現在でも続いている 超人ロック という歴史あるSFマンガに、「ニケ」という戦闘兵器が出てきたことがありました。
主人公ロックに自分の部隊を全滅させられたストロハイム少佐という軍人が、ロックを倒すために最後に持ち出してきた、本来は使用禁止になっている軍の秘密兵器です。
鎧に身を包んだ女神像のようなデザインの、特殊金属製の人間サイズの兵器です。使用者は専用のヘルメットを装着し、安全な遠隔地から特殊な無線を使用して操縦します。ニケのモニターに写ったものはそのまま操縦者の視覚に投影され、それらの情報を元に、繊細な判断が要求される潜入任務から、備わっている四肢を駆使した格闘戦、内蔵されている膨大な火力や特殊合金製の頑丈なボディを利用した体当たり攻撃などを使っての対戦艦戦闘まで、万能とも呼べる性能を発揮します。
その開発コンセプトは、「個人が使用できる最強の兵器」です。
ただし、この兵器のコントロールには人間の限界を超えるような神経の反応速度が要求されるため、操縦者は麻薬である加速剤を使用し続けなければなりません。それゆえに使用禁止の実験的兵器だったわけですが、ストロハイム少佐はロック憎さのあまりに、軍の倉庫からこれを強奪して使ってしまったわけです。
さらにこのニケは、コンセプトの優秀さからかその後も研究が続けられたようで、ニケマーク4なる後継機も後の話に登場しました。このように超人ロックというマンガは、主人公ロックをとりまくドラマの他に、兵器の開発の流れや人々の風俗が時代とともに変化する様などもさりげなく描写されていて、一度その面白さに気が付いてしまうと、なかなか離れることが出来なくなってしまいます。

ちょっと脇にそれてしまいました。今回の更新は、このニケのプロトタイプとでも呼びたくなるものが、実際に開発されたという話です。場所は日本の九州です。
といっても、軍事兵器としてではありません。人間サイズのプラスチック製の体を持った機械人形を簡単に遠隔コントロールできるハードとソフトのシステムを、福岡のある会社が開発したんだそうです。
TVのニュースのトピックスで見ただけなので詳しいことはわかりませんが、どうやら機体の下部についている車輪で移動するようなので、段差の多いところでは使用できないみたいです。
開発コンセプトは、ずばり老人福祉です。
家から出ることの出来ないご老人が、この機械人形を操縦して、近所の商店街で買い物をすることが出来るわけです。機械のカメラに写ったものは、動画で老人の元に送信されます。声のやり取りも出来るので、知ってる人にあった時に挨拶もできます。それこそ、自由に動かせる目として、観光に出かけることもできます。TVでは、実際に買い物をしているところを写していました。
さて、ここからが凄いのですが、このシステムは、機械の頭脳部分がソフトウエア中心で組み立てられており、メインコンピューターはなんと市販のノートパソコンなんです。しかも、通信部分は市販のPHSを4機同時に使用することでまかなわれており、新しいインフラ整備はまったく必要ありません。
その結果、ハード部分も含めて実際にはいくらくらいで発売されるのかわかりませんが、従来では考えられないような低コストでこのシステムは販売できるそうなのです。
製作者の社長さんは、遠く離れて住んでいる母の肩を叩いてあげる方法はないものかと考えているうちに、このシステムを思い付いたんだそうです。


お金をもってのそのそ歩いているような機械人形は、たやすくイタズラできてしまいます。交通事故を引き起こしてしまうことも多いかもしれません。
課題はいろいろありますが、この「もう一つの体」の発明は、ものすごい可能性を秘めているように思います。
なにより、いつか日本が「こどものくに」になった時、そういう機械が街をてけてけ移動していたりするのは、とても似つかわしい光景ではないですか。


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