恥ずかしながら僕は、今回が川端康成初体験です。
伊豆をまわる旅をしていた主人公の学生は、旅芸人のグループと行動を共にする事になり、打ち解け、笑い合い、そして別れます。
踊り子の少女にほのかな恋心を持ち、踊り子は主人公になつきます。ほんの数日の出来事ですが、それは主人公の心に温かい感情を膨らませ、別れて乗った船の中で、主人公は涙に暮れます。
生生しさや、惨めさが極力排された、後味の良い、美しい小説です。そういったものに包まれて、これだけ素直に箱根の自然美が描かれているのですから、五度も映画化されたというのもわかります。

また、この作品のヒロインである踊り子は、とても強い少女の殻を被っていますから、銀幕のヒロインに処女のイメージを持たせる意味でも、この作品の映像化は有効だったのでしょう。
映画といえば、日本でロードムービーが発達しなかったのは、おそらくこの小説のように、一山越えると海に出てしまうというような日本の狭さや、もしくは、それぞれの土地に縛られてしまう日本人の性質に原因があるのかもしれない、などと頭に浮かんできました。

それにしても、当然のことですが、この小説は面白かったです。読みながら、自分の心がいいように揺れるのがわかって面白かったです。
文芸春秋社の現代日本文学館のものを手に取ったので、これには一冊の中に十三もの作品が納められており、他にも短編を二、三読んでみたのですが、わりと僕好みの珍妙な話が多く、楽しめました。
まだ目を通していない有名な作品もありますから、近いうちに集中して読んでみようと思います。


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