思う所あって、漢詩の本をいくつか入手しました。
漢詩文を素読し、いつかは創作までできるようになりたいと思っているのですが、とりあえずは、易しい書き下し文と砕けた口語訳の付いたものから手を付けております。
漢詩といえば、まずは中国最古の詩集である「詩経」にあたることになるわけですが、これに関する解説文の中で紹介されていた孔子の言葉にひどく感銘を受けたので、それをご紹介します。


「詩経」は儒家の経典の一つであるために「詩経」と呼ばれていますが、もとは単に「詩」と言ったんだそうです。
収録作品数は三百五編。これは孔子の時代からほぼ変わっていないようで、「論語」の中でも孔子は「詩三百」と言っています。
それに孔子はこう続けます。

「一言にしてこれを蔽(おお)えば、曰く、思い邪(よこしま)なし。」

「思い邪なし。」一編だけでも読めば胸がいっぱいになって食事も喉を通らなくなるような名詩文が三百五も集まった詩集が、この一言に要約されてしまいます。そこに歌われているのは、すべからく純粋な人の心なのです。
振返ってみて、今、僕らの身の回りに「邪なし」と言い切れるようなものがどれほどあるでしょう?
孔子は「古い時代へ帰れ」と事ある毎に言った人ですが、確かに、古には目を見張るような美しい道徳や人間の心があるなあとため息を吐いてしまいます。


「詩経」の内容の内訳は、恋の歌がまず過半数を占め、あとは農事を歌ったもの、結婚を祝ったもの、悪政を呪ったものなどです。
恋歌に、仕事の歌に、イベントの歌に、世相の歌と、今も昔も、人々が歌の題材に選ぶものは、あまり変わりが無いようです。人の心というのは、変わらない部分があるようです。
だからこそ、二千年以上昔に詠まれた歌が、今も人の心を打つのですね。


ちなみに、僕の買った本に載っている「詩経」の第一詩は、若い男が良い乙女を求めてあちこち探し回り、見つからなくて夜も眠れず寝返りを何度もうち、やっと見つかったらとにかくちやほやするという、本当に今も昔も変わらぬ男女の風景でございました。
さすがに笑ってしまいました。


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