あなたが一番欲しいものはなんですか?それがある場所がわかっていて、そこへ行く方法が示されていたら、あなたもそこへ行こうとするのでしょうか?

剣道部主将「西園寺莢一(さいおんじきょういち)」が欲しかったのは、少年時代にその存在を信じた、永遠の友情でした。
フェンシング部部長「有栖川樹璃(ありすがわじゅり)」が欲しかったのは、自分の中にある、奇跡を信じる魂を否定するための強い心と、それを可能にしてくれる「奇跡」の到来でした。
天才少年「薫幹(かおるみき)」は、幼いころに失った光さす庭を、そこに確かに存在していた輝くものを取り戻したいと願っていました。
そして、生徒会長「桐生冬芽(きりゅうとうが)」は、ただまっすぐに世界を革命する力を欲していました。

それらは全て、決闘広場の上空に浮かぶ、永遠があるという城に行けば手に入るといいます。そこに行くための方法はただ一つ。薔薇の花嫁「姫宮アンシー」とエンゲージすることです。だから、彼と彼女らはアンシーをめぐって決闘ゲームに明け暮れました。
しかし、彼らの挑戦を退けて最後に薔薇の花嫁とエンゲージしていたのは、自分が王子様になりたいと願う少女「天上ウテナ(てんじょううてな)」でした。ウテナは幼いころ、両親と死に別れて絶望の縁に立っている時に、ディオスという名の少年に永遠のものを見せられて、この世界に帰って来ることができました。その時にディオスに指輪を渡されながら言われた言葉「君がその気高さを失わないならば、いつかこの薔薇の刻印が君を僕の元へと導くだろう」この思い出を胸に、ウテナは王子様になる決意をして生きてきました。

ウテナが少女のころに見せられた「永遠のもの」。それは何だったのでしょうか。永遠であり、奇跡であり、輝くものであり、世界を革命する力であるというもの。
親友を信じることが出来ず、あってはならぬ恋に苦しみ、失われた幸福の時間の中に帰ろうとする彼と彼女たちが、最後に求めたそれがあるという天空に浮かぶ城。
ウテナ以外の、その城にたどり着けなかった彼と彼女らは、頭上に浮かぶその城が本当は幻だったということを知りません。さらには、彼と彼女らが立っているその場所が、すでにその永遠があるという城であったということに、気がつきません。

ウテナが昔見せられた、そして城だと思ってたどり着いてしまった「世界の果て」でウテナが僕らに見せてくれた「永遠のもの」。それをどう読み取るかというのは僕ら視聴者一人一人に与えられた権利なのですが、本論を分かり易く進めるために、僕なりに出した答えをここにはっきり出します。それは気高き思いです。
気高き思いは人から人に受け継がれ、また奇跡のように人の心の中に突如発生します。それを発揮することで、人は誰でも王子様になれます。しかし、気高き思いを持ち続けた人は、己の身を擦り減らし、お姫様を助けるために簡単に命を落とします。そして人々は王子様のことをじきに忘れてしまいます。
そのことに気がついて、気高き思いを持つことをやめた時、王子様は「世界の果て」、つまり、あきらめてしまった存在になってしまいます。「世界の果て」が幾重にも連なって、世界の殻が作られます。間違いなく、この世界は、はじめは王子様の気高き思いによって生まれたのです。しかし、「世界の果て」になってしまった王子達は、世界の中に生まれた気高き思いを飲み込んで、それらを自分達と同じ「世界の果て」に変えてしまうのです。自分達も昔王子様だったから、新しく生まれてくる王子様達の輝きがより妬ましく思えて、取り込んでしまうのです。
「世界の果て」に取り込まれず、気高き思いを持ち続けることが出来た王子様には、世界を革命することができます。たとえ自分は死んでしまったとしても。世界を革命するということは、世界を破壊するということです。そして破壊された世界の外にあるのは、恐ろしい自由です。そこにたどり着いた王子様とお姫様は、やはりいつかまた、その自由の恐ろしさに敗れ、「世界の果て」になっていくのかもしれません。しかし、その中からはまた気高き思いが生まれ、いつか再び世界の殻を破壊するのです。

僕らのまわりに普遍的に存在している、無限に円環する気高き思いと「世界の果て」との戦い。そのほんの一部の、ある世界が革命されるエピソード。それが「少女革命ウテナ」の描いていた物語なのです。
あなたは本当は、世界を革命する力を望んではいませんか?もし、すでにあなたが、気高き思いを見失ってしまっているのだとしても、あなたの魂が本当に諦めていないならば聞こえるはずです。世界の果てを駆け巡る、あの音が。あなたが一度諦めることと引き換えに手に入れた社会的な力。その躍動する音が。気高き思いは奇跡の力、いつ、どこにいても何度でも蘇ります。今のあなたには、あのころには備わっていなかった力があるはずです。さあ行きましょう、あなたの望む世界へ!


次回以降の更新では、「世界とは何か」「他人は存在するか」「ウテナ回り道」「チュチュの不思議な生態」などをやっていこうと思っています。ああ!今日は「ウテナ」で一番言いたかったことが書けたので、気持ちが良いです。



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