2016年10月号 第368号
― 荷香 ―
■まだ私が得度させていただいて間もない頃、佛立第十五世日晨上人が揮毫された「荷香」という扁額を拝見して、「荷物の香りって何でしょう?」と先輩に伺ったことがあります。
■先輩が「それは『かこう』といって蓮の花の香りというんだ」と教えてくれました。もう二十年以上前のことです。
■「日落ちて荷心香る」(暑い夏の夕暮れだが、蓮の花の香が遠くから風にのってきてさわやかな気持ちにさせてくれる)という漢詩からきたそうです。
■ある日、別の先輩が「『荷香』にはね。蓮の花が香気を放っているという意味の他に『いついかなる時も自分らしさを失ってはいけない』という意味もあ るんだ」と教えてくれました。
■蓮はどんな泥沼の深いところにあっても、美しい花を咲かせ、周囲に良い香を放ってくれます。どんな境遇にあっても自分らしさを失わない、周囲の人に良き影響を与える人を菩薩といい、そういう人になるために私たちはご信心させていただいております。
■不思議なご縁で今、わたしは香風寺でご奉公させていただいております。「香風」という言葉も同じ意味を持つ法華経の御文です。
■今の自分はどうか・・・。性格、生活を振り返るまでもなく「荷香」にも「香風」にも程遠い状態です。
■夏も終わり、やっと涼しくなりかけた頃、「荷香」という言葉を思い出しました。意味を教えてくれた先輩は、すでに亡くなられております。思い出し た瞬間、先輩の声は「荷香」となって僕の胸に響きました。
■今月から「荷香」を意識した生き方に改良させていただこうと思います。
■先輩というのは有難い存在です。