10月10日

爽快な、長野の三日目の朝です。昨日の成果、具沢山のジコボウ汁を朝ご飯にたっぷりといただいてから、父の生まれた町、真田に向かって出発しました。
父方の実家はもうそこには無いのですが、うちの一族(そんな大した物じゃございやせんが)の本家はまだ真田町にあるので、その家の門の前まで行ってみました。もう何代も離れてしまっているので、今更ご挨拶もしませんでしたが、自分の由来の一端に触れて、不思議な気持ちでした。
戦国時代、武田一族の家臣の武将として活躍した、真田氏の神社があるというので、そこにも参拝。数年前に大改修を行ったそうで、気合の入った大きな神社でしたが、まわりにある小さな祠や木々なんかは古い社の風情を残していて、なかなか楽しめました。
他にも、その辺りには戦国時代に由来する神社仏閣がいくつもあり、それぞれの土産物屋のオバちゃんなんかに縁起の説明を聞きながら、ふらふらとまわりました。

上田市に出て、今日のお目当ての福招亭へ。行列の出来る、中華料理のお店です。その日も、詰め込んでも12人程しか入れない小さな店内から続く行列が、小道の曲がり角まで続いていました。
名物は、ヤキソバ。ソースは使われず、野菜たっぷりのあんが、炒められた麺の上にかけられて出てきます。お好みで、カラシを酢で解いたものを適量振り掛け、麺にあんを絡めてわっしわっしと食べます。香ばしい麺の味わいは、月並みな表現ですが、一度食べたらヤミツキです。金糸卵で表面を覆われたチャーハンも、一度食べたら二度注文せずにはいられないというほどの美味しさで、それら二つを合わせて食べられるチャーハンヤキソバセット(1050円)が、僕のオススメです。
行列が嫌いな父が、このお店だけは並んででも食べたがるという逸品です。上田に行かれた時には、行列の塩梅を見ながら、どうぞお立ち寄りください。

食後に、上田城跡を見学。城門が改修されたばかりとかで、なるほどヒノキの香り漂う、ぴかぴかの門がそこにありました。
城郭の中には、上田市の博物館と、上田出身の芸術家山本鼎の美術館も併設されており、城門内の資料館と合わせて、300円の一つのチケットで三つともまわれてなかなか良心的です。昨日の塩尻湖の資料館はあれっぽっちで500円も・・・。(←まだ根に持っている)
色々なものが展示されていたのですが、現物を眺めてみると、やはり”真剣”の迫力というのは凄いものがあるなあと感じました。真田幸村の佩刀だったという太刀の鈍い輝きは、今でも目に焼き付いて離れません。あとは、小さな細工物なんかも面白かったです。
また、地元の民俗学者が編纂したという、郷土の昔話の小冊子を買うことが出来ました。地元の民話に、その学者の解釈が丁寧に加えられたもので、一読大変に面白く、なかなかの掘り出し物でした。
この日は、志賀高原にも行きました。紅葉にもまだ早いといったシーズンだったため、人出もそれほど無く、のんびりと初秋の高原を楽しむことができました。この日も、途中で、ジコボウを採集出来たので、この分は調理せず、そのまま冷凍して春日井に持ち帰り、同じ信州出身の方にさしあげることにしました。

長野市に戻って、夕食へ。十万石という名前の、長野中心のうどんのフランチャイズ店へ入りました。このお店は、ほうとうを食べさせてくれるので、祖母や父のお気に入りなのです。
運ばれてきたほうとうや、名物の十万石うどんは、信州風の合わせ味噌仕立ての、確かに美味しいものでした。しかしながら、いくらそうするのが長野の流儀とはいっても、そのあまりの盛りのよさに僕は閉口してしまいました。一人一人の目の前に、中サイズのナベが運ばれて来るのです。蓋はされておらず、摺り切り一杯の所まで並々と汁が満たされており、小鉢に取って食べるようになっています。麺も具もおびただしい量で、食べても食べても減りません。あれは、誇張無しに三人前はあったと思います。
これで、650円とか、高くても1000円とかなんですから、まったく文句の付けようも無いんですけどね。
後から来た斜め後ろの御家族連れが、うどんの大盛りを頼んでいたんですけど、運ばれてきた実物を見て、そちらのお父さんもお母さんもびっくりしていた様子でした。汁が零れそうになっている鍋に、うどんが山を作っていたんですから。あれは到底食べきれたとは思えません。
もちろん、僕も食べ残しました。


10月11日

5時30分に起きて、まずは早朝の善光寺へ。まだ6時前だというのに、お年寄りを中心に、大学生風の若い人もちらほらと、かなりの人出です。売店も、いくつか開いています。朝の光の中にそびえる善光寺はなかなかの見物ですが、僕らのお目当てはその見学ではありません。
6時15分ぴったりに、寺門の目の前の宿坊から、数人のお坊さんがやってきます。朝のお勤めに向かわれる、善光寺の貫首さんだと思われる人(実はよく知らないんです)と、その貫首さんに大きな朱色の傘を差し掛ける、これまた位の高そうなお坊さんと、その前を歩く露払いのようなお坊さんです。僕らは、そのお坊さん達がゆっくり歩いてみえる道の脇に、ひざまづいて待ちます。貫首さんは、手に持った数珠で、すずめの子のように並んだ僕らの頭にちょん、ちょん、と、短く、しかしとても丁寧に、触っていってくれます。優しいお顔をしたお坊さんが、これまた優しく触っていってくれて、なんだかとてもありがたい気持ちになります。僕は五歳までこの善光寺の近くに住んでいて、幼い頃この境内でよく遊びましたから、こういう事を有り難がる気持ちが強いのかも知れません。
お坊さん達が本堂に入って、やがて厳かに読経が始まります。その妙音をうかがいながら、本堂をぐるっと一回りし、それから、朝ご飯にはまだ早いので、近くにある、とある有名なスポットに行きました。
皆さん、知らない方はいらっしゃらないと思うんですが、「夕焼け小焼けで日が暮れて〜」という童謡、その中に登場する「山のお寺の鐘が鳴る」の一節に歌われているその鐘、と言われているものが、長野市内のとある場所にあるのです。
かの歌の作詞をされた方が、幼い頃にこの地に住んでみえたそうで、この地で、夕方に鳴る鐘といえば、その鐘なのです。行ってみると、そこには「夕焼け小焼けの鐘」と記された立て札があり、歌詞を刻み込んだ石碑も建てられていました。朝なので、とりあえず一打ち、とはいきませんでしたが、おそらく今でもその付近の子供たちは、この音を頼りに夕遊びをやめ、お家に帰るのでしょう。

帰りの道は、ちょっとした渋滞に巻き込まれてしまって、なかなかに苦労をしました。
途中、塩尻から木曽路に入る入り口付近の、「食堂SA」という、なんとも身も蓋もない名前のドライブインに入ったのですが、ここの食事がメニューも豊富なら味もばっちりで、870円(ちょっと高い)の焼き肉定食を美味しくいただきました。その道路を使う人には人気のお店なんだそうで、お客もひっきりなしに出入りし、活気のある良い定食屋さんでした。自動車でしか来られないような場所にあるのに、一人で来た長距離ドライバーらしき人達がみんなビールを飲んでいたのは、まあ、御愛敬ですね。
その後、中山道の宿場の一つ、奈良井宿でも休憩を取り、そこで旅の記念に、振るとからからと音の鳴るブリキの金魚を購入しました。(僕は、旅行をする度に「音の鳴る玩具」を記念に買うのです)

そこからも、渋滞で塞がった大きな道をひいこら進んだり、近道に挑戦したり、旅慣れたふうのジープについていってショートカットに大成功したりしながら、何とか我が家に辿り着いたのでした。

(おしまい)


back