2000年度 日本第四紀学会論文賞受賞
「植物珪酸体分析からみた最終氷期以降の九州南部における照葉樹林発達史」
古環境研究所 杉山真二 
photo 日本第四紀学会の米倉会長より学会論文賞を授与される。
2000年8月25日
国立歴史民俗博物館
−受賞理由(第四紀通信より)−
  過去の植生を復元する方法として広く用いられている花粉分析法には、研究対象が低湿地に限られるなど方法的限界がある。本論文は、近年発達してきた広範囲の研究対象に適用可能な植物珪酸体分析法により、年代既知の広域テフラ直下の埋没土壌中の植物珪酸体組成を分析し、九州南部における最終間氷期以降の照葉樹林帯の発達過程に関して、以下の諸点を明らかにしている。
  約65,000年前以降の最終氷期の種子島ではシイ属などの照葉樹林が継続して存在し、約11,000年前には薩摩半島でクスノキ科が拡大し始め、約6,300年前までにはシイ属やクスノキ科を主とする照葉樹林が南九州の沿岸部から九州の内陸部にまで拡大していたと推定された。一方、黒ボク土が広く分布する南九州の内陸部ではネザサ節やススキ属などのイネ科主体の草原植生が継続しており、九州南部全域に照葉樹林が拡大したのは約4,200年前以降と推定される。約6,300年前に噴出した幸屋火砕流が及んだ大隈半島南部や薩摩半島南部では、照葉樹林が破壊されススキ属などが繁茂する草原植生に移行した。これらの地域では少なくとも600年間は照葉樹林が回復しなかったと推定されるが、その他の地域では照葉樹林が絶えるほどではなかった.
  本論文は九州南部の台地を中心とする広大な地域を対象とし、長年に亘る埋蔵文化財調査や綿密な野外調査の過程で積み上げられたデータと、それらに裏付けられた結論は極めて説得力があり、最終間氷期以降の日本列島南部における植生の変遷を火山活動との関連で具体的に明らかにした点で高く評価できる。これらの成果をもとに、火山噴火により影響を受けたとされる人間活動、また人間活動が植生変化に及ぼした影響など、相互の関連についてもさらに明らかにされることが期待される。
第四紀研究.38(2),1999.p.109-123.





2002年度 日本第四紀学会論文賞受賞
「都城盆地の累積性黒ボク土における炭素・窒素安定同位体自然存在比の変遷
−植物珪酸体による植生変遷との対応−」
井上 弦・米山忠克・杉山真二・岡田英樹・長友由隆    
photo 2002年8月24日
信州大学
−受賞理由(第四紀通信より)−
  本研究は、南九州の都城盆地に分布する累積性黒ボク土断面の連続(69)試料について、有機炭素・窒素量、C/N比、炭素・窒素同位体比を測定し、以前に同じ露頭で行った植物珪酸体による植生解析の結果と比較して、最終氷期最寒期最寒期(約24.5ka)以降の植生変遷を考察したものである。土壌試料の植物珪酸体と炭素同位体比という全く異なる手法でC3植物とC4植物の寄与率をそれぞれ求め、その結果が相互に類似した変化を示すことから、両手法が過去の植生解析に有効であること示した。また、植物珪酸体分析から算出したイネ科の各植物体(メダケ属、ススキ属、クマザサ属、ヨシ属)の生産量と土壌の炭素同位体比から算出したC3およびC4植物起源炭素量との間に、それぞれの植物体ごとに相関があることを見出し、各時代の主要な植生構成種の変遷を炭素同位体比からも考察した。さらに、アカホヤ火山灰降下によって壊滅的な打撃を受けた植生が回復する時、最初にススキ属のC4植物が進入し、その後メダケ節やネザサ節を主体とするC3植物に取って替わられたという植生変遷も明らかにした。その上、土壌の窒素同位体比は、過去の気候変化とくに乾湿変動(窒素同位体比は、多雨で小さく小雨で大きい)によって変化する可能性が指摘された。このことは今後、花粉分析と土壌の窒素同位体比との関連を詳しく調べてゆく必要性が示唆された。これまで同様な研究がほとんど行われてこなかったことから、第四紀の植生復元には植物珪酸体や花粉分析ばかりでなく、土壌有機物の炭素・窒素同位体比も有効であることを示した意義は大きい。
第四紀研究.40(4),2001.p.307-318.


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