前にここでお話した「バベルの塔」について、少々その続きを。

一年ほど前に、僕の実家のマンションはまるごと地元のケーブルTVに加入しました。お陰で、一日中アニメや格闘技を堪能出来るようになったのですが、別にマンションに住む人達みんながそれを観たかったわけは無く、高い工事費まで出し合ってそんな事をした理由は、最近、TVの映りが悪くなったから、というものでした。
同じような理由でこの数年の間にケーブルTVやCSに加入された方も、結構いらっしゃるのではないでしょうか。特に、都市部では高層建造物などの電波障害がひどく、そうせざるをえない場合も多いと聞きます。
我が家の場合、ケーブル放送への加入が決まった時点では、TVの画像の入りが悪い理由は不明でした。特に深くも考えずに、そういうものなのかな、と受止めていました。僕の住むマンションは、同じ地上10階建てのマンションが群れのように立ち並ぶ地域の一角にあり、その中でも早い時期に立てられたものだったので、うちのマンションは高い、という自覚がありまして、他の建物のせいでうちに電波障害が起きるという発想が無かったのです。
ところが最近になって、どうやらその犯人が分かってきました。やはり高層建造物。はるか南東の地に並んで二本そびえたつ、名古屋駅新ビル、通称「タワーズ」です。あの双子が、名古屋のTV塔の電波を反射して、その干渉で僕らの住む地域全体に被害が出ていたようなのです。
名古屋駅までの線路はほぼ真っ直ぐ。家のすぐ近くの駅から電車に乗って30分ほどかかりますから、それほど近いというわけではではありません。そんなに影響があるとも思えなかったのですが、電波関係に詳しい友人に聞いてみると、あながちデタラメという感じもしません。

さてさて、ことの真贋は置いておきまして、世界で最も多くの人に読まれている本である聖書には、奢り昂ぶった人々が神に近づこうとして建てた高い塔の話が出てきます。醜く肥大した欲望をさらけ出す人々に対して、神はどうしたか。まず雷を落として塔を砕き、そして神は、人々の言葉を乱しました。それまで言葉の通じ合っていた人々はお互いに意志の疎通が出来なくなり、その後、人々はそれぞれ別の場所に暮らすようになったとか。この事件が、世界各国に異なる言葉がある由来なのだと、聖書には書かれています。
僕は一部の聖書絶対主義者ではないので、もちろん「聖書は現代の電波撹乱の状況を予言していたのだ」なんて思っているわけではありません。ただやはり、この現代社会との奇妙な符合には、興味をひかれます。
聖書が描いていたのは、人類の愚行についてです。悲しいことに、愚かな行為というのは、当事者にはなかなか分かりません。人類が大きな塔を建てまくっているこの世紀末の光景、そして電波という「言葉」を乱された我々の姿。自分で自分の手をツネり、「痛いなあ」と怒っている感覚。
もし、どこか高いところから見ている人がいたら、さぞや滑稽でしょうね。「ああ、昔と同じ事をしておる」なんて笑われている気がします。



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