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◆◇◆ 忘れ物 ◆◇◆

私の作品は何か足りない。
構図、被写体、カメラワーク、全て完璧。
それは自分が描いていたものと同じ。
でも、何か伝わらない。
何故だろう?
足りないものを探して、完璧を求めリテイク。
でも何かが足りない。
美しいのに、それだけの映像。

つまらない、つまらない、つまらない…

本当に私の描きたいものは完璧なの?

分からない。
じゃ、私は何を撮りたいの?

分からない。


最近、専属の撮影助手がついた。
見ていると正直「いらつく」。
何故?
素人だから?
きっとそう。
プロを目指す為には、スタッフも完璧でなければならない。
あまったフィルムで助手の行動を記録。
後で不手際を注意しよう。

ファインダー越しの助手。
こちらに気がつかないくらい、一生懸命に片付けている。
…真剣。
でも、やっぱり手際が悪い。
ほら、終わるまで昨日より7秒も多い。

スイッチを切る瞬間。
こちらに気づいて振り返る。
ファインダー越しの目と目。
そしてカレは苦笑い。

やられた。
動けなかった。
たったそれだけなのに…。
完璧なはずの私が…どうして良いか分からない。
時間にして、およそ100フレーム。
それは私のそれまでの作品を足しても届かない。
そのくらい私を捕らえてしまった。

…少しだけ分かった気がした。
今の自分に足りないもの。
プライドの代わりに過去に置き忘れてきてしまったもの。
カレとなら、今からでも間に合いそうな気がする。
それは多分、今でもそこにあるはずだから。


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