「天上ウテナ」とは何者なのか、解き明かしてしまいましょう。
僕は、この問いに対して、番組放映の頃から、はっきりした答えを持っていました。ビデオで何度も見返したり、マンガ版を読んでみたり、関連書籍を読んだり、劇場版を見たりした現在においても、その答えは変わっていません。
ウテナは、「あなた」なのです。これは、別に丁寧で説得力のある論理を構築した上でたどり着いた結論ではありません。まあ、言うなれば直観です。
「少女革命ウテナ」という作品は、ストーリーや映像表現のみならず、その独特の音楽に関してもものすごい個性をもっているわけですが、その七枚ほど発売されている音楽集の三つ目である「体内時計都市オルロイ」の表紙、そこに、僕の直観の由来があります。
図案は、左右に大きく配置された鳳暁生と姫宮アンシー、そしてその両者に挟まれて頼りなげな表情を浮かべ、自分の体を抱いている天上ウテナです。LDの表紙やコレクションカード商品等、「ウテナ」関連の書き下ろしイラストには、こういった、他の登場人物達によって嬲られているウテナ、という図案が多く見られます。この「オルロイ」の表紙もその一つなわけですが、このCDケースは、その上から「UTENA」とロゴの書かれた透明なプラスティックケースに収められる作りになっていまして、それで、一つのパッケージとして完成します。
プラスティックケースにデザインされている、ひときわ大きな「UTENA」の「U」。CDケースが中に収まった時、ちょうどその「U」の中心に、先述の儚げなウテナのイラストが来るようにデザインされているのです。「U」は「you」。「ウテナはyouです」と、パッケージのデザインは訴えているように見えるのです。これだけでは、そんなのこじつけじゃないかトンデモじゃないかと言われそうですが、これで僕の頭の中のウテナのイメージが、はっきりと形になってしまったのだから仕方がありません。

送り手が「あなた」と言った時、その対象は不特定多数の受け手すべてのことになります。「ウテナ」を鑑賞する可能性のある、現代に生きるすべての人たちのことです。
天上ウテナは男装の似合う美少女で、スポーツ万能で、さっぱりとした人に好かれる性格をしていて、学園の人気者です。作品の主人公らしい、特別な人間であるという設定がされています。翻って「あなた」、つまり僕ら自分自身のことを考えてみますと、社会的には、決して特別な人間では無いかもしれませんが、間違いなく自分にとっては、自分は特別な人間です。ところで、設定上では特別な人間であるウテナですが、作中では至極普通の人間として描かれます。ひょっとしたら、登場人物の中で一番まともかもしれません。そして僕らもまた、日常の中では、自分が一番まともであるという価値観の中で生きています。
監督の幾原氏は「ウテナは自分がなりたい人なんだ」と発言していますが、それは、ウテナが気高さをもって生き抜いたことへの憧れの気持ちから出てきた言葉のように思えます。そして、まだ「普通の人間」である僕らは、ウテナを知ることによって、気高い思いを抱いて生きる人間に変わることができるわけです。そういう意味では、幾原氏も「あなた」のうちの一人なのでしょう。

ウテナは元々気高い思いをもっていました。物語の中で、彼女は多くの障害と戦いますが、最後までそれを失うことがなかったから、世界を革命することができました。僕らも、日ごろ意識しなくても、自分の中のどこかに気高い思いを持っているはずです。もし失っていたとしても、気高い思いは奇跡の力なのですから、何度でも、何も無いところからでも僕らの中に蘇ります。そうして気高い思いを持ち続けられる僕ら(=送り手にとっての「あなた」)には、世界を革命することが出来るはずだと、この作品は勇気づけてくれているわけです。これこそ、最終話放映後に画面に表示された、「この薔薇があなたに届きますように−スタッフ一同」というメッセージの中の「薔薇」にあたるもののように、僕には思えます。
ウテナの迷いは僕らの迷い、ウテナの喜びは僕らの喜びなんです。
身に憶えのない状況に翻弄され、正しいと思うことをやって傷つき、友に裏切られ、時に裏切り、それでも純真な善良さを胸に抱いて、伸びやかに生きようとする僕らの姿を、「少女革命ウテナ」は描いているのです。
だから僕は、この作品がいつまで経っても好きなんだと思います。


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