第12回日本水環境学会シンポジウム
生き物から水環境を考える(PartW)〜データは語る〜
日本水環境学会シンポジウム9月15日(火)午後13:30−17:00 | |
お茶の水女子大学にて開催 | |
「生き物から水環境を考える」も4回めとなり、水質指標としてではなく生物自体が語るデータについてのセッションを企画した。 | |
1) 生物群集構造と水質の相互関係−諏訪湖と霞ヶ浦から学んだこと− | |
花里孝幸(信州大・山岳科学総研) | |
生物群集は徐々に変わるのではなく、他の生物群集や水質などとの相互関係である臨界を越えると劇的に変化する。例えば、ある程度の透明度がないと光不足で水草は増えず、ある程度以上増えると透明度の上昇にも寄与する。水質浄化は湖水中の植物プランクトンを減少させ、ひいては湖内のほとんど全ての生物の生産量も下げることになり、プランクトン食魚であるワカサギ等の漁獲量は減少するという影響もある。 |
|
2) 写真判読による水生植物群落の経年変化把握と生育環境との関連性−美々川上流部について− | |
櫻井善文(ドーコン)、片桐浩司(セ・プラン)、佐藤孝司(ドーコン)、余湖典昭(北海学園大・工) | |
美々川では、橋梁の架け替え工事後、クサヨシ群落が拡大し、優占となって他の水生植物が消滅していることが工事前後の写真判読から確認された。これは、河道の拡幅によって流速が低下し、流速の遅い箇所で植物残渣や底泥の堆積が起きたことや、季節的な変動も低下した結果、堆積物が除去されることもなくなってクサヨシに有利な条件が持続していることによる。水生生物の生育環境には、その物理的条件が大きな影響を与えている。 |
|
3) 植生の変化が水質に及ぼす影響−「塚の杁池」33年間の調査から | |
土山ふみ(名古屋市 環科研) | |
このため池では、33年間池及び集水域の環境にはほとんど変化がなかったが、帰化植物の侵入により植生が劇的に変化し、それに伴って水質も大きく変動した。 |
|
4) 底生生物の語る水質、語らぬ水質 | |
風間ふたば(山梨大院・国際流域環境研究センター) | |
底生生物は、水質のモニターというより、それぞれの場で食物連鎖を通してエネルギーや物質を伝達しているのであり、水質測定では知ることができないその場の生育環境を教えてくれる。水質調査と生物調査の結果に戸惑って、生物調査はあてにならないと判断してはならない。底生生物は必ずしも“利水のための水質監視”に便利な情報を与えてくれるわけではないが、生き物の姿を真摯に観察し、もっと広い視野で水環境を見ようとすれば、有用な情報を語ってくれる。 |
|
5) 利根川上流域のアユの漁獲高はなぜ少なくなったか | |
土屋十圀、三崎貴弘(前橋工科大院・工) | |
水面の光量子量は水深とともに低減し、この低減率は水中の浮遊物質濃度に影響される。利根川の高濁度は付着藻類の増殖にとって阻害要因であり、藻類増殖速度は千曲川の1/25〜1/10と低い。アユの漁獲高が大きかったころに比べ、現在、利根川の短期的流量変動は規模・頻度ともに増大しており、急激な流量変動によるSSの増加に伴う付着藻類の増殖阻害、高流量時の物理的剥離などによって、アユの生育環境に悪影響を与えている。 |
|
総合討論 | |
近年の私たちの暮らしが生態系に与えているインパクトが、私たちの生活自体へのマイナスの影響につながっているという認識から生物多様性を確保する必然性が理解され、人と自然とが共生する社会形成が求められている。しかし、具体的にどのような行為が生態系にどのような影響を与えているか、どのような自然との共生方法が望ましいのかについては十分に理解できているわけではない。多くの人々が水域を水環境ではなく水資源ととらえ、水質以外の評価の仕方を考えてこなかったことも、簡単に答えが出せない理由の一つと思われる。 今回の議論の中で、ある種のかく乱を人為的に行う行為が豊かな生態系を保っていたのであり、富栄養化状況の改善後は、誰かが自然への介入を行う覚悟をしなければならないことが指摘された。私たちにとって望ましい環境(様々な立場による対立も含む)を科学的に考えてゆくためには、生物たちの物語を知ることが必要である。その“方法論”が得られ、判りやすい形で、たとえば環境省が公表した新しい水環境指標(水辺の健やかさ調べ:http://www.env.go.jp/water/wsi/index.html)の内容に学術的な補完ができれば、市民と専門家が協力した調査を日本のあちこちで始められるかも知れない。 |
|