題名 「建礼門院の歎き」
されば 天上てんじょうの楽しみも 身に白露しらつゆの玉葛たまかづら
ながらへ果てぬ 年月としつきも つひに 五衰ごすいの衰への
消えもやられぬ命のうちに 六道ろくどうの巷ちまたに迷ひしなり
出典 謡曲「大原御幸」より
解説
幼帝安徳天皇を擁し西国へ落ちていった平家一門が壇ノ浦の合戦で義経率いる源氏に敗れた時、安徳帝の母建礼門院は、幼い帝とともに入水を図ったが、独り源氏方の手に命を救われた。
その後、洛北大原の寂光院にこもり、亡き帝や平家一門の冥福を祈る日々を送っていた建礼門院を、頼朝の目をはばかりながら訪ねてきた後白河法皇との久々の再会を描いたのが世阿弥の名作「大原御幸」である。乱世の世とはいいながら、有為転変を重ねてきた二人の胸には万感の思いが満ち、建礼門院は六道の有様を見るが如き合戦のありさまや独り生き残った辛い思いを法皇に語る。
今年五月、芸術院会員・人間国宝の宝生閑と藤田大五郎がワキと笛をつとめる中、能楽界の最長老の今井泰男のシテ(建礼門院)の語りは、淡々として建礼門院の悲運を聞かせ、幽玄の世界へと運んでくれた。
今回の日展作は、この「大原御幸」から建礼門院の語りの一部に題材を求め、「建礼門院の歎き」と題名した。
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