五月九日のことです。
毎年ゴールデンウィーク前後にこんな日があるものですが、僕の住んでいる愛知県西部の気温が突然跳ね上がって、昨日までは25度より下だったのですが、いきなり30度を越えました。
数値的にはっきりと表れた、夏の始まりです。

夕方からいつものように中型店舗の小売業のお店で店番をしておりましたところ、お客さんに声をかけられました。
「はい」
「アイスがドロドロですよ」
冷凍物用ショーケースの冷房装置がほとんど止まっていました。
すでに帰宅していた店長に慌てて電話を入れ、まだ商品として寿命のありそうなものから、どんどん裏の冷蔵倉庫に運び込みます。
普段からお客さんが少ないためにのんびりとした空気の流れている店内が、この時ばかりは大騒ぎです。
近所の社員さんも出てみえて、みんなでわらわらと半分溶けたアイスやら唐揚げやらでいっぱいのカゴを運びました。僕はなぜか冷凍枝豆の袋を引っつかみ、真っ先に運んでいました。もっと高価な商品は沢山あったのに。
思ったより早く、冷房装置の業者さんが来てくれて、あちこちいじりはじめます。
話をうかがうと、今日はそこらじゅうでこんな事が起こっているんだとか。大型の専門的な機械の故障ですから、当然、店員の手には負えず、業者さんが大忙しというわけです。
原因はやはり、急に上昇した気温のせいのようです。

その昔、季節の変わり目や、特定の記念日には、国を挙げてお祭りが開かれました。そういった「変わり目」に、一緒に大きな変化が訪れ、なにか自分たちの周りに大きな災厄が起こらないようにと、祈ったわけです。今でもその名残で、年末年始や個人の誕生日なんかは、自然にお祝いやイベントを行いますよね。
節分なんかはまさに「節」の「分かれ目」ですし、春分の日、秋分の日というのは、昼と夜の長さが全く同じという、まさに季節の変わり目の日なわけです。
こんなときには、何かが起こって当然。何も起こらなければ、それこそ信心の篤い人なら、神仏に感謝するのも当然でしょう。
その昔は神様に祈る専門の職業の方がいらっしゃったわけですが、現代では精密機械の専門職の方がそういう場合に出張ってみえるわけです。
こうしてみると、今も昔も人の営みにはあまり変化が無いように思えます。

機械を業者さんに任せて、アイスが売り物にならなくなってさらに暇な店内で、バイトの相方と取り留めも無い話をしているうちに、話題はレジ近くの棚に一大勢力をはびこらせているカップラーメンに移りました。
これが美味しい、あれは微妙なんて話しているうちに、やがて、即席麺というのは発明の才能が無いと言われている日本人が、世界に誇る三大発明の一つであると、僕が以前本で読んだ内容をとうとうと語りだします。
二つ目の発明品は炊飯器。これで、世界中の人々が、上手にライスを炊き上げ、美味しく食べられるようになりました。
そして三つ目は・・・。
僕は自分の話に夢中になり、それがどんなにすごい発明なのかを語りました。ローマ法王庁にさえ認められている、人類全体の知恵の一つなのです。
ふと見ると、相方の女の子はそっぽを向いていました。心なしか、頬を赤らめているように見えます。
はたと気がつき、僕は口を閉じました。しまった、女の子の前で、オギノ式避妊法の話なんて、するもんじゃなかった。

これも、初夏の陽気が招いた、ちょっとした災厄ですかね。


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