作品写真をクリックすると拡大写真が見られます
題名 「飲酒 其七 いんしゅ そのしち」
釈文
秋菊有佳色 ? 露? 其英 汎此忘憂物 遠我遺世情
一觴雖独進 杯尽壺自傾 日入群動息 帰鳥趨林鳴
嘯傲東軒下 聊復得此生
通読
秋菊しゅうぎく 佳色かしょく有あり 露に?ぬれたる其その英はなぶさを?つみ
此この忘憂ぼうゆうの物ものに汎うかべて 我わが世よを遺わするるの情じょうを遠とおくす
一觴いっしょう 独ひとり進すすむと雖いえども 杯はい 尽つき 壺つぼも自おのずから傾かたむく
日ひ 入いりて 群動ぐんどう 息やみ 帰鳥きちょう 林はやしに趨おもむきて鳴なく
嘯傲しょうごうす 東軒とうけんの下もと 聊いささか復また此この生せいを得えたり
出典 陶淵明詩とうえんめいし「飲酒いんしゅ其七そのしち」より
(お詫び:2文字ほど活字がなく、表示できません。)
通釈
秋、菊は美しい色をして咲いている。しっとりと露に濡れたその花弁はなびらを摘んで、この「憂いを忘るる物」といわれる
酒の上に浮かべて飲むと、世俗から遠ざかった私の気持ちは、更にぐっと深まってくる。
盃はたった一つ、独り手酌でやっているのだが、飲み干し飲み干ししているうち、いつしか壺も傾けなけねばなら
ぬほど残り少なくなってきた。
ふと、外を見ると、日が西の山に落ち、諸々のざわめきもやんで、あたりは静まりかえったが、塒ねぐらに帰る鳥たちが
林をめざして鳴き渡って行く。
部屋の東の窓辺で、ふうーっと身も心もほぐしたような気持ちになる時、何とか今日もまずまず生き得たのだと、
しみじみ感じるのだ。
解説
陶淵明の飲酒と題される20首の中の7番目の詩。この一連の詩は有名で、昨年の日展作品は5番目の詩、今回
はその続編である。
飲酒と題されてはいるものの、必ずしも酒がテーマではなく、軍閥どもの血なまぐさい駆け引き、その下であえ
ぐ農民、それをよそに清談と称して現実とうらはらな哲学談義にふける知識人たち、そうした社会の中にあって、
盃をふくみつつ、また壺をなでつつ、心に浮かびまた沈む感情と思想を、ゆくりなくも表白している。
この7番目の詩も、隠者の象徴である菊を「忘憂の物(ぼうゆうのもの)」といわれる酒に浮かべ、独り盃を傾
けながら、ふうーっと気持ちがほぐれた時、世俗から遠ざかった自分の生と心をしみじみ感じると詠った詩で、
陶淵明の煩わしさにとらわれない超然と暮らす心境と姿がうかがえる。