作 品 解 説

第32回 埼玉書道三十人展作品ー1

建礼門院の涙 (平成19年 第32回埼玉書道三十人展出品作)

題名 「建礼門院の涙

  また十念の御為に 西へ向はせおはしまし

    
今ぞ知る 御裳濯川の流れには 波の底にも 都ありとは

  これを最期の御製にて 千尋の底に入り給ふ

  みづからも続いて沈みしを 源氏の武士取り上げて かひなき命ながらへ

  再び 龍顔に逢ひ奉り 不覚の涙に袖をしをるぞ 恥かしき


                   出典 
謡曲「大原御幸」より

解説

幼帝安徳天皇を擁し西国へ落ちていった平家一門が壇ノ浦の合戦で義経率いる源氏に敗れた時、安徳帝の母建礼門院は、幼い帝とともに入水を図ったが、独り源氏方の手に命を救われた。
その後、洛北大原の寂光院にこもり、亡き帝や平家一門の冥福を祈る日々を送っていた建礼門院を、頼朝の目をはばかりながら訪ねてきた後白河法皇との久々の再会を描いたのが世阿弥の名作「大原御幸」である。乱世の世とはいいながら、有為転変を重ねてきた二人の胸には万感の思いが満ち、建礼門院は六道の有様を見るが如き合戦のありさまや独り生き残った辛い思いを法皇に語る。

昨年五月、芸術院会員・人間国宝の宝生閑と藤田大五郎がワキと笛をつとめる中、能楽界の最長老の今井泰男のシテ(建礼門院)の語りは、淡々として建礼門院の悲運を聞かせ、幽玄の世界へと運んでくれた

昨年度の日展作「建礼門院の歎き」に続く連作として「建礼門院の涙」と題し、書き上げた。

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