンモスマンでさえも。それはまさにパーフェクトホールドでした。
しかし、その割にロビンマスクは、強さという点ではあまり印象の良くない超人ではないでしょうか。なにせ、最初の悪魔超人編ではアトランティスに敗れ、悪魔騎士編ではジャンクマンに辛勝、続くタッグトーナメントでは準優勝チーム・ヘルミッショネルズに当たって一回戦負け。どれも実のある戦いでしたが、結果はイマイチでした。そんなロビンが燃え上がるのは、王位継承編の一回戦、キン肉マンチームの大将に座っての、敵方の大将キン肉マンマリポーサとの一騎打ちです。技巧派同士の繰り出す多彩な技の好勝負でしたが、アロアノの杖という凶器をマリポーサから奪い、逆に利用してロビンが勝利を収めました。古いプロレス風に言うなら、「凶器による反則勝ち」といったところでしょうか。冗談は置いておきまして、数々の名勝負が生まれた王位継承編の中でも、王位継承候補が王位継承候補以外の超人に敗れた戦いは、なんとこの一戦だけです。
続く二回戦では、キン肉マンと組んで、キン肉マンゼブラ・パルテノン組とのタッグマッチをします。ここでも、ロビンは敵大将に絡み、見事キン肉マン軍勝利のアシストをしてみせます。
ジャンクマン戦のころから高齢超人などと呼ばれていたロビンマスクの才能は、連載終盤に至ってついに、大物喰いという形で発現したのです。
そして彼は、ついに最後の大物、マンモスマンとの戦いに挑むことになります。

ちょっと話が脇にそれますが、こうして考えてみると、テリーマンは不甲斐ないですよねえ。彼の最後の戦いってなんでしたっけ?キング・ザ・100トンとのシーソーマッチの後って、何かありましたっけ。度忘れしてしまって思い出せないです。あ、そういえば、後でラーメンマンに秒殺された充電超人のモーターマンに、ボコボコにされていたような・・・。出来ることなら最終戦の前の露払い、やはり終生のライバルに締めてほしかったように思います。結局、彼はキン肉マンの最高のタッグパートナーとしてしか描かれませんでした。あとは、「そういえば聞いたことがある」「知っているのかテリーマン」というやり取りで御馴染みの、敵の設定の解説役と、くつひもが切れて仲間の敗北を予知することくらい・・・。まったく不甲斐ない。

話を戻します。
王位争奪編最後の決戦、キン肉マン軍対スーパーフェニックス軍の戦いは、「超人予言書」という恐ろしい本の影響下で行われたものでした。
その書物には、すべての時代のありとあらゆる超人のことが記されていて、もし、あるページが失われた場合、そのページに記されていた超人本人も、その存在が消滅するという、とんでもない能力を持った本です。そして、最後の戦いの参加者は、その予言書の中の自分のページを戦いに賭けなければならなかったのです。
最後の戦いの中でも、この書物のページの扱いに関しては、どの超人もとても気を使いました。いつでも火にほうり込めるようになっている予言書が風に煽られ、炎にあぶられる度に、体には激痛が走り、ページの一部が失われると、体の一部が失われたのですから。
しかし、ロビンは違いました。
徹底的な心理戦に勝ち、千載一遇のチャンスをつかんだ彼は、マンモスマンを空中で完全なタワーブリッジの体制に捕らえます。このまま地上に降り立てばタワーブリッジは完成です。ロンドンの跳ね橋のごとく、マンモスマンの背骨は真っ二つになることでしょう。しかし、なんとロビンの足下には、自分の予言書のページを炎の上で支えているたった一本の紐があったのです。このまま落下すれば、それを切断してしまう。周りから、必死でそれをロビンに知らせる声が飛びます。常に理知的で、クールで、やさしかった、その時の、ロビンの言葉です。

「男の勝負に、そんなものが関係あるかぁー!!」

気合もろとも、彼とマンモスマンの体はいともたやすくその紐を引き千切り、予言書を火にくべられ、地獄の苦痛に苦しみながら、彼は人生最後のタワーブリッジでマンモスマンを仕留めたのです。
この一瞬、このシーンを描くために、キン肉マンというマンガがあったのだと、僕は思っています。
その後の、キン肉マン対スーパーフェニックスは、すばらしい戦いではありましたが、決してこの戦いほどのものではありませんでした。


「キン肉マン」というのは、僕くらいの年齢の男子にとって、特別なマンガです。小学校時分に、とにかく、夢中になって読みふけりました。このマンガは、不思議なことに、今読み返してみると、粗ばかりが目立ってしまって、しかもその作品全体の粗さみたいなものを指摘するだけでも、相当面白い内容になってしまいます。
そういう方向としましては、やまぐちじゅんさんという同人作家さんが書かれた「キン肉ボン」という傑作同人誌がありますので、興味のある方は探してみください。商業誌にも企画をそのままコピーされたほど、構成、センスともに抜群の、僕らの世代ならば大笑いできること間違い無しの名著です。ちなみに、商業誌版はあきらかにデッドコピーで、やまぐちさんの著書の半分も面白くありませんでした。
同じ方向を目指していたのでは、あの名著に勝てるとは思えなかったので、思い切って、キン肉マンを賛美する方向でこの文章を書いてみました。商業ベースで、キン肉マン賛美の本もいくつか出ていますが、どれも、心底納得させてくれるものではなく、まったく、子供だましのような内容でした。
今回の内容が、キン肉マンの”良さ”をどこまで表現できているのが、ちょっと自信が無いんですが、もし反響があれば、ラーメンマンの話なんかをまた書いてみたいと思います。掲示板などへの感想、お待ちしております。


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