雑誌を買いに、本屋に来ていた。

 なんだ、まだ出ていないじゃないか。
 しょうがない、何か他に出ていないか。

 何だ、あれは。
 なぜ、文庫の平積みの山の中に、匣(はこ)が置いてある?
 ボクの不安を掻きたてる、真っ黒い匣が、いくつもいくつも積み上げられて、あれではまるで。
 そうか。
 あれは文庫版だ。
 あの「魍魎の匣」の文庫版だ。
 もう、随分前に出たものだが、いまだに平積みなのだな。売れているのだろう。
 面白いものな、京極夏彦。分厚いのに、いくらでも読めるものな。

 う。
 違う。「魍魎」ではない。「魍魎」の文庫版は、講談社文庫の棚にきっちりと納まっている。
 これは何だ?
 表紙には・・・
 「狂骨の夢」と書いてある。

 馬鹿な。
 「狂骨」といえば、京極作品としては「姑獲鳥」についで薄く、手に持っても疲れない程度の厚みの本だ。
 こんな、「魍魎」と並べて遜色無い匣が、「狂骨」であるはずが無い。
 こんなにずっしりと重いはずは。
 なんだ。何か手にまとわりつく。
 宣伝の帯か。
 帯に何か模様が。
 じゃまっけだ。趣味の悪い。

 いや違う。これは文字だ。宣伝文だ。
 落ちつけ、文字があるなら読めばいいのだ。

 『加筆400枚』

 匣が「ほう」と鳴いた。

 ボクはその匣がひどく欲しくなって---
 一枚の千円札を取り出し---
 震える腕を抑えながら、二つを重ね、そっとレジに差し出した。


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