李総監督退任報道を聞いて

平成12年10月16日、多忙な中の息抜きに、会社でインターネットニュースを拾っていると、日刊スポーツに総監督の退任決定報道が出ていた。来年1月31日までの契約が満了した時点で退任するということが報じられており、後任などの情報は一切発表されていない。この件に関する坂田社長のコメントは以下の通り。

「クラブが非常に厳しい経営状況のなか、限られた条件で二年間チームの指揮を執ってくれたことに関して本当に感謝している。
公認ライセンスを持たない李氏を、今季総監督として契約するにあたって、日本サッカー協会から特例は今季限りという指示を受けていた」

さすがにオフィシャルページでこの知らせを確認したときは、軽いショックを受けたが、以前より確度の高い噂、というやつは耳にしていたので、驚きと言うほどには至らなかった。それよりも、今回はスポーツ紙に先行されることなく、正確な情報を発表できていたことに安堵感すら覚えたほどである(過小評価しすぎか?)。ご本人にしても、以前から雑誌等で「2〜3年は自分の時間」と語っていたこともあり、予想よりは短くなったが予測範囲のうち、という任期になったのではないだろうか。

気になるのは、公認ライセンスを持たないことを理由に、退任する、もしくは退任せざるを得ないという印象を受けることである。特に今シーズンに至って、坂田社長と総監督との間に「客の呼べるサッカー」の定義において、多少の乖離があったような印象を受けている。クラブとしての、営業面における知名度、話題性を重要視する姿勢と、監督としての、戦術面における理解度、チームへの貢献を重要視する姿勢と。東京移転を目の前にして、ライセンス問題があろうとなかろうと、クラブとしての判断はやはり退任に傾いたのではないだろうか。

更にこの問題を考えると、「ライセンスを持たずにJクラブ(そこにJ2やJFLを含むかは定かではない)の監督になれるのは2年間が限度である」と取るべきか、「ライセンスを持たずに監督になることはできない」という原則を再確認したのか定かではない。当然Jリーグの姿勢としては後者なのだろうとは思う。とすると、今後実質的な命令権を持つ、監督でなければフロントでもない人物は排除されていくのだろうか。逆にライセンスは持っていなくとも、フロントに身を置いており、現場に実質的な命令権を持つ人物などが登場したらどう扱うのだろうか。

まあ他人のことや未来のことは置くとしても、重要なのはライセンスを取得しなければ、李国秀は今後少なくともJ1クラブで指揮を取ることは出来ないということである。そして本人がその意思を全く見せないことから、表舞台に立って活躍を見せてくれることは当分期待できない。これは日本サッカー界(と言ってもその中の非常に狭い範囲であろうが)の反発、拒絶であろうか。プロの監督としての経験は皆無に近い状態であり、しかも与えられたチームは経験不足でしかも層が薄いという悪条件の中、十分に他のクラブに互して戦えた才幹を無駄にしてはならないと思うのだが。

ここでS級ライセンスの是非について多くは語らないが、日本で実績のない外国人監督が招聘されれば簡単に与えられるのに、国内で長く活動している指導者達はその経験を考慮されないのは残念な気もする。もちろん講習ぐらい受ければいいではないか、という意見もあるだろうが、より積極的な人材登用を考えるなら、一定の実績をあげた監督には認定制度などがあってもいいのではないだろうか。

今後の総監督の動向にも興味があるが、以前、韓国以外の場所で成功したいと発言したこともあり、一時的にしろ若年層の指導に戻る可能性もあるだろうか。なるべくなら日本で大成して欲しいと願うが、韓国人選手の獲得などで築いたパイプを利用して、活躍する未来も面白いかとも思う。
半崩壊チームに着任し、米山、石塚を覚醒させ、中澤に起爆剤を与え、桜井を発掘した。西田にしても、当初不安定な存在だったのが、見る見るうちに成長し、怪我さえしていなければ、と信頼させるプレーヤーにしていった指導力は非凡なものがある。また逆に、起用法では柔軟性を欠いたと考えられる部分や、激しくプレーを追求する面からの選手との衝突などもあった。いずれ別の機会にいい経験であったことを示してくれるだろう。

差し当たってはリーグ戦残り5試合、天皇杯と采配を振るう機会が残されている。資金面と怪我人に泣かされた2年ではあったが、練習試合などでは3バックをまたも志向するなど、意欲は衰えていない様子だ。どうもまだ目指しているサッカーは展開できていないとも思われるのだが、現段階の李サッカーの集大成として注目していきたい。

フロントがこの時期に退任を発表することに、いささか引っかかるところもあるが、上位進出も難しく、降格争いもしそうにない、宙ぶらりんの状況では、そう悪いタイミングでも無いかも知れない。天皇杯に向けて選手が発憤してほしいものだ。そして李サッカーの目指すところを完成に近づけていって欲しい。

余談だが、総監督が退任しても、陰ながらサポートは続けていきたいと思っている。今後の活動のチェックや、ヴェルディでの采配の分析など、地道に李の後に続く道を追ってみるつもりだ。

10/16 2000 byさわ

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