2016年4月号 第362号

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お導師からのメッセージ

odousi-photo  私の書棚に『名著講義』(藤原正彦一著、文芸春秋社刊)が納められています。藤原正彦さんは数学者で、お茶の水女子大学の名誉教授。私はこの先生の随筆集を愛読しています。

 藤原先生がお茶の水女子大生に行った読書ゼミの講義録をまとめて一冊の本にしたのが『名著講義』です。

 講義の中で藤原先生は内村鑑三の『代表的日本人』という著作を取り上げ、学生たちに読ませ、感想を述べさせています。

 内村鑑三は明治時代のキリスト教指導者で、日露戦争にあたっては積極的に非戦論を主張しました。

 名著とされる内村鑑三の『代表的日本人』には西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江籐樹、そして日蓮聖人の五人が代表的な日本人として取り上げられているのですが、この内村鑑三の著作を読んだゼミの学生が日蓮聖人についてどんな感想を懐いたか、『名著講義』の中からその一部を抜粋して紹介してみましょう。

学生 この五人の中で、私が一番かっこいいと思ったのは日蓮です。強い信念を持ち続け、どんな誹誘中傷にあっても己の道を貫いていた。とっても男らしいです!

藤原 あなたは日蓮みたいなタイプにしびれるのですね(笑)
日蓮の信念の強さは確かにものすごい。他宗派を激しく非難するので仏教の敵と言われたり、辻説法をしても冒涜者と罵倒されたり石もて追われるほどでした。他宗の開祖達が有していた後ろ盾もなければ、皇室の庇護もない。とにかくたった一人で自分の教えを広めようと世間に立ち向かったのです。

学生 やはりそれは、当時の仏教が十二宗派にもわかれていることを憂え、「妙法蓮華経」という唯一絶対の真理を世の中に広めなくてはならないと、確固たる目的を抱いていたからだと思います。

藤原 実は法難を彼は初めから予期していました。法華経の行者は迫害されると法華経に書いてあったからです。内村は日蓮についてこう書いています。「彼は独創と独立とによって仏教を日本の宗教たらしめた。彼の宗派のみ独り純粋に日本的である。・・・彼の時までは仏教は印度から日本にまで東方に向って進み、彼の時よりは日本から印度へ改善されたる仏教が西方に向って進むべきであると彼は語っている」

学生 それにしても日蓮のスケールはすごいです。

藤原 その通りです。ただ一方で、弟子などに対しては細やかな愛情を見せやさしい手紙を書いています。内村鑑三はこの圧倒的な大天才日蓮上人を師として憧憬していたのだと思います。そして苦しい時の精神的支えであったのではないでしょうか。

以上が『名著講義』からの抜粋です。

 日蓮聖人は私たち佛立信者にとってはかけがえのない大導師、お祖師さまです。私たちは日蓮聖人の書き残されたご遺文を依りどころとして正しいご信心のあり方を学んでいるのですが、同時に聖人が当時のお弟子、ご信者方に与えられたお手紙類を通して、その慈愛に満ちたお人柄を偲ばせていただくことも忘れてはなりません。私も時にふれてそうした聖人の一面をご紹介していくことにします。ご法門聴聞にお心がけください。

 因に藤原正彦先生は昭和三十年、ラジオから流れる三橋美智也の歌声をはじめて聴いて「この世のものとも思えない美しい歌声」と感動したとも別の随筆で書き綴っています。私と藤原先生は感性が同じなのですね(エヘン)。ただ私は数学が大のニガ手でありました。(ショボン)


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