遠い未来の話です。
人類は、ジーンライナー、ジーンメジャー、ジーンマイナーの3つに分化しています。ジーンマイナーは僕らとほぼ同じ人類。ジーンメジャーは遺伝子的に進化した特権的階級。そしてジーンライナーは、自分の体を宇宙船に変化させた、もっとも進化した人類。
巨大な富を生む宇宙交易は、宇宙で最も速い移動物体であるジーンライナーたちに独占され、星々の地表や政治権力はジーンメジャーが支配している世界。
主人公は「最速のジーンライナー」ローヌ・バルトの新しい乗組員となった、ジーンメジャーのオルス・ブレイク19歳。彼は、とある理由で、最も危険な船外活動任務「シェルブリット」の要員になります。
彼は、苛立っています。世界のあらゆる事に。僕らと同様に。
物語の骨格は、戦闘ロボット・シェルブリットを通しての、オルスの成長物語といえるでしょう。彼のまわりには、明るく話し掛けて来る同僚の女の子、厳しい上役、操作の難しいロボット等、正統派ロボットSFとしての実にスタンダードな配置がなされています。
しかしながら、作品の根底に流れる、ある種の狂気じみた主張が、この作品の印象を今までに見たことのある全ての創作物から逸脱させます。
似た主張を掲げた作品があったとするならば、それはやはり幾原監督と、その制作グループ「ビーパパス」によって作られた「少女革命ウテナ」だけでしょう。
シェルブリット同士の超高速の宇宙戦闘、抽象的に人間の行動をパターン化するライフゲーム・プログラム、ありとあらゆる小道具にいたるまで機能的に計算し尽くされた宇宙船等、胸踊るようなSF的シュチュエーションの向こうに、殻から出られない人類の苦悩と、「父親」になろうとする者の疾走と、一切に構わず、無情に流れる現実が横たわります。


それにしても、この二者の名前が月刊ニュータイプ誌に並んで載っていた時には、その手があったかと、思わず手を打ち鳴らしました。共に最上級に尊敬するクリエーターでありながら、その二人が共同で作品を作ることがあるなんて、その瞬間までまったく想像していませんでした。
この作品は、永野氏による設定画が章ごとに挟まれた幾原氏の手による小説、という、これまた想像もしなかったフォーマットで発表されたわけですが、どうやら、今後は何らかのメディアミックスも予定されているようです。アニメや、ゲームになるという噂が僕のところには聞こえてきていますが、実際のところはよく分かりません。
とりあえずは、今冬に発売される「シェルブリット2 ABRAXAS」を胸を躍らせて待つとしましょう。二人が、待っているファンを裏切らないタイプのクリエーターであるということは、それぞれの代表作、「劇場版ウテナ」「F.S.S.」で証明されているわけですから。


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