戦乱が起こると、戦闘術の研究が盛んになります。
日本の近代の夜明け、幕末の時代は、激しい内乱の時代でもあり、渦中の若者たちは、ある者は高名な師について厳しく身を律し、ある者は自己流を貫いて、己の抜刀術に磨きをかけたのでした。
こういった技術が広まっていくうちに、一人、また一人とその道の”天才”と呼ぶしかないような者が現れます。とにかく強い。徒党を組んで襲い掛かっても、ものともせずに皆、なで斬りにしてしまう。しかし、なんとかその天才を斬らねばならない、斬らなければ、時代が変らない、という事態が、そのころには少なからずありました。
すると、またある種の天才によって、「天才を斬る方法」というものが何通りも編み出されます。どれほど修行をしても天才には到底及ばない剣客たちが、それでも天才を斬り殺す方法というものを体得します。そのうちの一つに、「初太刀で殺す」というものがありました。
いきなり襲い掛かって、その一刀めに、文字どおり命を懸けるという、とんでもなく乱暴な方法です。それを避けられたら当然その刺客は返り討ちに遭うわけですが、それを恐れて斬りかかれないような者は、役に立たないとみなされるような時代でした。
もちろん、先制攻撃は近代戦闘においても非常に重要です。最初の一撃で決定的なダメージを与えられれば、その時点で勝負は決します。しかし、それを耐えられてしまうと、手痛い反撃を受けることになります。

セガのドリームキャスト(以下DC)は、ソニーのプレイステーション(以下PS)とのゲーム機競争に一度は敗北したセガが、PSには無い新機能を満載して市場に送り出した、新世代のゲーム機です。
新しいケーム機を出す、という行為に関しては、いろいろと意見があるところですが、まあ、それは今回の論旨から外れるので置いておきまして、とにかくセガはこのDCで家庭用ゲーム市場の巻き返しを図っています。相手は、現時点で国際標準家庭用ゲーム機であるPSと、その後継機プレイステーション2(以下PS2)です。
後発の強みで、DCの性能はPSを大きく引き離しています。PSではできなかったいろいろな遊びが、DCでは出来るようになっています。ところが、2000年3月発売予定のPS2は、さらにDCを遥かに越えた高性能ゲーム機であると発表されています。
情報戦の発達した現代では、先に動いた方は徹底的に研究され、それに対しての必勝法を練られます。じゃんけんのように、後出しの方がなにかにつけて有利なのです。相手がチョキを出しているのが明らかなのですから、確実にグーを出してきます。先に動いた側が相手に勝つためには、幕末の人斬りのごとく、初太刀で勝負を付けて、相手がグーを出す前に勝っている状況を作らねばならないのです。

そして、DCは、その戦法をとってはじめから販売戦略が練られていると、発売当初から僕は感じていました。本体の発売直後から、かつてない良質のゲームソフトが揃えられ、その後も毎月、目玉といえる強力なソフトが連続で発売され、インターネットを使ったサービスも満点です。
いくつかのつまずきもありましたが、結果として家庭用ゲーム機としてはPSや過去の任天堂の傑作ゲーム機スーパーファミコンを遥かに上回るペースで本体は売れています。
しかし、PS2を戦わずして殺してしまうだけのシェアには、到底及んでいません。
セガは、間違いなく本気で、家庭用ゲーム機の覇権を狙っています。そして、いくつかの要素で、それは不可能でないと言えます。その最大のものはDCの発売時期で、発売日からそろそろ1年が経とうとしているわけですが、DC最大の敵PS2が市場に登場するまでには、まだ、あと約半年の猶予があります。この時間的優位の効果は巨大です。つまり、DCの初太刀は、まだ生きているのです。そしてPS2という実物の刃が市場に出て来るまでに、もう一度ゲーム業界最大のかき入れ時である、年末商戦を迎えられるのです。
PS2が出て来るまでの間に、DCをどこまで普及させられるか。どれだけ、DCでしか楽しめない遊びを提示出来るか。ゲーム業界のシェア戦争は、まだこれから半年の間に大きく変る可能性を残していると、僕は考えています。

今日は、「DCはもうだめだ」なんて最近特に声高に言う人がいるので、そんな事はないよ、と自分なりの分析を述べさせていただきました。


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