当事者の一人である僕にはほとんどなんの話も無いまま、気が付くと、僕は今日から父の縁のあるお店でアルバイトをする事になっていました。
あくまでいずれかの企業への「就職」を目標に就職活動を続けていくため、日中は避け、アルバイトの時間は主に夕方から夜にかけてです。
仕事は、店番です。今日はまず品物の種類の違いを学び、レジ打ちの一部を習い、実際に少しの間だけお客さんへの対応もしました。

会社を辞めてもう七ヶ月も経ってしまいました。その間、まったくアルバイトはしませんでしたから、少々の責任を与えられ、自分の体や頭や声帯や笑顔を使って「働く」のも、七ヶ月ぶりです。
自分の体を誰かの為に動かすという事の、面倒さと、ほんのちょっぴりの充実を、久しぶりに思い出せました。
このHPをご覧になっているほとんどの皆さんは、毎日色々な場所で様々に働かれながら、お金を得て、それで電話料金やプロバイダー料金を払っていらっしゃるんだなあって、レジの前に立ってぼんやりしながら考えていました。

「職業に貴賎はない」という言葉はありますが、楽な仕事や大変な仕事というような違いはあるでしょう。僕が今日から始めたアルバイトは、間違いなく楽な仕事です。
立場が社会人であるせいか、同じ仕事をする高校生の皆さんに比べて、どうやら時給も少々良いみたいです。
それで、このアルバイトを続けていけば、来月の末にはちょっとした額のお給料が貰えるわけです。衣、食、住は実家で保証されていますから、プロバイダー料金とテレホ代とWOWOW視聴料金を合わせて7千円ほど払うだけで、あとは毎日を不自由無く暮らしていく事ができてしまいます。
なんと、楽、な立場でしょう。趣味にかけられる時間は、日中にたっぷりとあるのです。

だから、日中は色々な事をします。
読んでいない本を読みます。読んだ本を再読します。映画を観ます。雑誌に目を通します。考え事をします。胸踊るような物語を書きます。街に出て、街の空気を吸います。
贅沢な事に、読まなければいけない本、観なければ行けない映画、追わなければならない情報、考えなければならない事、書かねばならぬ物語、吸わなければならない空気、どれもが膨大な量です。幸せです。困ったものです。
あとは定期的に卒業校の就職課や企業展に出かけ、これは、と思った企業があれば、お話を聞きに行き、僕を採用してくれる企業に出会えるのを気長に待っていればよいのです。

世が不況でなかったのなら、僕はもっと早くに何処かの企業へ就職を決め、この日常を手に入れる事は出来なかったのかもしれません。
当事者としてこの上も無く平和で幸せな、そして他者や関係者から見た時にあまりにも先が不安で儚げな、こういう生活をしている人を、一般にフリーターと言うそうです。
今まではアルバイトもしていなかったので、ただの「社会不適合者」だったんですけど、この度「フリーター」に肩書きが変りました。
今自分がしている生活が本当に意味の無い物なのかどうか、それは途中で「就職」というイベントを挟みつつ、数年のうちにはっきりと証明されてしまうでしょう。僕の中にある、創作や未知の情報への餓えにも似た渇望が癒された時、僕がどれほどの結果を残す事が出来るのか。数年後、僕は人に迷惑をかけない生活をしていられるのか。親や兄弟を安心させている事が出来るのか。
自分に与えられたこの猶予期間は、そういう試練の時でもあります。さあ、色々な事を勉強するぞう。


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