作 品 解 説

             第34回 埼玉書道三十人展作品
             第16回 書展天池作品       

              
         甲信遊草 (平成21年 第34回埼玉書道三十人展 第16回書展天池出品作)

題名 「甲信遊草

   二十五日上諏訪に至る。久保田山百合道にありて予を待つ。一見旧の如く相携へて旅亭にゆく。
   二十六日 諸同人遠近相会する者十余人。徹夜歌を詠む

 汲湯くみゆして 小舟をぶねこぎ行く 諏訪少女すはをとめうみの片面かたもは 時雨しぐれふりつつ

 諏訪の海うみの 片辺かたへうづめて 広らなる 汽車とまりどは 今成らんとす

   二十七日山百合・千洲・柳之戸・竹舟郎と予と合して五人、蓼科の麓、北山村巌の湯に赴く。
   又新湯の名あり。途中竹舟郎は妨げ起りて家に帰る。此夜湯に浴し炉を囲みて途上属目を賦す

 天あめそそり み雪ふりつむ 八やつヶ嶽たけ 見つつを来れば 雲岫くきを出づ

 ひさかたの 青雲あをぐもたかく 八ヶ嶽 峰みね八つならぶ 雪のいかしさ

 岡の辺の 茅生ちふの茨いばらの 立ち枝えだは 茜あかねせりけり 霜をしみかも

        出典 
中公文庫「日本の詩歌3
(伊藤左千夫「左千夫歌集」)」より

解説

小説「野菊の墓」の作者としても有名な歌人伊藤左千夫が明治37年11月、甲斐、信濃を旅し、
地元の歌人達と歌を詠みあった。詞書にある久保田山百合とは当時諏訪に住んでいた歌人島木赤彦
のことであり、この時二人が初めて会ったことが記されている。
左千夫の歌に対する情熱と、信州で見た諏訪湖、八ヶ岳の美しい景色が手にとるように感じられ、
その感じるままを10尺×8尺の大紙面に表現してみた。

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